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指導のヒントになればいいなぁ 1

 2008年 (平20)8月2~3日に第50回北見地区吹奏楽コンクールが開催されました。このコンクールに向けて各団体では熱心な練習が行われていて、筆者はいくつかの団体の練習のお手伝いをさせていただく機会を得ました。その中で共通してアドバイスしたことがあります。

(譜例は全てブリティッシュ・スタイル・ブラスバンドのために書かれたP.スパーク作曲「ポートレイト・オブ・ア・シティ」です。)

1 デクレッシェンドをどう表現するのか

 デクレッシェンドは、強弱の変化を表す演奏記号の一つで、>・decrescendo・decresc.と記載し、だんだん弱くという意味です。

【その1】

譜例 1

 上記の譜例1をプレーヤーは、譜例2のようにラ音の開始の瞬間から音量を減衰させることが多いのです。これはほとんどの場合間違いで、譜例3のようにシ音から減衰されるべきと思われます。実際の指導場面では、「ラの音をしっかり吹いてからだんだん弱くして下さい。」と指摘することになります。

譜例 2
譜例 3

 ところが、この場面では他のパート(譜例4)がどのような演奏をしているかが重要で、僕はシ音から減衰するのはまだ早すぎで、休符の前のラ音からの減衰が正解(譜例5)だと考えました。それは、次にメロディーに引き継ぐ前の八分音符の動きの全てがはっきりと聞こえるべきだと思うからです。

譜例 4
譜例 5

【その2】

 以上のことは、パート譜だけを見ているプレーヤーには、分からないことだと思われます。
 別の場面(譜例6)もそれぞれのパート譜を見ているだけでは、どのようにデクレッシェンドを表現すべきなのかは分かりません。そこで、例えば以下のような指示が必要です。

譜例 6

(1)のパートは、二分音符のド音をきっちり演奏(八分音符分)してからデクレッシェンド
(2) のパートは、四分音符+八分音符分のシ音をきっちり演奏してからデクレッシェンド
(3)のパートは、2小節目のミ音をきっちり演奏(八分音符分)してからデクレッシェンド
 また、デクレッシェンドは、だんだん弱くと捉えるより図1の(2)のように階段状に音量を減衰させるという指示が適切と感じる場合が多いです。

図 1

2 クレッシェンドをどう表現するのか

 クレッシェンドは、強弱の変化を表す演奏記号の一つで、< ・crescendo・cresc.と記載し、だんだん強くという意味です。

【その1】

譜例 7

 譜例7の場合は、(2)小節目の3拍目のffに向けて徐々にクレッシェンドをして、その後デクレッシェンドし、再びfまでクレッシェンド、その後デクレッシェンドし、再びmfまでクレッシェンドしデクレッシェンドするというのが一般的なアプローチだと思います。しかし、僕は譜例8のような方法を試します。

譜例 8

 もっとも、他のパートがどのような演奏をしているかによって、クレッシェンドをどう表現するのかは、様々に変化すると考えています。

譜例 9

 譜例9のような記譜がされている場合、クレッシェンドの頂点がどこにあるのかが曖昧になります。(2)小節目のラ音にfなどの強弱記号が書き込まれていないので、頂点が(1)小節目の最終音のソ音(あるいはその1音前のレ音)になってしまっていることが多々あるように思います。
 つまり、フレーズの頂点が曖昧になることで、フレーズそのものが曖昧になってしまい、音楽が伝わらなくなってしまっているのです。デクレッシェンドをどの瞬間から表現するのかを指示するのは、指揮者の大きな役割だと考えます。

 クレッシェンド・デクレッシェンドなどの強弱の変化を表す記号や f ・p など強弱記号をどう表現するのかは、音楽にメリハリをつけるのにとても大切な要素です。それぞれのプレーヤーが独自の解釈でそれを表現していると、音楽が平板なものになってしまいます。それを調整していくのが指導者の大きな役割の一つだと思います。

3 音量のバランスをどのように整えて、どのフレーズを聞かせるのか

譜例 10

【譜例10】の場合、ABCDの4グループがあると考えられます。それぞれのパートの強弱記号を見てみると、
・Aグループ:強弱記号f (メロディー)
・Bグループ:強弱記号mf (対旋律1)
・C(最下段を除く) グループ:強弱記号f (リズム)
・C(最下段):強弱記号mf (リズム)
・Dグループ:強弱記号f (対旋律2)
となっています。

 このままの強弱記号をそれぞれのプレーヤーがそれぞれの思いで演奏をすると、この部分の音楽は、雑然としたものとなると思われます。そこで、以下の指示が必要だと思います。
 Aグループはメロディですので、記譜通りにf で演奏します。(mf でも十分かもしれません)
 Bグループ(下から2段目を除く)は、ミュートを装着するので、記譜通りのmf では聞こえないと思われますので、f で演奏します。
 C(最下段を除く) グループは、f をmf あるいはmp に変更して演奏します。
 C(最下段)パートは、そのままmf あるいはmp に変更して演奏します。
 Dグループは、記譜通りにf で演奏します。(mf でも十分かもしれません)
 ただし、どのパートにも共通して、音が伸びている小節には、他のパートが聞こえる程度に弱く演奏しなければなりません。(音が動いているときには、しっかり演奏する)

 他にも、下から4段・5段・7段目の(5)小節目( □で囲んだ部分)は、強弱記号の変更はありませんが、f ではっきりと演奏する必要があると思います。
 全てのプレーヤーが、全ての箇所それぞれで、どのパートの音を際だたせるかを意識して演奏するための指示を徹底することは、指揮者の大きな役割です。

4 音楽にメリハリをつける

 f と書いてあると「強く」演奏するのがプレーヤーです。ところが、【譜例10】のAグループは、メロディーを演奏しているパートなので強弱記号をf と記載しているとも考えることが出来ます。物理的な強弱ではなく、単に、Aグループが他グループよりも聞こえるべきだという作曲者の意思の現れである可能性もあります。一方、(1)小節目の1拍目は、ほぼ全員が八分音符(アクセントが付いているパートもあります)をクレッシェンドした後にf で演奏しています。以上のことから「音量の変化と対比」を考えると、Aグループのメロディーの音量は、そのままf を維持するのではなくmf で開始することで、その後の変化に対応する事が出来るようになると思われます。このことは、いつも大音量を聞かせられている聴衆の耳と心が疲れてしまうことへの対応策としても有効だと思います。
 経験の不足している指導者の多くに見られる特徴として、f やff がうるさくて汚いというのがあると思います。あくまでも音量の対比を中心にして、f もp も表現すべと考えます。
 音楽のメリハリをどう表現していくのかは、指揮者の大きな役割です。「クレッシェンド」・「デクレッシェンド」・「音量のバランス」・「音色の変化と対比」・「テンポの変化と対比」・「音量の変化と対比」等の指導が徹底していくと、音楽にメリハリがつきます。指揮者は、それぞれのプレーヤーがどう表現しているのかを良く聞き取って、整理していかなければなりません。様々な要素が不統一・未整理であることでサウンドが濁りますし、ただ音が鳴っているだけの音楽に終わってしまいます。聞かせる部分を意識し、意図的な変化を表現することで、聞いている人の心に迫る音楽の実現が近づいてくると思います。

                   2008.08.11.  (C)HIRAIDE

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