「グレムリンの傀儡」 第三話

ガガガガガガッ!!と降り頻る氷柱が全て撃墜される
結界があるかのように半球状に漂う砂煙
レム「よしよし」

煙が晴れる。その向こうには、汗だくで疲労困憊なヒナギ
棍を片手に、その足元にはセシア(の形をした精巧な偽物)が横たわっている
レム「上手く制御できるようになったね」
ヒナギアップのカット。苦しそうに汗を拭う。氷柱の破片がキラキラと輝く

ヒナギは限界とばかりに尻餅をつく
ヒナギ「どうだ、やってやったぞこの野郎」
珍しく陽気に手を叩くレム
レム「すごいすごい!」

レムは妖艶に顎へ手を当てがい、あざけるような視線でセシア人形を見下ろす
レム「それにしても、幼馴染の人形で因子制御のコツを見出すなんて」「人間の考えは分からないね」
ヒナギ「……分かられたくもねぇよ」
ヒナギは渋い顔

レムはくるんと踵を返す
レム「これなら第二段階に進めるよ」「実地研修だ」

隙を見せたレム。ヒナギは仄暗い殺意の視線
次の瞬間、棍を振るって背後からレムを攻撃
ガキィッ! という音がして、彼女の髪の毛すら動かせずに止められる
ヒナギ(髪の毛一本すら……!)

レムの半目が流し目でヒナギを射抜く。ヒナギはすぐさま後退
ヒナギ「……バケモノが」
レム「きちんとグレムリンと言ってほしいね」

レム「キミの攻撃がレムに通るわけがないだろう」
レムは妖しげに両手を広げながら、背中で語る
レム「言ってしまえばレムはプログラマーで、キミはただの文字列コードだ」「文字通り次元が違う」「アニメのキャラが視聴者を傷つけたりしないだろう?」

睨むヒナギと、薄笑いを浮かべるレムのカット
レム「喜んでくれていいよ。キミも、その力の一端を手にしたわけだ」
ヒナギ「誰も望んでねえだろうが」
レム「そうかな?」

レムは不敵な笑みで人差し指で天を指す
レム「すぐに、感謝することになると思うけど」

画面暗転

はっ、と呆けるヒナギ
いつの間にか、辺りの景色が一変している。
ヒナギが立っているのは、摩天楼のど真ん中。
行き交う人々に、1mほど浮いて走行する流線型の車、大きいホログラムの広告、飛び回る昆虫型のドローンなど

ヒナギ「ここは……」
レム「懐かしいかい?」
ヒナギの肩へ腰掛けるような体勢で浮遊するレム。うっすらと発光している

ヒナギ「たった三週間だろ。懐かしいもクソもあるかよ」
レム「そうかい」
億劫そうにレムが伸ばした足に通行人がぶつかりそうになり、そのまま何事もなく通過する。
レム「それにしても人が多いね。食物連鎖の頂点を気取って、偉そうなものだ」
ヒナギ「当たり前のように透き通るな。俺まで変な目で見られるだろ」
レム「あぁ、言ってなかったね」
レムはヒナギの肩から飛び立つと、行き交う人混みを見下ろすような高さで静止する

軽く両手を広げて、神の如く偉そうなレムへ、人々は誰も視線すらよこさない
レム「レムは今、人間には見えないよ。見えるのはレムと同じ、電子生命体グレムリンだけだ」「機械に生かされている人間は、その機械を統べるレムには干渉することもできない」

レムは含み笑いでヒナギを見下ろす
レム「レムの意志一つで滅び得ることにも気づけないまま、人間は今日もせっせと歯車を回すのさ」「そしてキミは、歯車を取り上げる役に任命されたってワケ」

レム回想『キミは、レムのバディに選ばれたのさ』
ヒナギはレムを睨む
ヒナギ(……本来見えないはずのこいつが俺やセシアの前に姿を現したのは)(下僕を捕まえるためか)
ヒナギは歯噛みする。

ヒナギ「お前の目的は何なんだよ」
レム「前も言っただろう。機械に感謝の心を忘れた人間へ、制裁をするのさ」

レムは人混みを避けたいのか、人間たちの頭上を滑るように進んでいく。ヒナギも後を追う
ヒナギ「何のためだ」
レム「……?」
ヒナギ「お前がそこまでこだわるのは、何かのためなんじゃないのか」

レムは不敵に笑う
ヒナギから視線を剥がすと、空を見上げる
レム「聞いてられないからさ」
天まで伸びるビル、街中の至る所にまで詰め込まれている機械やロボット、技術の結晶のカット
レム「人間に使い捨てられた道具や技術達が、嘆き苦しむ声がね」

