結月ゆかりと量子力学01【黒体放射】
うーーー! 寒い! 寒いよゆかりん!
温かくなるまでストーブつけてていいですよ。
ゆかりんに抱き着いたら温かくくなるかな? えいっ!
もう、マキさんはこうやっていつもいつも……。私はゆたんぽではありませんよ?
えへへ。ゆかりんあったかーい。
私から熱を奪わないでください。そこにストーブちゃんがいるでしょう?
そうだけど……そうじゃないんだよ!(><)そういえばさ、ストーブってどうして温かくなるのかな? こうしてくっついて暖かくなるのはわかるけどさ。
そうですね、こうしてくっついて熱が伝わる現象は、熱伝導と呼ばれます。それに対して、ストーブのように熱が空間を隔てて伝わる現象を、熱放射と呼ぶんですよ。
へぇ~。さっすがゆかりん! ものしり~♡
もう少し詳しくお話しすると、熱放射は熱が電磁波として伝わる現象なんです。電磁波ですから、媒質のない真空中でも伝わることができます。太陽からの熱放射(太陽放射)がわかりやすい例です。
ああそっか。太陽から熱が伝わるのは、真空中を電磁波が伝わっているからなんだね。
そうです。それから、太陽やストーブからの熱が温かいと感じられるのは、遠赤外線と呼ばれる波長の長い赤外線によるものです。どのような波長の電磁波が出てくるかは、熱源の温度によって異なっているんですよ。
温度によって出てくる電磁波の波長が違うの?
はい。例えば、このストーブは赤色をしていますが、これは赤色の光が強く放出されているからです。もっと温度が高くなると、青白く見えるようになります。このことから、赤い星は温度が低く、青白い星は温度が高いということがわかったりするんですよ。
へえ~。ストーブと星の間に、そんな関係があったんだね。
ただし、物体の色というのは熱放射によるものだけでなく、通常はその物体で反射した光も含まれているので注意が必要です。そこで、熱放射について詳しく考えるために、すべての光を吸収してまったく反射しない理想的な物体を考えることにしましょう。これを黒体といい、黒体からの熱放射を黒体放射と呼びます。
光をまったく反射しないなんて、そんなものあるの?
現実的ではないですね。そこで、ある程度の大きさの空洞を考えて小さな穴をあけ、その穴から放出された電磁波が調べられました。外から空洞内へ入社する光もあるでしょうが、空洞の内壁で反射を繰り返すうちにやがて吸収されてしまうため、熱放射のみが観測できるという仕組みです。これを空洞放射といいます。それでは、こうして得られた熱源の温度と、出てくる電磁波の波長の関係を見てみましょう。
大きな山の部分と、平坦な部分があるね。
なんだか言い回しが気になりますが、まぁいいでしょう。これは、各温度の熱源からどのくらいの電磁波がどのくらいの強さで含まれているのかを現したグラフです。温度が高いほど、全体的に強い光になっていますね。また、ピーク部分の波長は、温度が高いほど短くなっていることにも注目してみてください。具体的には、6000Kでは約480nm、4000Kでは約720nmになっています。
ほんとだ。だから温度が高いほど青白く、温度が低いほど赤く見えるんだね。
その通りです。そして、この温度$${T}$$とピーク部分の波長$${\lambda _{max}}$$の間には反比例の関係があり、これはウィーンの変位則と呼ばれています。
$$
\lambda _{max} = \frac{b}{T}
$$
この関係を用いることで、太陽の表面温度が約6000Kであることが分かったんですよ。
なるほどー。
さて、ここまでは実験結果から読み取れる内容の紹介をしてきましたが、ここからは、どうしてこのような結果が得られるのかについて考えた研究者のお話をしていきたいと思います。実験結果としてグラフが得られたとき、このグラフを式で表すことができれば、現象をより深く理解することができそうですよね。そこで、1894年に、先程も名前が登場したウィーンさんがこのような式を提案しました。
$$
u(\lambda ,T) = \frac{f(\lambda T)}{\lambda ^5}
$$
これを、ウィーンの放射法則といいます。実験結果と重ねてみましたが、いかがですか?
おおー、すごい! ほとんど一緒じゃん!
そうですね。しかし、ウィーンさんのこの式は、導出する上での物理的な根拠が薄いという問題点がありました。そこで1900年にレイリーさんは、統計力学と呼ばれる考え方を導入して式を導くことを試みたんです。
$$
u(\lambda ,T) = \frac{8\pi kT}{\lambda ^4}
$$
これは、その後修正を行ったジーンズさんの名前を加えて、レイリー・ジーンズの法則と呼ばれています。
うーん? だいぶずれてない?
ええ。波長が長い部分だとうまく合っていたのですが、波長が短くなるにしたがって、どんどん値が大きくなってしまっています。この2つの法則と実験結果との関係は、横軸を周波数$${\nu }$$にするとよくわかりますよ。比べてみてください。
ウィーンの放射法則は、周波数が大きな部分ではよくあっているけど、小さな部分ではずれているね。逆に、レイリー・ジーンズの法則は、周波数が大きい部分はあっていないけど、周波数が小さい部分では一致しているね。
そうなんです。どちらの法則にも足りない部分があったわけですね。その後、この問題に決着をつけたのはプランクさんという方でした。プランクさんは、まずウィーンの放射法則をこのように直しました。
$$
u(\nu ,T) = \frac{8\pi h \nu ^3}{c^3} \frac{1}{e^{h\nu / kT}}
$$
そしてあるとき、分母から気まぐれに1を引いてみたところ、ピタリと実験結果と一致したのです!
$$
u(\nu ,T) = \frac{8\pi h \nu ^3 }{c^3} \frac{1}{e^{h\nu / kT}-1}
$$
はじめはどうして上手くいったのかわかりませんでしたが、その出来事からしばらくして、理論的に導くことにも成功しました。これを、プランクの法則といいます。
気まぐれにって面白いね。そして、それを説明しちゃったのもすごい!
本当ですよね。そしてプランクさんは、この法則を導く過程で、電磁波のエネルギーは連続的な値ではなく、とびとびの値しか取ることができないという過程を導入しています。この考えを量子化といい、1つ1つの数えられる単位を量子といいます。プランクさんが導いたこの法則は、量子論、そして量子力学の世界へとつながっていくことになるのです。これからマキさんには、そんな不思議な量子力学の世界を体験していただこうと思っています。
わ~い! ゆかりんと一緒ならなんでも楽しみだよ。よろしくね!
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