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株式投資虎の穴(2/7)を5分で振り返り

先日も放送を視聴していただきましてありがとうございました。

今回は2月7日の放送分について5分で振り返りです。動画でみるのもいいですが、ざっくりと字で読み返すのもいいものです。私自身の復習がてら、メモとして残しておきます。

今回のトピックは1.華麗なる粉飾決算グレイステクノロジー。 続きまして2.東証の市場区分改革は意味があるのか 。さらに3.電波割り当てプロセスの見直し、 4.円が50円ぶりの安値水準に下落、そして5.銘柄研究としてメルカリを取り上げました。

まだ放送をご覧になっていない方は 以下のリンクよりどうぞ。

1.「優美なる」粉飾:グレイステクノロジー

それでは一番からお話していきましょう。グレイステクノロジーは2022年の2月一杯での上場廃止が決定しました。本件の特筆すべきところは、上場する段階から決算書類の改ざんを続けていたということです。

業績の悪化に伴い、粉飾決算に手を染めた会社は数あります。近年で有名なところでは、オリンパスや東芝があげられるでしょう。

これらの会社も発覚したときには手の着けられない状態ではありましたが、途中から粉飾の道を歩み始めたところが多く、上場当初から粉飾決算をやっていたというのは事例としてかなり悪質なので証券取引所 としても即上場廃止という重い処分を下さざるをえなかったのです。

一口に粉飾決算といっても様々な手口がありますが、在庫を持たない業界では複数の会社で水増しした売上を計上し続ける循環取引、新株予約権などの手口を使ってあたかも売上が増えているように見せかけていたということです。

第三者委員会の報告によりますと、半分近くの売上は架空の取引によるものだったと結論づけています。15億円ぐらいでしたから、その半分の7億円ぐらいはなかったことになります。

もう一つの特徴は経営トップが主導して画策したものだということです。内部監査で発見できるのは会社全体としては正常に機能しており、一部の不正を働く従業員がいる場合です。従業員の悪巧みを複数人による牽制体制をしく、または現金のやりとりをなくす、などによって予防することを目的とします。また不正があった場合でもすぐに発覚するような体制を整えておきます。

しかし、これらの仕組みも経営トップが本気で粉飾、脱税などの不正行為を行おうと考えた場合には、無力です。

トップが不正を働く場合には誰もそれを検証できないからです。売上が本当のものか否かは従業員にはわからないでしょう。

それにしても、なぜここまで大規模な粉飾を思い至ったのかは謎が残ります。本当のところは、すでに死去している元会長が墓場に持って行ってしまったのでわかりませんが、よほどの事情があったのでしょう。

同社は上場直後より毎年増収増益を続けるピカピカの新興企業として、株式市場から高い評価をえていました。欧米の機関投資家にも人気があり、彼らが積極的にポートフォリオに組み入れた結果、株価は上昇していき、ついには一時5000円を超える水準まで達しました。

機関投資家の調査能力は個人投資家よりも優れていますが、外部のアウトサイダーであるのは同じです。数少ないヒントから会社が今後も持続的に成長していくかいなかを判断します。

その少ないヒントの一つが決算情報なのです。

ここまで機関投資家が買い上げたのは当然業績がよく、将来の見通しも良好という経営陣のメッセージを評価したものだったのですが、途中から裏切ることはできない、不正をしてでも売り上げを稼がなければ株価が下落してしまう、という状況に陥ってしまったのです。

ただ、どうしてもなぜここまで株価をあげるために嘘を塗り重ねる必要があったのかは解せないところです。

これは与太話ですが、もしかしたら株価をあげる強いプレッシャーがかかるような、黒幕がいる事案だったのかもしれませんね。

こうした粉飾は理論上どんな会社にも起こりえます。見ず知らずの第三者が株主になることを想定している上場企業は厳格な監査を受けて上場していきます。自分の親族、取引先だけが株主となっている中小企業とは求められる財務の透明性のレベルが異なるのです。

投資とはどこまで行っても不確定なもので、出資だけ求めて実際の経営はいい加減という話はよくあります。ひところはやった東南アジアのエビ養殖や、和牛商法は聞いたことがあるでしょう。さらに、経営していたとしても事業がうまくいかず結果的に投資者の期待を裏切ることがあります。

これから上場しようとする監査法人は3年分の決算書類を入念にチェックしますし、証券取引所も一発屋ではなく今後も継続的に成長し続けるビジネスモデルを持っていることを確認してから上場を認めるという仕組みです。何重にもチェックしているはずなのですが、それでも確信的な粉飾にぶつかってしまうことはあるのです。

