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株式投資虎の穴(2021年6月28日)を5分で振返り

先日も虎の穴を視聴していただきましてありがとうございました。番組の内容は以下でご覧になれます。

今回の放送について復習がてら、すこし振り返ってみましょう。

1.羅針盤を失った東芝

東芝の株主総会で、これまでの経営改善をリードしてきた永山取締役議長がアクティビストなど外国人投資家の反対多数で否決されるという珍しい事件が起こりました。

株主総会で取締役が否決されることは珍しいのですが、今回は2021年3月の臨時株主総会で株主の請求により組織された調査委員会が作成された報告書がおおきなポイントとなりました。

その報告書は2020年の株主総会で不適切な圧力が一部の株主に与えられたのではないか、という疑惑からアクティビストが要求したもので、この内容を見ると東芝の経営陣と経済産業省が盛んに情報を交換して、アクティビストの安定株主化、すなわちモノ言わぬ株主になるように工作していたことが明るみにでたのです。

これを受けて、どちらにしようか態度を決めかねていた機関投資家が、一部の議決権行使助言会社が再任否決をしたことなどもあって、否決に流れました。結果、まさかの再任否決となってしまったのです。

監督と経営が制度上分離していたが

東芝は委員会等設置会社という制度を導入しており、ガバナンスには力を入れている会社として知られていました。何が違うかというと、株主総会で選ばれる取締役が直接業務を執行するという従来の統治形態と異なり、委員会等設置会社では、取締役が直接業務ラインには携わらず別の人が業務執行する役割を担うのかが違う、というのがポイントです。

取締役会では指名委員会の人選を行い、指名委員会で実際の業務執行の責任者を選ぶのです。監督するラインと、業務執行のラインが別になりますからそれだけ牽制が働いて、よりよいガバナンスが期待できるというわけです。

しかし、どうも東芝ではうまく機能せず、形が違っても従来型の統治形態の応用にとどまってしまったようですね。利用する会社次第で仕組みはどのようにでも使われてしまいます。

2.ケンタッキーフライドチキンで学ぶ貸借対照表・損益計算書

今回も貸借対照表と損益計算書についてケンタッキーフライドチキンをイメージしてご説明しました。

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これらの財務諸表は、会社の成績表といわれています。会社が一年間営業活動を継続してその結果どれだけのお金を株主のために増やすことができたかを示している書類だからです。

株式会社の目的は、営利活動を通じて、利益を獲得して株主の資産を増やすことです。そのためには誰しもが客観的にその会社の事業の状況を把握できる書類がないと安心して投資ができません。仲間内で投資をしているならともかく赤の他人から出資してもらう(株式を証券取引所を通じて購入してもらう)ためには、会社が儲かっているかどうかを客観的に示す必要があるのです。

また、個人株主はあまり意識することはありませんが、実は経営陣というのは毎年株主の信任によってえらばれています。株主総会の少し前に郵送されてくる株主総会用の書類を、株式投資家なら見たことがあるでしょう。

株主優待が入っていないかどうか確認して、あとは中身を見ることなくそのままごみ箱に捨てている方がほとんどでしょうが、株主総会の議題として、取締役として候補者とその経歴、選任したい理由、持ち株数などが記載されています。

なお、オーナー企業は自分が株主であり経営陣なので、否決されることはまずありません。

損益計算書とは

前置きはこれくらいにしてケンタッキーでフランチャイズ店舗を経営しているお店を例にとってみてみましょう(実際のお金・モノの流れとは異なりますわかりやすくするために単純化しています)。

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損益計算書とは何でしょうか?それは1年間オリジナルチキン・ツイスター・ビスケット・ポテトなどを販売してお客さんからいただいた代金ですね。

何はさておき仕入れ先への支払い

そこからまずはチキンの仕入れ代金を取引先の養鶏場に支払わなければなりません。私はたびたびケンタッキーでチキンを食べてから虎の穴の放送に臨むので、今日もチキンをいただきました。そのレシートにはチキンの産地が書いてあります。

