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甘い香りで私を誘う

数年前のある冬の休日のこと。
何用だったか忘れたが、私は近くのホームセンターに立ち寄った。ホームセンターは大好きだ。正しく言うと、ホームセンターの「香り」が大好きだ。
娘を妊娠した時から、ホームセンターの香りが大好きになった私。特に洗剤などが置かれている日用品のコーナーの香りが、一番いい香りだと思っている。ここでは「匂い」などと言わずに「香り」と敢えて言う。それ位この香りが、良い香りなのだということを強く言いたいのだ。あまりのいい香りに、思わず「本当にホームセンターの香りっていい香りねぇ~!」と、うっとり顔で言うと、大抵の人は全く理解できないよと言う目で私を見る。
だが、私はめげない。いい香りは、いい香りなのだ。
この香りを私と同じくらい好きだと言う人間は、他にもいる。それは娘だ。彼女も同じくらいホームセンターでうっとりするのだ。キッカケが娘の妊娠だったので、やはりその影響があるのだろうか。

この日訪れたホームセンターは、私の中でも上位ランクの店だった。
他のホームセンターよりも品数が豊富なばかりか、芳香を放つ優れた店だ。ホームセンターだからといって、どこの香りでも良いわけではない。当然、店によって香りの優劣はあるものなのだ。
そしてこのホームセンターの多肉植物コーナーは、他のホームセンターより充実している。香り・多肉コーナーの充実・他の品揃え。ホームセンターなランキングの上位に入る必須項目といえよう。
そして毎回訪れる際、購入意欲があろうが無かろうが、多肉コーナーに必ず立ち寄る。立ち寄るというよりは、蜜蜂が花に吸い寄せられるように、タニラーが多肉植物に吸い寄せられていると言った方が正しい気がする。多肉植物を一目だけでもいいから見たいのだ。これはタニラーの習性と言うしかない。

ところで、他のタニラーさんは分からないが、私は夏と冬の期間、多肉植物の購入を控えている。何故なら大抵の多肉植物は、春と秋が活動の季節であり、夏と冬は耐え忍ぶ季節なのだと、私は認識しているからだ。
タニラーの中では常識なのだが、多肉植物は夏型・冬型・春秋型の三つに分けられる。活動期で区分されているのだ。
ならば夏型は、夏だけが活動期と思われるかもしれないが、実はそうではない。夏型というのは、春から秋までが活動期なのだ。春秋型と違う点は、夏に休眠しているか、していないかだけだ。
その夏型の多肉植物でさえ、やはり夏場は弱っているように見える。昨今の夏が異常に暑いからだろうか。
兎に角、何型だろうが、春や秋の穏やかな季節の方が活き活きと育つのでは?と私は考えている。そういう訳で、リスクを背負ってまで夏や冬に多肉植物を買うのはどうかと思っているのだ。
そこまで考察しておきながら、それでも毎年私は欲望に完敗してしまう。
真冬だろうが、気が付くと鉢を持って、レジに並んでいることが多々あるのだ。これ程多いと、これもまたタニラーの習性と言わざるを得ないと思うのだが、どうだろう。

あの冬の日も、私はホームセンターにある多肉コーナーに吸い寄せられた。
いつものようにウロウロしながら、一つ一つ多肉植物を見ていると、フサフサした毛に覆われた丸くて可愛らしい葉っぱを見つけた。私は、丸い形の葉っぱにとても弱い。無条件に、可愛らしく感じてしまうのだ。
間近で見ようと近づいたその時、仄かに良い香りがした。初めて、香り付き多肉に出会った瞬間だった。その多肉はプレクトランサス属のアロマフィカスといい、シソ科のハーブだった。
この時、多肉歴3年であったのにも関わらず、ハーブの多肉植物が存在するとは知らなかった。そしてアロマフィカスの香りの良いことと言ったら!ホームセンターの香りといい勝負ではないか。
ハーブ独特の爽やかさの中に、ほんのりとした甘さがあり、私にとって中毒性のある香りだった。多肉植物を目で楽しむだけでなく、香りを楽しむことが出来るなんて素晴らしいではないか。
この出会いに痛く感激した私は、あくまでも本能に従いアロマフィカスを手に取り、レジの前に並んだのだった。もう一度言っておくが、これは決して欲望ではない。タニラーの本能なのだ。

本能(衝動)でアロマフィカスを買ってしまったが、耐寒温度が10度だと知ったのは帰宅してからだった。
その時の最低気温は、零度くらいだったか。どちらにしても、まだまだ真冬だった。天地がひっくり返っても、最低気温が10度を上回ることはない。
そもそも耐寒温度が10度ということは、多肉植物の中でも滅法寒さに弱いタイプということだ。この場合、やはりマジカルキューティー並にVIP待遇でいかなくてはならないと思った。
マジカルキューティーは、日本では冬越え出来ないほど耐寒性が低く、我が家の一番暖かい場所でVIP待遇で、冬越えの真っ最中だった。
アロマフィカスも、春になる前に枯れてしまっては元も子もない。
早速、我が家で一番暖かい場所(マジカルキューティーの横)に置いた。そしてマジカルキューティーと同じ手厚い待遇を受けたのだ。

ところで度々疑問に思うことがあるのだが、寒さに弱いタイプの多肉植物を、真冬に売るのは何故だろう。アロマフィカスも耐寒温度が10度と、寒さに非常に弱いタイプの多肉植物であった。
因みに寒さに弱いジャイアントラビットなどのウサギ系も、晩秋から見かけることが多かった。こちらも耐寒温度が10度と寒さにとても弱い。寒空の下、店頭で震えながら耐えている多肉植物を思うと可哀想で仕方ない。
どうせ売るなら、寒さに比較的強いセンペルビウムやセダムなど沢山入荷してくれれば良いのにと思う。私が無類のセンペルビウム好きということは取り敢えず横に置いておいて、これはタニラーとしても安心して購入できる案だと思うのだがどうだろうか。

さて、VIPエリアで無事越冬できたアロマフィカスは今、ベランダでよい香りを放ちながら活き活きと育っている。
爽やかで甘い香りを放ち、私を嗅覚で癒してくれている。
そして、このアロマフィカスとの出会いが、私の多肉ライフに変化をもたらすのであった。


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