同社株の株価動向を少し見てみましょう 。この一件が公になったのは何月何日のことでした。事件が明らかになる前に、前会長が逝去したこと、決算の下方修正を受けて株価は弱含んで推移していきます。

そこから、粉飾の疑いがあるとの報道を受けて株価は二度のストップ安を付けて大きく下がっていきます。

こうした時に損切りをするのはえらく辛いものです。私も経験がありますが、今後保有を続けていても報われないことが確定しており、確定的な損失をだすこともまた決まっている。そういう状況は株式投資、とくに個別株投資をしていれば避けることはできませんが、本当に辛いです。

しかし、このようなコンプライアンスの問題が発覚した株を機関投資家が保有することはありません。完全に手元のポートフォリオからなくすまでずっと株を売り続けます。顧客に対して保有していることを説明できないからです。

圧倒的な売り圧力の前に株価は数日間ストップ安になることが多いです。それでも、株式市場には短期的な期間で株式売買をして利ザヤを取ることを考えている投機家がいます。彼らが短期的なリスクを負ってくれるので、なんとか株価が付いている状態で投資家は市場から一部ではありますが資金を回収することができるのです。

株式市場には様々な思惑を持ったプレーヤーが混じっているのだなと実感する場面です。直近の株価はまさにギャンブルの様相を呈してきました。2月末で上場廃止は確定、株式も最終的に無価値(1円で売り気配)になるのが理論上正しいのですが、しばらくはマネーゲームがグレイステクノロジー株で行われそうな気配です。

株価が下がれは少ないお金でも株価を動かすことができるようになりますし、機関投資家が入ってきませんから突拍子もない株価変動が起こりやすくなります。うまく波に乗れば儲けることもできますが、腕に覚えのない個人投資家は参加を見合わせておいたほうが安心です。

公認会計士の仕事とは

さて、公認会計士とは何か、どんな仕事をしている人たちなのか、ということについてもう少しご説明していきましょう。公認会計士の仕事とは、企業の経済活動がただしく会計処理されており、結果として財務諸表が正確に作成されているかを確認する仕事です。そして、上場企業の会計は、監査法人が担っています。資格を持つ公認会計士がたくさん所属しているのですね。

上場している企業はすべて監査法人の監査を受けなければならないルールになっています。企業業績次第で株価は大きく変動しますから、経営者としては経営成績をよく見せたい、という気持が働きがちです。その気持を素直に出してしまうと、時には実際よりも売上が高い、不正確な決算書が出来上がってしまいます。内部チェックだけでは、自浄作用に限界があります。これは、株式投資という仕組みが出来上がった400年前から同じですから、起業家というのは怪しいものなのです。

とはいえ、投資が経済を支えているのは紛れもない事実です。不正を外部の監査を定期的に受けることで決算書が正しく作成されていることを投資家に信じてもらわなければ株式投資の前提が崩れてしまいますからね。

公認会計士になるためには、とても難しい会計士の試験を突破しなければなりません。難しさもさることながら、短期間で問題を回答するという能力を鍛えることが求められています。監査は時間との戦いなので、事務処理能力の高さも求められているのです。

ではなぜ公認会計士が粉飾決算を見抜くことができないのでしょうか?

彼らは特別なトレーニングを積んでいますから、ある程度の時間をかければ粉飾を見抜く可能性が高まります。しかし、それにはどの点が怪しいかについて当たりが付いてからのことです。

医者は、患者が身体の調子が悪いと訪れてきたときに、その身体の悪い部分を中心的に見て、病状から病気を特定して治療します。

公認会計士も、病状(不正の痕跡)を見つければ、取引のつじつまが合わない部分を見つけて、不正の全容を解明することができます。しかし、問題は医者にかかる場合と異なり、企業側がどこが調子が悪いとは行ってくれないということなのです。

上場企業からすると、公認会計士の監査証明をもらえないと上場し続けることができませんが、徹底的に調査してもらうことは望んでいません。なんとか穏便に終わらないかな、と思っているのが普通です。ここの取引に不正があるんですよ、なんて公認会計士に伝える経理部門の担当者なんていませんからね。つまり、会計士は企業の担当者からのわずかな情報をもとに全体像を把握して不正の有無を確認しなければならないのです。

