大藪裁判 第三回公判リポート 3

2022年5月11日
前橋地方裁判所で、大藪龍二郎氏の大麻取締法違反事件の第三回公判が行われた。今回は、大藪さんに職務質問を行った警部補に対しての証人尋問が実施された。
検察側による主尋問では職務質問を行っていった経緯を時間軸で確認していった。警部補の疑いは、「運転席のドアを全開にして登坂車線の真ん中に停車していた」「クルマに細かいキズがついていた」「大藪さんの目がトロンとしていて落ち着きがなかった」ことから、交通事故や飲酒、無免許の疑いがあるとして、職務質問を開始した。
その後、免許証をデータベースに照会したところ、以前に他の大麻事犯について任意で捜査協力をし、起訴猶予となったことなどから、大麻取締法違反の疑いに移行していった。
丸井主任弁護人は、警部補の行動が適正な手続きによって行われているかについて、ひとつひとつ確認しながら反対尋問を行っていった。
通常行われているこのような職務質問は、果たして適正なのだろうか?

弁護側の反対尋問は、石塚弁護士によって、さらに進んでいく。


丸井主任弁護士が着席すると、石塚弁護士はゆっくりと立ち上がり一礼をすると、穏やかな口調で証人に問いかけた。

弁護人(石塚)
今の流れの話は、当初の段階は道路交通法違反を主に疑っていたと、それで本人の身元の確認等をされたということでよろしいですか。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
で、本人が出てこられて、その段階で身分証明書も見せられたわけですよね。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
その段階では、道路交通法違反の疑いだったということでよろしいですか。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
その後に、先ほどから出ている前歴という表現で、照会をされたんですよね。

塚田警部補
はい。照会をして、前歴が分かりました。

弁護人(石塚)
先ほどちょっとお伺いしようと思ったんですけど、その前歴というのは何だったんですか。

塚田警部補
大麻取締法です。

弁護人(石塚)
それは、照会をすると、警察の通信の中でお答えがあるんですよね。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
覚えておられたら、そのときにどういう表現でお答えがあったかということを言っていただけますか。

塚田警部補
照会を実施したのが相勤者なので、私ではありません。

弁護人(石塚)
何というお方ですか。相勤者のお名前を教えてください。

塚田警部補
宮永巡査長です。

裁判官
例えば、前歴といっても、先ほどのお話にもありましたけれども、不起訴とか起訴猶予とかそういうのがあるじゃないですか。

塚田警部補
はい。

裁判官
その段階で、前歴の具体的な内容というのは連絡はあったんですか、なかったんですか。

塚田警部補
その内容はありません。

弁護人(石塚)
これは検察官から開示された調書がありまして、その宮永さんという方だと思うんですけれども、明確に、令和2年に大麻取締、起訴猶予、というふうに宮永さんがお答えになっているんですけれども、それはあなたは一緒におられても知らなかったということですか。

塚田警部補
当時はメモを見せられておりましたので、そこまでの詳しい内容は確認しておりません。

弁護人(石塚)
そのメモというのは、何が書かれていたんですか。

塚田警部補
大麻取締法という記載がありました。

弁護人(石塚)
それは被告人は見ていないですね。

塚田警部補
被告人については、分かりません。

弁護人(石塚)
宮永さんからあなたに見せられたということでよろしいですか。

塚田警部補
はい。

裁判官
そうすると、前歴照会の関係で直接やり取りをしたのは宮永さんなんですかね。

塚田警部補
はい。

裁判官
その官永さんから聞いて、あなたは前歴があるというふうに把握したと。

塚田警部補
はい。

裁判官
宮永さんのメモには、ただ大麻取締法とだけしか書いてなかったんですか

塚田警部補
私が見た限りでは、その状況を見たのみです。

裁判官
メモに書いてある文字としては大麻取締法という文字だけしか書いてなかったわけですね。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
大麻取締法違反であるという疑いを持たれた理由について、先ほどは2つおっしゃっていて、車に擦過痕があったことが一つ、もう一つが、目がうつろで少し落ち着きがない様子だつたという動静ですよね。この2つから大麻取締法違反の何らかの行為があるというふうに考えられたんですか。

塚田警部補
プラス前歴も含めてです。

弁護人(石塚)
その3つですか。

塚田警部補
はい。

ラテン系の服を着ていると大麻取締法違反の可能性があるという教育を、警察官は受けているのか?

