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実焦点距離100mm対決 ~フルサイズからコンデジまでのトリミング性能を比べる~

 よくご存じの通り、写真に写る範囲は、基本的にはレンズの物理的な焦点距離とセンサー(フィルム)のサイズで決まる。すなわち、同じセンサーなら焦点距離が長い方が写る範囲は狭くなるし、同じ焦点距離ならセンサーが小さいほど写る範囲が狭くなる。「フルサイズ換算50mm」みたいなのは、36mm×24mmのセンサーの場合の画角に単純に換算した数値である。しかしながら、「フルサイズ換算」あるいは「35mm換算」という言葉が事実上標準になっているからといって、全ての点でフルサイズが理想的で、それより小さなセンサーのシステムは単に性能の劣る劣化版、というわけではない。
 特に、最終的に必要な範囲をトリミング(切り抜き)して使う場合は、この換算は意味を失う。例えば、天体写真や野鳥、昆虫などの写真では、周辺部分は完全に捨ててしまうことも頻発する。写したい物が画面からはみ出していない限り、トリミングしてしまえばセンサーサイズは関係ない。この場合、フルサイズセンサーのシステムは、単に宝の持ち腐れになるだけでなく、もしかしたら逆に、
・ボディーとレンズが重くなってシャッターチャンスを逃す
・レンズの設計に余裕がなくなって実は画質が良くない
・レンズが暗くなってISO感度を上げた結果画質が悪化する
・レンズが大きくなってオートフォーカスが遅くなる
・センサーが大きくなって手ブレ補正の性能が低くなる
・トリミング後の画像の解像度が不足する
・画素数が多すぎて記録メディアへの書き込み待ちが発生する
・ファイルサイズが大きいために連写を躊躇してしまって結果的にシャッターチャンスを逃す
などの理由によって、小さいセンサーを備えたシステムよりも得られる結果が良くない可能性すらある。

 というわけで、手持ちのレンズから物理的な焦点距離ができるだけ揃っているものを引っ張り出してきて、これまた手持ちの各種センサーサイズのカメラで撮り比べてみた結果をご紹介する。ただし、既に手元にあった物を比べただけなので、体系的に(公平に)比較しているわけではないことをお断りしておく。
 なお、筆者自身は、スマホ、コンデジ、1インチ、マイクロフォーサーズ、APS-C、フルサイズ、いずれのセンサーを備えたカメラも現役で使っており、特定のセンサーサイズのシステムを推す意図はない。それぞれの特性を理解して、適材適所で使いましょう、というお話しである。

1. レンズの選定

 できるだけ条件が揃ったものをできるだけ多く比べたかったので、手持ちの機材をざっと眺めて、100mm前後のレンズを使うことにした。換算100mmではなく、物理的な焦点距離が100mmである。カメラは、基本的に各マウントの純正のものを使ったが、Nikon D600 だけは画素数が少ないので、マウントアダプターを介して SONY α7R II でもテストした。いずれにせよ、レンズもカメラもバラバラな状態での比較である。こんな感じの手抜き作業であるので、話半分で聞き流していただければ幸いである。

 採用されたレンズは以下の4本。(重量はバッテリーやメディアを除いた値)

Panasonic DMC-TZ85

高倍率ズーム搭載のコンデジである(当然レンズ交換はできない)。ちょうど 100mm には設定できなかったので、102mm のところで撮影。ちなみに、SONY にも類似スペックのコンデジがあるが、こちらの方が望遠端での画質がよく、オートフォーカスも随分速いと思う。しかもファインダーがついている。ただし、SONY の方がだいぶサイズが小さく、デザインもフラットで収納しやすくお洒落で、質感も良い。

  • レンズ:4.3mm-129.0mm F3.3-6.4 (35mm換算:24-720mm)

  • センサー:1/2.3型(6.2×4.6mm:推定) 有効画素数1810万画素

  • 約240g

Olympus M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

マイクロフォーサーズ用のレンズ。この倍率で開放から解像度が高く、しかも望遠端でもF4.0という、イメージサークルの小ささを最大限活かした攻めたスペックのレンズ。カメラは Olympus E-M5 Mark III。

