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箸にも棒にも 【奥義】

いつの時代も小学生男子は、戦う系の漫画やアニメが好きですよね。

今なら鬼滅、少し前ならワンピースでしょうか。

僕が小学生の頃は、男塾が人気でした。

「聞いた事ありませんけど」という人の方が多いと思いますが、一定の年齢層では圧倒的な指示を得ていたのです。

この漫画、作中に引用されている文献(民明書房刊)が、とにかく凄かった。

例えば、死地に赴き、今まさに戦っているであろう仲間のためにできることはないかと思案します。

そして、残された者が一丸となり大声を張り上げて応援するのですが、参考文献として以下の引用がありました。

【魁!!男塾】
その由来は戦国時代武田信玄が上杉謙信との合戦に於いて、どうしても援軍にいけず、苦戦におちいっている遠方の味方の兵をはげますために、自陣の上に一千騎の兵をならべいっせいに大声をださせ檄を送ったという故事に由来する。
その距離はおよそ二十五里。キロになおすと100キロ離れていたというから驚嘆のほかはない。余談ではあるが、昭和十五年の全日本大学野球選手権に於いて、W大応援団のエールは神宮球場から池袋まで聞こえたという記録がある。
民明書房刊『戦国武将考察』より

如何でしょう?実に興味深いではありませんか。

社会科の授業で使う地図帳を引っ張り出し、神宮球場と池袋の距離を調べたのは言うまでもありません。

とても声が届く距離だとは思えませんから。


別の場面、暗闇の中で驚異的なパフォーマンスを発揮するキャラの秘密をこう語っています。

黒闇殺・・・・・・全く目のきかぬ闇夜や暗い屋内での殺傷を目的とした暗殺拳。この修行方法としては、目隠しをして禅を組み他の者に針を地に落としてもらい、その気配を察知することから始める。
初めは耳元からだんだん距離を遠くし、最低でも十Mの距離から針の気配を察知できねば、この拳は極められないという。つまり聴覚視覚など五感はもちろん、大切なのはその場の微妙な空気の動きをよむ、とぎすまされた超感覚をやしなうことにあるのである。
民明書房刊『世界の怪拳・奇拳』より

なんと?五感を研ぎ澄ませば、10M離れた場所で落とされた針を感知できるというのです。

教室でお互いにシャーペンの芯を落とし合い、「われ黒闇殺を極めん!」と鍛錬に明け暮れる男子生徒が続出したのは必然でしょう。

実際にやってみると、さっぱり分かりませんでしたけど。

ちなみに、われらが@ももまろさんは、ボールが弾む音を聞いただけで種類を判別できるのだとか。さりげなく凄くないですか?


一事が万事、上記の要領で、敵味方関係なくキャラたちの卓越された技が紹介されていくのです。

これはもう、何としても原本を手に入れなくてはなりません。

思い立ったが吉日、なけなしの小遣いを握り締め、近所の爺さまが営む本屋さんへ駆け込みました。

こぢんまりとした店内の百科事典が並ぶ棚を中心に物色しますが見つかりません。

カウンターに鎮座した爺さまが、こちらの様子を伺っているのが分かります。

万引きする気などないから、こっちみんな。

歓迎されていない雰囲気に耐え切れず尋ねてみる事にしました。

僕 「民明書房刊ある?」
爺 「今は置いてないみたいやな。取り寄せたるで?」

今とは違い数日では届きません。本の取り寄せには数週間、下手をすると1ヵ月掛かる時代です。

とても受け入れられない提案でしょう。爺さまの娯楽に付き合っている暇などありません。

「しょぼい本屋にはないと思ってたわ」とkojuro少年並みの悪態をついて、足早にその場を立ち去りました。さらばだ。



その後、街で1番大きな本屋さんに行ってみたものの、またしても空振り。

こうなっては仕方ありません。府で最も蔵書が多いと評判の大型書店に向かうことに決めました。もちろん自転車で。

書店の触れ込みにも『お探しの本がきっと見つかります』とあるのですから期待できそうです。

とはいえ、遠く離れた大型書店まで自転車で行けば、どれくらいの時間を要するのか皆目検討もつきません。

そのうえ道も分からないのでは、日を改めるしかなさそうですね。



そして、念願の大型書店にやってくると、さすがに府下で1番と謳うだけの事はありました。

これだけの本棚が並ぶと壮観ですが、どこを探せばよいのやらさっぱり分かりません。

早々に自力で見つけ出すことを断念し、たくさんいる店員さんの1人に尋ねます。

すると、あろう事か「民明書房刊というタイトルの本はない」などとのたまうのです。

致命的な事に出版社が不明だと、どうにもならないとのこと。

使えねぇな。

「お探しの本がきっと見つかります?その看板は下ろした方がええよ」と一方的に告げるやいなや、そそくさと撤収したのでありました。さらばです。

なお同時期、全国の書店では「民明書房刊」を求める小中学生が続出し社会現象になったとか、ならなかったとか。


ついぞ民明書房刊は発見できず、いつしか存在すら忘れていたのですが、先日ついうっかり発見してしまいました。

さすがは世界の大型書店やで・・・。


※注 「民明書房刊」とは男塾の作者である宮下先生の創作です。真に受けてはいけません。

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