 

石塚弁護士は、「ラテン系の服装」というポイントについて、さらに尋問を進めていく。

弁護人(石塚)
宮永さんは、明確にこんなことをおつしゃつているんです。大麻使用者が好むラテン系の服装であったという表現をされているんですが、それは宮永さんからお聞きになりましたか。

塚田警部補
それは、私が以前勤めていた機動警ら隊で、一つの教養として、教養を受けたことです。

弁護人(石塚)
警察学校で、ラテン系の服を着ていると大麻取締法違反の可能性があると、そういう教育を受けているということですか。

塚田警部補
警察学校ではなく機動警ら隊です。

弁護人(石塚)
機動警ら隊でそういう教育をしているということですね。

塚田警部補
飽くまでも参考情報にはなります

弁護人(石塚)
群馬県警では、ラテン系の服と大麻取締法の関係というのは強い関係があるということを共通認識として持っているということでよろしいですか。

塚田警部補
強い関係とまでは言えないと思います

弁護人(石塚)
ということは、この宮永さんが、大麻使用者が好むラテン系の服装であったというふうに言われたことは、あなたの認識とは重なるんですね。

塚田警部補
はい。宮永さんに伝えたのは私です。

弁護人(石塚)
何を伝えたんですか。

塚田警部補
ラテン系の服装に関して言えば、私の発言であると思います。


弁護人(石塚)

そこなんですけど、検察官が先ほどなんで大麻取締法の疑いがあると思ったかと聞かれたときに、3つあるうちの、車にきずがあったこと、頬がこけて何か疲れた様子だつたということはお答えになったんだけど、

なんで大麻使用者が好むラテン系の服装だったことというのをあえておっしゃらなかったんですか?

塚田警部補
飽くまで補助的な要因であるからです

弁護人(石塚)
検察官が、そういうことは言わないほうがいいというようなことをおらしゃつたことはありますか

塚田警部補
ありません。

弁護人(石塚)
あなたの意思ですね。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
そうすると、それは、あなたの当時の認識と今日お答えになったこととの齟齬があることになりませんか。

検察官
異議あり。誤導です。

裁判官
その質問はいいんじゃないですかね。もう一度質問をしてください。

 
弁護人(石塚)
いかがですか

裁判官
今聞きたいこととしては、今回あなたが職務質問をした根拠として、ラテン系の服装であったということはおっしゃらなかったじゃないですか。

塚田警部補
はい。

裁判官
なぜ先ほどおっしゃらなかったのかと、まずそういう質問だと思いますが

塚田警部補
優先順位の高い順に言ったからです。

裁判官
この事項については、優先順位が低いので言わなかったと、そういうことですか。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
現在の認識では、ラテン系の服装をしていて、それが大麻使用者が好む服装だという認識があったということはよろしいですね。

塚田警部補
はい。

裁判官
とすると、職務質問をした理由の一つとしては含まれるわけですか。

塚田警部補
まあ、飽くまで優先順位は低いですけれども、一つの要件ではあります。

 

パケの中身が大麻であるということを、どのように認定していったのか?


弁護人(石塚)
次の質問を始めますが、先ほど、予試験キットというものについてお話しになりましたね。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
それは、窪さんという方が御専門というか、検査が上手なんですかね

塚田警部補
薬物担当の刑事課の警察官です

弁護人(石塚)
刑事課2係の窪さんという方が、大麻取締法違反の嫌疑がある人が目の前にいるから来てくれと言ったら来てくれたと、そういうことですか。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
あなたは、今までに、この検査キットを使って検査をされたことはありますか。

塚田警部補
ありません。

弁護人(石塚)
じゃあ、キットのような化学的なものによって、大麻であるかどうかということを、あなたが確認されたことはないんですね。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
そうすると、先ほど、パケが2つ出てきたというお話をされましたけれども、パケに入っていたものが大麻かどうかということについて、あなたはどういうふうに認識されてましたか