  • レンズ:12-100mm F4.0 (35mm換算:24-200mm)

  • センサー:4/3型(17.3×13.0mm) 有効画素数2037万画素(撮像センサーをずらしながら8回撮影して合成する “ハイレゾショット” だと5000万画素相当)

  • 重量:レンズ561g+本体約366g

Nikon AI AF DC-Nikkor 105mm f/2D

Nikon が誇る、ボケ味をコントロールできるDCレンズ。これは本当に素晴らしく、お気に入りのレンズ。ただし、今回はニュートラルの状態で使用(そしてボケの評価は一切しない)。カメラは Nikon D600(および SONY α7R II)。

  • レンズ:105mm F2.0

  • センサー:35.9×24.0mm 有効画素数2426万画素(D600)

  • 重量:レンズ約640g+本体約760g(D600)

SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS (SONY Eマウント)

SIGMAが “ライトバズーカ” と呼ぶ、フルサイズ対応でこのスペックにしては小型軽量な望遠ズーム。しかし、それでもやはり大きくて重いが。カメラは SONY α7R II。

  • レンズ:100-400mm F5-6.3

  • センサー:35.9×24.0mm 有効画素数4240万画素

  • 重量:レンズ1140g+本体約582g

2. 撮影条件

 撮影条件は以下の通り:

  • 距離 2m の位置の布(テーブルクロス)を撮影。(従って、明暗差の大きな被写体などの写りがどうなるか等は今回の結果では評価できないことには注意。また、表示あるいは刻印位置が100mmであることのみを確認したので、実際に光学的に100mmなのかは未確認。ただ、2mの距離なのでそれほど大きな影響はないと勝手に予想。)

  • 三脚で固定し、マウントアダプターを介した組合せを除いて、全てオートフォーカス撮影。2枚撮影して、良かった方を採用(しようと思ったのだが、どのカメラもミスショットはなかった)。

  • 手ブレ補正はOFF。セルフタイマーで撮影(ハイレゾショットを除く)。

  • コンデジはレンズシャッター、ミラーレス2台は電子シャッターで撮影。(すなわち、Nikon D600 のみミラーショックあり。)

  • 各カメラで設定できる最高解像度で撮影。

  • ISO感度は、全カメラ ISO200 で固定。(本当は開放F値などに応じて変化させた方がより実環境に近いようにも思うが、ひとまず解像度比較ということで。)

  • カメラによってシャープネスが少し異なるので、目視で適当にアンシャープマスクを掛けた。

  • 露出はオート。ただし、明らかに暗かったカメラは撮影後に少し手動で持ち上げている。

  • ホワイトバランスは晴天で統一。レタッチはおこなっていない。

できるだけ公平に比べるため、各レンズの絞り開放と F8.0 の2種類を掲載する。

3. 結果

 というわけで結果発表。

 画像は、トリミング前提ということで、中央のみを切り出している。ほぼ同じエリア(幅 3cm くらいの範囲)が写るように手動でトリミングした。(すなわち、センサーサイズの大きなシステムほど不利な条件であることに注意。)
 以下の掲載画像は全てピクセル等倍(リサイズ等は無し)。従って、仕上がりの画像サイズが異なる。

Panasonic DMC-TZ85

Panasonic DMC-TZ85 at 102mm/F6.3(開放)
Panasonic DMC-TZ85 at 102mm/F8.0

2m 先の布の繊維が見事に写っている。コンデジ、恐るべし。1/2.3型で1800万画素というスペックも、トリミング前提ならば無駄ではないことがわかる。なお、レンズが暗いこともあって、開放でも F8.0 の画像とほとんど変わらない。ちなみに、このカメラは手ブレ補正がなかなかスゴいので、この暗さでもかなり実用的に撮影できることを補足しておく。

Olympus M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO at F4.0(開放・通常撮影)
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO at F8.0(通常撮影)