しかし、現在は公認会計士が不足しており十分な監査ができなくなっているうえに、新型コロナウイルス感染拡大により現地でのヒアリングが難しくなっています。

PDFやエクセルだけの資料では、どうしても十分な監査はできません。そんなことはわたしなどの素人が言うまでもなく監査法人自身が一番わかっていることなのですが、新型コロナ感染拡大予防という建前がある以上、必要以上に現地で監査をすることができません。

できる部分はどうしてもリモートで、という流れになります。クライアント企業とのミーティングもオンライン、という場合も増えているでしょう。私も会社員として感じていますが、一人でできる仕事はリモートで問題が全くないのですが、コミュニケーションの取り方は格段に難しくなります。普段からあっていない人とは、とくに難しいです。

やはり人は、音声情報だけでコミュニケーションを取っているのではないよな、自然と様々な情報を取得しているな、と感じますね。

2.東証市場再編は意味がないのか?

さて続きまして 東証の市場改革について。当初の予定では、東証一部から東証プライム市場に移行することができるのは5割程度。残りの東証一部企業はスタンダードまたはグロースに落ちるということが噂されていましたが、日経新聞の報道によりますと9割の東証一部上場企業がそのまま東証プライム市場にスライドとのこと。

一体なぜこんなことになってしまったのか。それは、上場企業の反発を抑えるために、移行期間を設けて、現在東証一部に上場している企業のうち条件を満たしていない企業に対して改善報告書を要求します。その改善報告書どおりに企業改革プログラム、具体的には株式の流動化を進める取組を着実に進めているかぎりは暫定的な措置として東証プライム市場に残ることができるというものです。

私は、この結果は東証の狙い通りだとにらんでいます。東証のお客さんはだれなのか、考えてみればそれは分かることです。上場企業は、上場を維持するだけの人的・金銭的な費用を支払ったとしても上場することによって得られるメリットのほうが大きいと判断しているからこそ、東証に上場関連費用を支払っています。

もし、お金を支払ったとしてもそれに見合うだけのメリットが得られないとしたらどうでしょうか?上場している価値はあるのでしょうか?上場しているのはあくまで経済的な合理性に基づくものです。

新聞などでは、上場企業は東証の要求をみたして上場を続けなければならない、という論調が目立ちますが、別にいやなら上場しなくてもいいのです。市場にいるもいないも、別に企業の自由です。繰り返しですが、メリットが大きいから上場しているのです。

お客様である上場企業にそっぽを向かれてしまったら、それこそ市場改革など意味がありません。

確かに現在の東京市場は、東証一部、東証二部、東証マザーズ、東証ジャスダックスタンダード、グロースという5つの市場があり、その違いが分かりにくくなっています。こうなったのも長年の積み重ねであり、分かりやすい市場区分のくくり直しは必須でしょう。

ただ、東証一部というステータスを持っている企業からすれば、それを手放したくないというのは自然なことです。東証側としても企業側のニーズにはこたえつつも、東証の市場制度改革を進めていくことが求められます。

そこで、今回の市場区分案なのです。移行はさせてあげるけれども、その最上位の市場に残ることは難しくしたのです。まずは移行してもらい、株式が多数の株主に保有されて、多様な考えで株価が形成されるという試練をクリアしてもらう。

外から見ると、あまりメンツが変わってないようにもみえますが、流動性基準を満たさなければ降格してしまうという強いプレッシャーが上場企業にかかってくるのは間違いないでしょう。

3.電波周波数割当をめぐる駆け引き

続きまして電波の審査問題です。電波というのはかぎりある公共の資産です。インターネットの回線のようにいくらでも増やすことはできません。周波数ごとに、一番有効に活用できると思われる事業者を選定して、その事業者を通じてあまねく国民に使ってもらうしかないのです。これまで、どの電波をどの業者に割り当てるか、というのは総務省が決めてきました。厳密なプロセスをへて審査が完了するようになっていますが、厳格な形式主義ほどいい加減な要素が入り込みます。

これまでの電波周波数の割り当ては、公平性が厳しく要求されてきませんでした。電波に対する需要というのが限定的で、需要と供給がある程度マッチングしていたからです。NTT ドコモ au ソフトバンクが携帯電話に適した周波数をそれぞれ割り当ててもらい、その範囲内で

しかし、5Gの時代が到来して、リアルタイムで動画を多数の人が閲覧する時代です。Youtubeは無料で見ることができます。あれは実はとてつもないことで、どんなに多くの人がその動画を同時に閲覧しても、パンクしません。

