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気持ちの伝え方2

 最近あの子の元気がない。友だちと話すときは笑ってるけど、目の輝きが少ない。私が大好きなあの輝きが足りない。悲しい。

 こういう時は大丈夫?と訊いても意味がない。全然大丈夫じゃなさそうに大丈夫と返事をするだけだろう。
 かといって、ダイレクトに暗さの理由を尋ねるのも怖い。私なんかの意見でどうこうなる問題なら向こうから話してくれるだろう。そうじゃないということは私が質問しても不愉快なだけかもしれない。

 なんて考えていたころ、七夕の願い事を書かされた。高校生にもなって! 近所の人がご厚意で竹を切ってプレゼントしてくれたらしい。みんなで短冊に願い事を書いて竹に結び、後日ちゃんと焼くのだという。ありがた迷惑なやつだ。仕事を増やされた教師からすればご厚意が悪意にしか思えないかもしれない。いくら田舎で土地が余ってるとはいえ竹を燃やすなんてなかなか大変だ。
 まあいい。とにかく何か書かなくては。

 ふと顔を上げるとあの子の書いた短冊が見えた。
 「空から金平糖が降ってきますように」
 さすがのセンスだ。そして私は決めた。書く内容をじゃない。あの子のために金平糖を降らせる決意をした。

 金平糖を買ったはいいが、チャンスはなかなか来なかった。わざわざどこかに呼び出すと大げさな感じがして嫌だ。他の人がいる場面ではなんだか恥ずかしい。そしてあの子は人気者。
 そんなこんなで金平糖を買ってから1ヶ月があっという間に過ぎた。バッグの中でもまれた金平糖はお互いにお互いを削り合ってカスが増えている。よく見るとかわいいトゲトゲが減っている。社会に揉まれて荒んでいく人間みたいだと思った。
 もう仕方がない。今日やるしかない。あの子の部活は今日はないはずだ。私が部活を休めば一緒に帰れる。

 いざそのチャンスを目の前にすると、やたら緊張した。私が真剣に心配していることは恥ずかしいから隠したい。いたずらっぽくさらっとやりたい。あの子は今私の20メートルくらい先を歩いている。周りに人はいない。音で気づかれないようにそーっと袋を開けて金平糖を握る。手汗でさっそくぺたぺたしてきた。早くしないとぺたぺたがベタベタになって投げられなくなってしまう。足音を立てないように、でも急いであの子に近づいて、やっと投げた。

 「痛っ! え?」
 あの子が言った。成功か?
 
 それからどんな話をしたかは覚えていない。何か言い訳をして、一緒に金平糖を拾って帰った。痛いと言っていたが大丈夫だろうかとチラッと様子を伺うと、あの子は泣きそうに微笑んでいた。その目には輝きがあった。私の好きな輝きが。思わず私もニヤっとしてしまう。根本的な解決にはなってないけど、私にできることをしっかりやり遂げた達成感でいっぱいになった。これで夏休み中あの子と会えなくても頑張れそうだ。

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