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今日食べたチキンは鹿児島産でした。

ということで鹿児島の養鶏場に、この店舗は仕入れ代金を支払います。まず仕入れ代金というのは何があっても支払うものです。仕入れの支払いが滞れば仕入れ先は鶏肉を卸してくれなくなります。鶏肉を揚げるのが仕事なのに、鶏肉がなければ商売あがったりです。

従業員への給料、広告宣伝費、設備投資

続いて支払うのは従業員。ケンタッキーの店舗では、チキン・ポテト・ビスケット等をつくるスタッフもいますし、受付でレジをうちチキンをパックに詰めるスタッフもいます。こうした方への給料をまず払わなければ、店舗の運営はできません。

そもそも店舗の外装・内装・冷蔵庫・チキンなどを調理する器具などケンタッキーが商売をする上で必要な設備投資をしていないと商売を始めることすらできませんから、これらの費用も出費として出ていきます。定期的に古びた内装はリノベする必要がありますし、調理器具も壊れますから買い替えも発生します。

また、広告宣伝費用もいりますね。近隣一帯に新聞の折り込みチラシでクーポンを配るための印刷費用、新聞社に払う広告宣伝代。高畑充希さんがおいしそうにケンタッキーをほうばる「今日ケンタッキーにしない?」のCM代。

そして、本部に支払うロイヤルティ(売上の一定割合、利益の一定割合など本部にノウハウ代・商標利用代などとして支払います)。こうした費用も売上から支払います。

銀行融資の返済

さらに現金だけで商売している店舗はほぼなくありません。銀行から事業資金の融資を受けています。これは住宅ローンを借りる理由を想定してもらえればわかりやすいでしょう。もし現金がたまるまで待っていたら自宅をもつ時期が遅れてしまいますね。ケンタッキーでも同じで、現金だけでお店を開こうとしたらその分だけ開業が遅れてしまい、事業をはじめることができません。

この時点で、今年の利益の数字がだいぶ固まってきます。複数店舗を経営して、その年限りの特殊要因、2020年であれば新型コロナウィルス禍で店舗を閉店したということがあれば特別損失などが出てきますが、そうでなければ大体利益が固まってきます。

ここで税金がとられます

ここで国と地方自治体が税金を徴収します。法人税、法人住民税、法人事業税で、実効税率は事業体によって変わりますが、例えば35%など税金を支払います。

このようなプロセスで名目はともかくとして、売上から仕入れ業者・従業員・外注先・銀行・国などが次々とお金を取っていき、最後にのこったのが株主の利益なのです。

貸借対照表とは

貸借対照表とは、事業に必要な資金をどうやって調達しそれを運用しているのかを示したものです。お金を調達するには、自分か他人が株主になってもらう、または銀行から借り入れるという2つのパターンがあります。

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こうして調達したお金を事業に回していくのです。在庫が必要な商売で有れば在庫に、多額の設備投資が必要ならそちらに回るでしょう。ケンタッキーフライドチキンで言えば、仕入れのために毎日鶏肉・ポテト・小麦粉などを毎日大量に購入しているでしょうし、店舗の内装・外装・店舗内の調理器具に形を変えています。

株主としては貸借対照表も大切ですが、今期以降どれだけ儲かるかの見込みが大事ですよね。もっと儲かれば先ほどの絵で示したところの利益が増えます。利益が増えればそのなかから配当してもらえる分も増えるからです。そして何より儲かっている企業の株価は上昇するからです。

一方銀行はいくら会社が儲かっても、貸付金利以上のものはもらえません。したがって、貸し付けたお金がちゃんと返済されるかという観点で会社を見ます。回収する局面では大赤字となっていますから、最後は会社に残っている資産(バランスシートに表示されている資産)を売却して回収することを考えて貸借対照表を見ています。