アクセスできなくなる、ということもありません。ジャニーズのコンサートチケット予約のように、短期間に大量の人が一つのサイトに集中するとトラフィックを管理しきれなくなって、サイトが動かなくなることがありますね。

そうそう、以前カトパンがロピアの社長と結婚を発表した時もロピアの公式ウェブサイトがパンクした事をふと思いだします。

閑話休題。現在では、Youtubeだけでなく、NetflixやAmazon Primeなどで動画をストリーミング再生する機会も増えています。昔は一度データを手元のパソコンやスマホにダウンロードしてから再生する野が一般的でしたが、今やデータはため込まない時代ですからね。

その分だけ行き交うデータが多くなるというわけです。さらに5Gが本格的に始まると今よりも多くの情報を我々は手元の端末で処理することになるはずです。

その時代がやってきたら、限られた資源である電波を有効活用しないといけない。

これまでも総務省の中で電波を有効活用するための仕組み、業者選定プロセスはあったのですが、総務省内部にあったことから総務省の影響を受けているとの指摘が成されていました。

今般の改正では独立した第三者機関が判断することになりますから、より透明性が高まることが期待されています。電波の業界はガチガチの規制が続いており、規制緩和が今後も進んでいくことが期待されています。

4.円の実力低下、50年前並みに

さて次は円が50年ぶりの安値に沈み込んだという話。我々が普段日本に住んでいる分には、あまり物価の上昇を感じることはこれまでありませんでした。

家計の出費を考えてみますと、家賃、保険、医療費、交通費、水道光熱費、教育費、食費などがあげられます。どの項目も大きな負担ですが、これまで著しく上昇するということはありませんでした。

しかし、ここまで上がってこなかったのは強い円という影響もあったのです。日本は生活必需品を輸入に頼っていますから、海外でインフレが続いても円の強さで相殺することができていたのです。

円の強さは1995年ごろにピークを迎え、以後は下落する一方となっています。この間もインフレが進みましたが、日本では物価への転換が進みませんでした。仕入れ価格が上昇しているのに、価格は変わらない。これはとりもなおさず、給与所得者の給与が押さえ続けられたということを意味しています。

正社員だけではコストアップを吸収できないので非正規雇用を増やすことで企業は最終的な商品価格を据え置いてきました。今まで商品の価格が上昇しないのは、企業側が人件費を削りながら価格を維持していたのです。

しかし、ここにきて穀物や金属、原油など国際的な商品価格の高まりインフレと円安のダブルパンチによってもはや商品価格を引き上げることが不可避となってきました。前回の放送で食品会社が値上げに踏み切る、というニュースをご紹介しましたが、円の弱さも値上げの原因なのです。

海外で稼いでいる上場企業はドルで稼いでいますから、同じように稼いでいたとしても円換算では円安が進むと利益が増えます。1ドル100円よりも1ドル120円のときのほうが見た目の利益は上がります。

最も彼らは成長余地に乏しい国内ではなく、海外に投資しつづけるため国内の円安は事業への影響は限定的です。

ただ、一般の人々にとっては円安になっていいことはあまりありません。成長性に乏しいうえに、円安となってしまっては、当面苦しい状況が続きます。
こうなると日本がお金を稼ぐには、海外の方に来ていただいて観光客からの爆買いやリゾート需要に期待するのは一つの有力な選択肢になります。物価が安いのはいいのですが、日本は富裕層向けの宿泊施設が弱いといわれています。一泊10万円を超えるようなホテルを求めるような外国人観光客の需要を満たせていないのです。これからは海外のお客さんや国内のお金持ちしか宿泊することができない超高級施設が次々誕生していくことになるでしょうね。

一方で、普通の日本人に取っては海外旅行は高嶺の花ってしまう時代がやってきてしまうのかもしれません。ちびまる子ちゃんで先日やっていた放送で、商店街のくじ引きにあたって南の島に海外旅行に出かける話がありました。当時は海外旅行は誰しもがいけるものではなく、高根の花だったのです。こちら葛飾区亀有公園前派出所でも、初期の作品には同様に海外旅行が大ごとに取り上げられています。50年来の円安水準に円が沈み込むというのは、そういう時代に円の強さが戻っているということなのです。

5.銘柄研究:メルカリ(4385)

最後はメルカリの銘柄研究です。皆さんはメルカリをお使いでしょうか。落札で使ってる方もいれば、出品までされている方もいるでしょう。また、使っていない方もいるでしょう。

