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2020年のGWがようやく終わったという話

それは146回目の勝利だった。

思えば、彼とはすでに300回近く出会っている。
こちらが近づけば逃げだし、倒してもなびかない。

どれだけの時を、彼のために費やしただろうか。

ついには、私の中の【仲間】という概念自体が揺らいできた。

これだけの時間を共にすごしているいま、すでに私と彼は仲間と言えるのではないか。

目に見える仲間ではないが、常に心は彼と共にあると言えるのではないか。

しかし、それが都合の良い言い訳であることもわかっていた。私にとっては、彼を文字通り仲間にすることが、ある種のイニシエーションなのだ。

大学生時代に途中で諦めた陸上競技。リーマンショックをへて辞めた投資銀行での仕事。仲直りせぬままに物別れとなったかつての友人。御礼の気持ちを伝えないまま他界された恩師。

これまで中途半端に終わらせてきたことが脳裏をよぎる。

私は彼を仲間にすることで、ドラゴンクエストというRPG的な価値観を自分のものにすることができるのだ。そしてそれは、自分自身の壁を乗り越えることにほかならない。

されども、彼は一向にこちらを見ない。

倒した数が100を超えた時、私はいっときスマホを置いた。

これは資格の話なのではないか。
私は彼を仲間にする資格を持たないのではないか。




そうして、1週間が過ぎた。





鹿児島県の緊急事態宣言が解除された。ゴールデンウィークもとうに終わった。

私は、この連休中に何かを為しただろうか。

否。

ひたすらに仕事をし、食事をとり、彼を仲間にせぬままにドラクエを放棄しただけではなかったか。

これからの未来、この国難と、その最中での連休の話をするたびに、私の中には耐えがたい敗北感が残る。

それでよいのか、ながやんよ。


私はあらためてスマホを握り直した。

敵は、彼ではない。

敵は、自分自身だ。

そして仕事を終えた27時からの旅が再開された。

朦朧とする意識。

震える指先。

意識と無意識の間で揺らぐなか、ついに、そのときがきた。

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何故だか、涙がとまらなかった。

いま、私は、2020のゴールデンウィークを終えることができる。

ゴールデンならぬシルバーのメタリックボディを携えた彼と共に。

ありがとう、はぐれメタル。

そして、よろしくな、はぐりん。

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