もちろん株主も貸借対照表を見ますけれども、株主は一度払い込んだお金は基本的に会社に買い取ってもらうよう請求はできません(会社側から自社株買いという形で市場から吸収することはあります)。株主ができるのはあらたに株主になってくれそうな人に他人に株式を押し付けるだけ。したがって銀行のように、倒産しそうになったらお金が返してもらえるだろうか?という観点では貸借対照表を見ないのです。

株式会社の本質は有限責任で、払い込んだお金以上に損失を負うことはありません。究極を言ってしまえば出資者はどこかの会社の経営が傾いて損をするかもしれないけど、ほかのもっと経営が上手な会社が儲けてくれることがあって、トータルで見れば儲かるという発想になります。

借金をするのは悪ではない

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個人では借金をすることは望ましくないとされていますが、事業では全く話が別です。むしろ商売人が借金するのは当たり前なのです。わかりやすい例として不動産を例に挙げました。この例で現金2,000万円が手元にあったとすると、5%の利回りで毎年100万円の家賃が入ってきます。

一方、銀行融資(借金)を利用すると、4,000万円の物件を購入することができて、家賃収入は毎年200万円に増えます。もちろん銀行から借り入れた資金には利息が付きますから2%分、すなわち40万円を支払いますから実質的には200-40=160万円が手元に残ります。

現金だけで不動産投資を始めた場合よりも、銀行からお金を借りて不動産投資をしたほうが、収益が増えると期待できるのです。ですから儲かるという見通しがある時には積極的に借金をして事業を進めていくのが得策なのです。

3.銘柄紹介:イオン(8267)

銘柄紹介ですが、イオンについて今回は取り上げました。前回は、ニトリをとりあげましたがこのイオンも流通では日本を代表する企業です。イオンは純粋な持株会社で参加に複数の事業会社をもっています。

代表的な4つの事業が、GMS(総合スーパー)、SM(スーパー)、ヘルス&ウェルネス(ドラッグストア)、そして総合金融事業です。

GMSの事業はあまり儲からないのですがヘルス&ウェルネスや総合金融事業部門で着実に利益を伸ばしています。イオンのショッピングセンター開発はイオンモールという別会社が担当しており、店舗の施設管理(清掃など)はイオンディライトという会社が上場しています。両社とも上場企業です。

このようにイオンは巨大なグループ企業をまとめるホールディング会社であり、その巨大なネットワークを活かして、くまなく消費者のニーズに応えるようビジネスを展開しています。楽天経済圏という言葉があるように、イオンにも経済圏があります。イオンモールで休日を過ごし、イオンカードをつかって、マックスバリュやまいばすけっとで日々の買い物をし、イオン銀行で住宅ローンを借りる、イオンで生命保険・損害保険に加入するといった具合です。

イオンのプライベートブランド、TOPVALU(トップバリュ)

イオンでお買い物する方の中にはトップバリュを愛用されている方も多いでしょう。味は正直普通ですが、ナショナルブランドよりも安く作っています。一例として、ケチャップは128円と、カゴメケチャップ(通常198円、セールでも170円程度)よりもずっと安いです。

私はトップバリュの富良野ビールが好きでよく買っています。正真正銘のビールなのに1本150円(税抜き)という安さで、発泡酒を買うより満足度が高いです。アロマが効いていて、すこしあっさり目ですが飲みやすい。食事中に楽しむにはうってつけのビールですね。生産コストを下げるため350m缶しか製造していません。

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OEM先は一流ビールメーカーのサッポロビールです。私はこうして黒ラベルと餃子を一緒に楽しむのがお気に入りなので、丁度あっているのかもしれません。

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4つの秘密で、安全安心と安さを実現

さて、イオンが安くプライベートブランドを作ることができるのは以下の4つの秘密があるからです。


1.計画生産

まずは計画生産。イオンはグループ内に多数の販売チャネルを持っていますから、どれだけ日々特定の商品が販売されるかを綿密に予測することができます。先ほどのケチャップの例でいえば、1日で全国のイオングループの店舗で売れるケチャップの本数が大方わかるわけです。