私についていえば、落札するだけではなく、いくつか出品をしたこともありますのでメルカリのサービスが次第に洗練されていくのをリアルタイムで追っています。

最初のころは商品ページが見にくかったですが、商品を探すアルゴリズムが次第に洗練されてきて欲しいものが見つかりやすくなってきました。最近では子供が好きなポケモン商品を購入することが多いのですが、すこしポケモンで検索するだけで、次々とポケモン商品がリコメンドされていきます。ピカチュウをさがすだけで、他のポケモン商品も次々に紹介されるのです。

サービスを進化させてきたメルカリとはどういう敬意を経て誕生したのか、今回も企業の沿革を見ていきましょう。メルカリが生まれたのは2013年のことです。その後アメリカで 市場に進出するために2014年にアメリカで子会社が誕生しています。

注目すべきは同社は起業当初からアメリカで成功することを最終的な目標として掲げていたことです。開業する前後の時期、米国に出張していた創業者の山田氏はLINEが、米国では利用されていないことに愕然とします。

サービスのレベルそのものはLINEはWhatsupに劣っていませんが、米国や欧米市場ではWhatsupがすでに幅広く利用されていたので、LINEが市場を拡大する余地は既になかったのです。

まだスタートアップの段階だが、今のうちから米国市場を見定めて人材とお金を米国市場に投入しなければ、LINEの二の舞となるーその想いがあったからこそ山田氏は最初から米国に拠点をおいてビジネスを展開してきたのでしょう。

同社はスタートアップとしては、順調に成長してきたように見えますが、メルカリアプリのダウンロード件数は当初は伸び悩んでいました。ビジネスモデルはいい。このビジネスはあたるはずだ、という確信を経営者は持っています。スタートアップに出資するファンドもそう思っています。ですが、消費者に刺さるかどうかはやってみないと分からないのです。


メルカリもダウンロードが伸び悩んだため、ここで勝負をうちます。残っているお金をつぎ込んで、1000万円を広告宣伝費に注ぎ込む事を決意したのです。広告はあたれば大きいですが、外れた場合には全く効果が出ません。しかし、現状でちまちまと広告宣伝していてもこの調子でダウンロード数が伸び悩みつづければ、早晩運転資金が尽きてしまいます。

同様のサービスを展開しようと考えているスタートアップはあまたありますから、マーケットのパイを自分がとらないと、誰かに取られてしまうのです。
そう考えた山田氏は勝負にでた。これが奏功して、アプリの100万ダウンロードに成功。そこからは資金調達も円滑に進み、大量のTVCMを投下して知名度をあげつつ、ユーザ数を増やし続けています。あの「メルカリ♪」というサウンドロゴ、つかっていなくてもだれもが聞いたことがあるはずです。

また、メルカリが伸びてきたのは、ユーザインターフェースを改良し続ける速度が非常に早かったということが挙げられるでしょう。ユーザインターフェースというのは、使っている人が使う画面の構成のことです。消費者はITシステムの裏側なんて興味はありません。どれだけ感覚的に自分が欲しいものを探すことができるか、だけに興味があります。大胆に言ってしまえば、メルカリなんて使っても使わなくてもいいのですから、使い勝手が悪いなと思ったら使ってくれません。

消費者向けのサービス(C to C)は、利用の決め手となるユーザーインターフェースをどこまで消費者に寄り添ったものに改善していけるかがポイントとなります。システムを開発する側はプロですから多少の不便も気になりません。ゆえに一般の消費者との意識ギャップを埋めていく地道な作業ができるかどうか。

画面遷移は早くできるか。欲しいものがすぐ出てくるか。リコメンド機能は。注文の方法は楽か。長く使っていない消費者をもう一度掘り起こすにはどうすればいいか。

特効薬はありません。一つずつ解消していきますし、改善には終わりがないのです。このプロセスを地道に、かつどこの会社よりも早く続けられるのがメルカリの強みなのです。

さて、消費者の心をつかんで急成長してきたメルカリですが、あまりの急拡大してしまったために社会的な問題が発生してることに気がつきませんでした。

2015年頃から頻発した現金出品問題。現金5万円を巧みに組み合わせた折り鶴を6万円で出品する人が出てきたのです。自分達が考えている以上にプラットフォームとしての力があるがゆえに、違法金融の場として使われだしてしまったのです。