女性を包丁で滅多刺しにしている男のカット
レム「調理用の包丁で人を殺傷したり」

アルフレッド・ノーベルの肖像と、爆破された民家のカット
レム「工事用に開発されたダイナマイトが戦争に使われたり」

レム「他にも……」
レムは人差し指を口元に添える
その目は、ヒナギを見下ろしている
レム「人口爆発による土地不足解消のために授けた『バグ化』の技術が原爆よろしく使用されたり、ね」
ヒナギ「……!?」
レムの発言に、ヒナギの瞳孔が開く

ヒナギは宙を滑るレムへ叫ぶ
ヒナギ「ちょっとまて!」
訝しげな視線を送る周囲の通行人

回想「悪い子はグレムリンにおもちゃを壊されちゃうよ」
回想「『バグの雨』はグレムリンが首謀者だと主張する者まで現れた」
 ヒナギ「五年前、『バグの雨』で俺の街を潰したのは、お前じゃないのか!?」
レム「そんなこと、レムがしてどうなるというんだい」「暇つぶしにもならないよ」
 
ヒナギは瞳を泳がせる
ヒナギ(何を言ってるんだ?)(こいつが元凶じゃない?)

バグ化した街のカット
ヒナギ(だったら、アレは誰が……)
 
レム「そういうわけで、レムは搾取されるだけの技術や道具を救ってあげたい」「でもそれには、有機生命体をベースにした傀儡バディが要るのさ」「理解したかい?」

放心状態のヒナギ
レムは、彼のその様子に気づき、少しだけ不機嫌そうに眉根を寄せる
レム「聞いているのかい?」
ヒナギ「あ、あぁ……」

レムは不機嫌さを保ったまま、おもむろに腕を空に掲げる
レム「というわけで、ミッション1だよ」

レムの手のひらから、火の玉が打ち上がる
パァン!と花火が大きく弾けるカット
そして、それがすべてバグ化してフリーズするカット

一瞬の間があり、
バグ化した花火を中心に、行き交う人々が恐れ慄き蜘蛛の子を散らすように逃げていく
人々「ば、バグ!?」「逃げろ!」「きゃああああ!」「やばいやばいやばい!」

ヒナギ「お前ッ!」
激昂し、棍を構えるヒナギ
パニクる人々の激流の中、ただ睨み上げる彼を見下ろして、レムは肩をすくめる
レム「何か問題が?」「人的被害はゼロだぞ?」
ヒナギ「そういうことじゃねぇ!」

ヒナギは糾弾するように声を荒らげる
ヒナギ「お前は、『バグ』に人々がどれほど恐怖してるか分かってんのか!」

レムは不敵に笑う(口元アップ)

レム「分かっているさ。だからこそ、目につく方法でバグの存在をアピールした」
バグ化した花火をバックに、レムは両手を広げる。光と影が異世界のようなコントラストを描き、その様は退廃的な美しさがある

ヒナギモノローグ「だからこそ……?」
レム「眩しい光で、虫をおびき寄せたくてね」

第二話、実験体廃棄場のカット
レム「気づいているかい?」「キミを連れて行った実験体廃棄場」「あれは屑拾い
の施設だ」

レム「そして派手にバグ化が起きたことで、屑拾い内で『バグ化→楠ヒナギ』の構図が出来あがった」

ドン!とヒナギのそばで人影が着地する
赤い髪の少年。その制服は、ヒナギと同じく学ランのような清掃員の制服

続いて堰を切ったように、何人もの清掃員や調査官がヒナギを取り囲むように現れる
ヒナギは唖然とした顔

レム「キミはもう、お尋ね者というわけだ」「もし『バグの雨』とやらの罪まで着せられたら……一体どうなるだろうねぇ?」
ヒナギ「てめぇ……」

ヒナギはレムへ殺意の視線を向ける
レム「よそ見をしている場合かい?」
レムは、前方を見て薄笑いを浮かべる

目を見開くヒナギ
背中に気流の翼を携えたセシアのカット
大事そうに、ヒナギが使っていた黒い棍を抱えている

セシアは、今にも泣き出しそうな悲痛な面持ちで彼を見つめる
セシア「……ヒナギ」

人差し指を立てるレム。悪辣な笑み
レム「ミッション1」

ヒナギの瞳とセシアの瞳が交差する
レム「屑拾いを殲滅せよ」

暗転してタイトルコール
「第三話 グレムリンの傀儡」

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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