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《短編小説》ポニーテールのシンデレラへ

 私はモテる。

 なんか、二年に上がってから急にモテるようになった気がする。モテるというより化粧が上手いのかもしれない。二年に上がって変わったことといえば、メイクに力を入れるようになったことだ。

 じゃあ顔が理由じゃん。別に嫌じゃないけど、中身を見てほしいと思うのは傲慢なのかもしれないけど。一年のときから付き合いがあったくせに、二年になってから急に告白してくるような男とは付き合いたいと思えない。

『放課後、北棟の裏で待ってます』

 ベタに靴箱に手紙なんか入れやがって。目立つ。マイナス三点。北棟は花壇になってるから虫が多い。マイナス五点。急に当日を指定するなんて、急ぎの用事があったらどうするのだ。勝手に「来てもらえなかった……」と嘆くつもりか。胸糞悪いな、マイナス十点。

 私は優しいので行くけれども。

 北棟の裏に行けば、見覚えのある顔が神妙な皺を付けて立っていた。せっかく来てやったのに、第一声の担当は私らしい。

「なぁに?」
「あっ、あの……! あっ来てくれて、ありがとう……」
「ううん、いいよぉ」
「あの、俺、前から愛莉のこと好きで」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……?」

 別に帰ってもいいけどね。

「だからっ、つ、つつ、つき合ってくださいっ」
「ごめんね、気持ちは嬉しいけど今は彼氏とかよく分からないんだ。ありがとう、でもごめんね」

 義務を果たしたので私は踵を返す。来てやったことに対するお礼は加点に値するけど、勝手に下の名前で呼んだり待たせたのは大きなマイナス点だ。

 さっさと帰ってしまおうと靴箱に戻ると、クラスメイトの陽菜ちゃんがいた。

「あれ、陽菜ちゃん、部活は?」
「今日はザッキーが先に帰るから部活なーし」
「ザッキーって谷崎先生? 私も帰るところだから一緒帰ろうよぉ」
「あーっ、ごめん! 今日若田くんと帰る約束しちゃった……! 今も待ちなんだよね」
「んぁ〜残念」
「来週の月曜、また部活ないからご飯食べて帰ろっ」
「いいねえ、そうしよ。じゃあまたね〜」 

 陽菜ちゃんは、彼氏が出来てからかわいくなった。揺れるポニーテールがふわふわしていて彼女のちょっとうわついた心を表してるみたいで、かわいい。

 私も陽菜ちゃんみたいな恋がしたい。大事にしてくれる後輩とお付き合いなんて羨ましすぎる。陽菜ちゃんもかわいい顔をしているけど、若田くんが顔だけに惚れているわけじゃなさそうなのは、陽菜ちゃんの話越しでも充分わかる。

 きらきらしたい。恋じゃなくても、ときめきたい。

 ローファーに小石が当たって少し傷がついた。

 分かってはいるのだ。良くも悪くも素直で無垢な陽菜ちゃんと違って、穿った私は人の勇気に点数をつけるしバカにする。そんな女に春なんて訪れるわけがない。

 だって、強いて言えば顔だけいい女なのだから。

 ふと校舎を振り返れば、靴箱で揺れるポニーテールの影が見えた。背伸びをして、誰かの影と重なる。彼女は先月、大人になったらしい。

 さよなら私の愛しのシンデレラ。ずっと無垢でいてくれたら良かったのに。後輩の挙動に一喜一憂するあなたが好きだったのに。あんなに無垢な彼女ですら、時間が大人にさせるのだ。陽菜ちゃんが私を好きになってくれたら、私たちはずっとシンデレラのままでいられたかもしれないのに。

「陽菜ちゃんと恋したいよぉ〜」

 顔しか見てない王子なんてお城に捨てて、二人で一番似合うガラスの靴を探してみたり、したかった。

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