どういう仕組みなのか。簡単にご説明しますね。出品者は6万円で5万円の折り鶴を出品します。メルカリが手数料を10%取りますが、6万円から6000円を差し引いて5万4千円が確実にメルカリから入金が見込めます。

落札した側は手元に全くお金がない人たちです。この折り鶴を「買えば」、短期間で5万円を借りて、クレジットカードの引き落とし日までに1万円の利息をはらい、6万円を返済する形で借金ができます。

これは闇金になってしまいますし、反社会的勢力の資金源にもなりかねません。急いで現金の出品を見つけ次第停止する対応に追われた運営側ですが、その後もプリペイドカードや入金済みの交通系(パスモ、スイカなど)カードが出品され続けます。果てには、領収書まで出品されてきました。完全にイタチごっこですが、これを見逃すわけにはいきません。現場の方は細かく隠語までチェックして、対応を続けました。

こうした努力が実り、コンプライアンス面でも一定の評価を得たことからメルカリは2017年に東証マザーズに上場します。

上場後はメルチャリなど様々なビジネスを展開しますが、花咲くビジネスはなかなか出てきません。そのなかで2018年ごろから一気に盛り上がってた payment 事業にメルペイで参加します。

メルペイは自分たちが持っているメルカリのポイントそのまま決済に利用できるという意味で他のサービスよりも利便性が高い。

ソフトバンクグループが莫大な投資をしてスマホのペイメント事業のマーケットをペイペイで取った感はありますが、利便性が高いためにメルペイは一定の支持を得ています。私もメルカリで販売した家の不用品の代金は、メルペイで使っています。

直近の決算状況を最後に確認しておきましょう。メルカリの決算は手堅く利益を生み出すことができる日本市場と、まだ投資フェーズにある米国市場を分けてみないと、同社の置かれている状況が理解できません。

日本市場はもうマーケットを取ったといってもいいでしょう。ライバル企業のスタートアップは出てきませんし、ヤフオクやラクマなどのライバルとも差別化ができています。

一方でまだ米国市場は投資段階。利益を出すのではなく、ひきつづき投資を続けています。この段階で少し利益を出すことは同社の将来ねらっている市場規模を考えるとあまり意味がないのかもしれません。

利益を出すほうが投資家は喜びます。特に成長のために赤字を続けてきた企業が、投資フェーズから回収フェーズに転じる所では、収益が増えることが期待されて株価が動意づきます。

今回の決算を見てわかる通り、メルカリの経営陣は目のまえの利益を取ることをやめました。大きな赤字を出しています。これは引き続き米国市場にコミットして、投資を続けけて行くぞという決意表明です。

したがって、今後もしばらくメルカリは決算で黒字を出すことはないでしょう。売上は順調に伸びていますから、米国市場の売上が今後も伸び続けるかどうかが注目点です。

同社に投資するということは、米国市場のC to Cマーケットで天下を取ることができるかどうか、を見定めるということです。山田氏の米国市場制覇という夢に乗る、ということです。

足元では、割高成長株が売られる相場つき、そして赤字決算が嫌気して高値から大きく反落してしまいましたが、目先の株価をみて経営方針を変えることはないでしょう。ここまでのメルカリの10年間はドラマの連続でした。ここからも非連続的な成長を遂げていくはずです。

一点気がかりなのは番組でも和田さんが指摘していたとおり、米国のロジスティクスの貧弱さです。日本国内では空気のように使うことができるロジスティクス。ゆうゆうメルカリ便、らくらくメルカリ便といったサービスで郵便局やクロネコヤマトのサービスを安心して使うことができますが、米国では郵便局がそこまであてにならないのです。注文したものが届くかどうか、ということを意識して消費者は注文しなければなりません(だからこそ、アマゾンはすべての宅配網を自前で整備したのです)。

今後、こうした課題をクリアしながら、米国での挑戦が続いていきます。同社は日本発で世界的なベンチャーになる可能性を秘めている数少ない会社です。ユーザーとしてはこれからもお世話になりますし、投資家としてはこれからも動向を注意深く見守っていきます。

株式投資虎の穴について


株式投資虎の穴は初心者向けに、株式投資を面白くお伝えするインターネット放送です。オンザボード代表和田憲治氏と、サラリーマン投資家長田淳司が対談形式でお送りしています。

隔週月曜日放送で、次回も(月)20:30~22:00の時間に放送します。銘柄研究で取り上げる銘柄を募集中。放送内容の事前告知などはツイッター(@nagata_junji)をフォローしてご確認ください。

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