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そうやって計算した数量に基づいて、過不足なくイオンは協力工場に発注します。裏側を見てみると、販売者はイオンとなっていますが、製造者はイオンから発注をうけた企業の名前が書いてあります。


2.全量買い取り


そして、1.でOEM生産を依頼した分については、すべてイオンが買い取ります。協力生産工場からすると、発注したものの買い取ってくれないということでは生産した分だけ資金回収ができるかがわかりませんから、安心して生産することができません。資金力に余裕があり、流通のトップブランドだからこその協力関係です。

もちろん、それだけの数量を買うのですから、価格交渉はとてもシビアで安売りするよう交渉されるでしょうし、いくら売っても自社製品ではないので消費者の認知度も高まりませんが、ある程度の売上げが確実に見込めるので工場を動かすうえで大切な稼働率を維持することができるという点でメリットがあります。

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3.流通の中間コストの削減

すべて自社グループで流通を管理しており、生産した工場から直接イオングループの店舗に配送されるネットワークを構築しているので余計な流通コストがかかりません。この辺はニトリも全く同じですね。仕入れから販売までを一括していると流通コストを削減することができるのです。

4.営業費・広告費の削減

外部に販売するのであれば営業マンをやとって、商談をしながら販売先を開拓していくものですが、基本的にマックスバリュを販売するのはイオングループ内なので営業活動は不要です。

また、広告宣伝をしなくともイオングループの各店舗を訪れたお客さんが購入してくれるために、莫大な広告宣伝費を支払わなくてもいいのです。この点では似たようにPBを持っている7&iホールディングスは、セブンイレブンでPB商品を購入できることを盛んに宣伝しており戦略が分かれるところですね。

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こうした理由で、イオンのトップバリュは安売りを実現しているのです。ある程度の規模があるチェーン店だからこそできる参入障壁を築いているといえます。

株主優待は現金還元

イオンの株主優待が魅力的で、株を保有しているという個人投資家も多いです。イオン株を保有していると100株以上で、保有割合に応じて半年ごとに利用額の3~7%をキャッシュバックしてもらえるのです。その割合は以下になります。

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一度キャッシュバックを受けると、せっかくならイオンで買い物しようかという心理が働きます。数年前は10万円程度でかぶしきをこうにゅうすることができましたから、当時から株を保有している人は(株主優待狙いの人はまだ保有している人が多そうです)、株式は値上がりするし、毎年キャッシュバックはもらえるしということで、ますますイオンに傾倒しそうです。

最近の業績

売上はグループ全体ではほぼ横ばい。2020年は新型コロナの影響で店舗のスクラップアンドビルドを続けたこと、緊急事態宣言中の閉店に伴い費用がかさんだことが影響して、当期の最終純利益はマイナスになってしまいましたが、今期はその要因はなくなりますし、株価も業績が回復することを見越して上昇しています。

イオン(8267)の10年チャート(SBI証券より)

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編集後記

放送終了後、今回もお弁当とクラフトビールをご用意していただきました。一時間半話し続けてから飲むビールは最高!チキンを食べて(ツイスターもたべた)から放送し、すきなだけ話してからビールをいただくという素敵な一日でした。

そして共演者のオンザボード和田さんから私が好きなBROOKSIDEのチョコレートセット(箱入り!)をプレゼントしていただきました!毎日のコーヒータイムが充実します。ありがとうございました。

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株式投資虎の穴について


株式投資虎の穴は初心者向けに、株式投資を面白くお伝えするインターネット放送です。オンザボード代表和田憲治氏と、サラリーマン投資家長田淳司が対談形式でお送りしています。

隔週月曜日放送で、次回は7/5(月)20:30~放送します。放送内容の事前告知などはツイッター(@nagata_junji)ヲフォローしてご確認ください。

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