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D♭ピッコロ

 ピッコロはフルート*1と同じ運指で1オクターブ高い音を出す楽器です。全長30cmほどの管体は歌口から先端に向かって細くなる円錐管*2に作られています。音域が最も高く鋭い音色を持つ管楽器で、大編成の中でもはっきりと聞き取ることができます。

 18世紀頃のフランス宮廷で使われていた横笛がその起源とも言われ、モーツァルトが1782年に作曲した「後宮からの誘拐」序曲ではフルートではなくG管ピッコロが指定されています*3。また、交響曲でのピッコロ初登場は、ベートーヴェン(1770-1827)の交響曲第5番「運命」第4楽章と言われています。なお、16世紀の作曲家ヴィヴァルディ(1678-1741)に「ピッコロ協奏曲」がありますが、これはF管のソプラニーノ・リコーダーのための曲ではないかと言われています。
 ピッコロが使われる有名曲の一つ、J.P.スーザ作曲の「星条旗よ永遠なれ」の手書きスコア*4とThe John Church Co.の出版譜(1897出版)を見るとピッコロD♭のパートはありますがフルートそしてピッコロCの楽譜は見当たりません。他の吹奏楽曲を見ても1900年前後に出版されたものにはもれなくD♭ピッコロが使用されています。その後長い期間に渡り、ピッコロC譜と共にピッコロD♭譜が用意され続けました。確認できた範囲の話ですが、1961年(昭和36)発行の共同版F.ゴールドマン作曲「木かげの散歩道」にはin C ピッコロの楽譜は用意されてなく、あるのはin D♭のピッコロ譜のみです。

星条旗よ永遠なれ

 1970年(昭和45)の興部中学校には、演奏に使われることはありませんでしたがニッカン製D♭管ピッコロが備品として保管されていました。新版吹奏楽講座1 P.40には「D♭管は吹奏楽だけで使われる楽器である。吹奏楽はクラリネットやトランペットなどB♭系の楽器が中心であるため、C管はほとんど♭の調子になり、ペーム以前のフルートでは非常に不利であったので半音高いD♭管が使われたと思われる。」「フルートにもD♭の楽器があった」との記述(宇野浩二*5)があります。
 さて、♭が多い楽曲に対応するためにD♭管にというのは違和感があり、D♭管ピッコロの楽器としての優位性(D♭管の音色、優秀なC管ピッコロの開発の遅れ)があったのが理由と考えるのが妥当と思います。吹奏楽がinB♭の楽器が多いからというのであればフルート・ピッコロもinB♭の楽器が製造されるはずなのですが、それは無かったのです。
 なお、ホルンがinFなのはベルリオーズの「管弦楽法」に由来するという記述が新版吹奏楽講座2 P.93にあります。また、in E♭の楽器はA.サックス開発のサクソルン属金管楽器に由来しています。ちなみにチューバは記譜が一通りで必要に応じてB♭管、C管、E♭管、F管の楽器を使うことがあります。また、トランペットも多様な調性の楽器があります。

*1 現代フルートは両端の内径が同一の円筒管(えんとうかん)で作られています。いわゆるベーム式です。
*2 ピッコロ音域では円錐管で作られることで音程の安定等の利点があります。
*3 モーツァルト:「後宮からの誘拐(逃走)」K.384
*4 おそらくスーザ自筆譜だと思われます。 
*5 宇野(うの)浩二(こうじ)(1925-1995) フルート奏者 昭和音楽大学教授

                        writer Hiraide Hisashi

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