レンズの解像度はまだありそうだが、センサーの解像度が不足している。高画素競争も馬鹿にできない。ちなみに、開放でも解像度が全く変わらない(むしろ良い)のが驚き。やはりこのレンズはスゴい。

Olympus M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO(ハイレゾショット)

Olympus M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO at F4.0(開放・ハイレゾショット)
Olympus M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO at F8.0(ハイレゾショット)

センサーをズラして撮影した画像を合成する “ハイレゾショット(5000万画素相当)” の画像も参考までに掲載しておく。実際そこそこの効果はあるようで、通常撮影では開放であってもレンズのポテンシャルがセンサーの解像度を上回っていたことがわかる。しかし、それでもなお上述のコンデジにはまだ及ばないようにも見える。(noteでは画像サイズがリサイズされて表示されているのでクリックして拡大して比べてみて欲しい。コンデジのセンサーの方がこのハイレゾショットよりもさらに画素ピッチが狭い(トリミング後のサイズが大きい)ことがわかるはずである。ついでに言うと、マイクロフォーサーズのサイズで5000万画素相当の画像というのは、例えばフルサイズで同じ解像度(画素ピッチ)を維持しようと思うと2億画素程度になってしまうくらいの詰め込み度合いである。)
加えて、もちろんハイレゾショットは動く被写体には無力である点を念のため指摘しておく。追尾すれば天体はこのモードで録れるだろうが、鳥や蝶は撮れない。

Nikon AI AF DC-Nikkor 105mm f/2D (D600)

Nikon AI AF DC-Nikkor 105mm f/2D at F2.0 (D600)
Nikon AI AF DC-Nikkor 105mm f/2D at F8.0 (D600)

F2.0 ではかなり甘いが、それでも F2.0 というフルサイズとしてはかなりの明るさであることを考えるとよく頑張っている(それに、そもそもこれはそういう使い方をするためのレンズではない)。対して、F8.0 では、レンズの解像度に対して、センサーの解像度(画素ピッチ)が不足しているように見える。フルサイズで 2400 万画素というのは、これだけ極端なトリミングを前提としたシチュエーションではキビシイことが示唆される(切り出した範囲では5万画素くらいしかない)。

Nikon AI AF DC-Nikkor 105mm f/2D (α7R2)

Nikon AI AF DC-Nikkor 105mm f/2D at F2.0 (α7R2)
Nikon AI AF DC-Nikkor 105mm f/2D at F8.0 (α7R2)

このレンズの名誉のために、高画素機でもテスト。F2.0では色収差も見えるが、F8.0だとかなりの解像感。古いレンズだが、これはかなりのもの。まだまだいけそうだが、これ以上の高画素機は手元にはない。やはり、センサーの解像度(画素ピッチ)がボトルネック。

SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS

SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS at 100mm/F5.0(開放)
SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS at 100mm/F8.0

フルサイズで4200万画素を誇る α7R2 だが、トリミングするとこのサイズ。絞った場合はレンズにはもうちょっとは余力がありそうにも見えるが、それでも上述のコンデジを上回ることは難しいように見える。なお、これは広角端なので、400mm側ではもちろんさらに解像することは付け加えておく。

4. おわりに

 最後にあらためて補足しておくが、通常の撮影であれば、こうやって一部を切り出して解像度だけを比べることは全く意味がない。ここで評価したのは、「同じ焦点距離のレンズで同じ位置から同じ被写体を撮影して中心のごく一部だけをトリミングする」という、かなり特殊な用途における比較である。そういうレアなシチュエーションでは、2~3万円で買えるコンデジが10倍以上するフルサイズカメラよりも良い絵を出してくることもある、ということである。だからどうということではないのだが、カメラシステム選びのひとつの参考にしていただければ幸いである。

おまけ

最後に、この記事で紹介したコンデジ(Panasonic DMC-TZ85)で撮影した写真(をトリミングしたもの)を紹介しておく。望遠端での画質にも(コンデジにしては)妥協がないし、オートフォーカスも(コンデジにしては)かなり速いし、4Kフォトも使い勝手が良いし、とても優れたカメラである。

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