塚田警部補
見た目では大麻草であると思いました。

弁護人(石塚)
そうすると、大麻草は御覧になったことがあるんですか。

塚田警部補
写真で見たことがあります

弁護人(石塚)
現物は見たことがないの。

塚田警部補
はい、ありません。

弁護人(石塚)
警察学校とか捜査の研修とかいうので大麻を現認したことはないということですか。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
そうすると、あなたの目から見て、これは大麻かどうかということは分からないですね

塚田警部補
写真で見た範囲では、大麻であると思いました

弁護人(石塚)
特徴を言っていただけますか。

裁判官
その質問は適切じゃないと思いますので、質問を変えてください。飽くまでもこの方の経験した事実について聞いていただく証人尋間ですので、一般論をこの証人に聞いても意味がないかなと思いますので。

弁護人(石塚)
分かりました。では、大麻だというふうに考えられたということでよろしいですか。

塚田警部補
はい。

弁護人(石塚)
その後、捜査の過程で、現行犯逮捕に至るまでの間、あなたはこの大麻に関する捜査に何か関係されましたか。

塚田警部補
動静監視を行っておりました。

弁護人(石塚)
何か物を隠したりとかいうような様子はありましたか。

塚田警部補
そういったこともありませんでした。

弁護人(石塚)
では、非常に素直に取調べに応じていたということでよろしいですか。

塚田警部補
はい。

丸井主任弁護人
先ほど、あなたが、被告人が持ってたものは大麻であると思ったと、それは前に写真で見たことがあるというふうにおつしゃいましたよね。

塚田警部補
はい。

丸井主任弁護人
その大麻なんですが、この大麻というのは大麻取締法の大麻だと思ったんですか。

塚田警部補
はい。

丸井主任弁護人
大麻取締法の大麻は定義規定がありますが、何というふうに理解してますか。

裁判官
それ以上この証人に対してそのテーマについて質問をするのは適切ではないと思います。大麻とは何ぞやということをこの方に聞いても、多分それほど分からないと思うので。

丸井主任弁護人
じゃあ、あなたが大麻だと思った根拠は何ですか。それをもう一度聞きたいです。なんで大麻だと思ったの?

塚田警部補
見た目と、巻き紙が一緒に入っていたことです。

丸井主任弁護人
見た目ということは、どういうことですか。

塚田警部補
見た形になります。

丸井主任弁護人
それがなぜ大麻だと分かるんですか。大麻以外のものの可能性も十分あるように思うんだけど。大麻の定義ですけどね。

塚田警部補
写真で見たものに近かつたからです。

裁判官
写真で見たものと近かつたということと、巻き紙が一緒にあったということなので、あなたのその時点での判断としては大麻の可能性があると考えたと、そういうことですよね

塚田警部補
はい

丸井主任弁護人
そうすると、大麻取締法の大麻というものがどういうものか。これはカンナビス・サティバ・エルと定義付けられているけれども、これは昭和23年当時日本で栽培されていた、どちらかというとCBDA種…

検察官
異議あり。証人が直接経験していない事実についての質問です。

裁判官
意見を求める質問だと思いますので、その質問はやめてください。次の質問移ってください。

丸井主任弁護人
大麻の認識について聞いているんですけどね。やっぱり法律上の大麻ということが。

裁判官
ですから、先ほどから言っているとおり、この証人としては、過去に見た写真と巻き紙からそれが大麻だと判断したと、こういうふうにおつしゃつているわけで、それが相当かどうかというのは評価の問題になりますから。

丸井主任弁護人
分かりました。じゃあ、それは評価の問題ですから。ただ、それだけだということでよろしいですね。あなたは、特別に、これが大麻取締法の大麻だということがきちんと言えるだけの根拠がそれ以外にないでしょう。

塚田警部補
はい。

裁判官
生物学とか化学とか、そういう細かい知識に基づいてそれが大麻であると判断したのではなくて、あなたは、先ほどあなたが言ったような写真とか巻き紙とかそういうものから大麻だと判断したと、そういうことですよね

塚田警部補
はい

検察官
大麻かもしれないというふうに思った根拠を、先ほど来、見た目というふうに証言されているんですけれども、プラスアルファ、被告人自身がこれは自分のもので大麻であるというふうに発言していたということも含まれますかね

塚田警部補
はい、それも含まれます

裁判官
それではこれで、塚田警部補への証人尋問を終了します。

 

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