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受験期と後悔 【短編小説のようなもの】

「さっむ」
誰もいないのについ口から出てくる。
また一日が終わるのか。今日私は何を学んだんだろう。どれくらい成長したんだろう。

もうしっかり夜だ。夕飯を終えた家庭も多いんじゃないだろうか。
寒さと疲労でため息をついて、自転車にまたがりながら空を見上げる。星がきれいだ。田舎のいいところ。

今日も頑張った。多分。
自転車をこぎ始めると冷たい風が顔と膝を攻撃してくる。鼻が痛い。家につくころには真っ赤になっていることだろう。
朝早くに登校してこんな時間まで学校で勉強していた。一般的には大学受験をする人は塾に通うことが多いのではないかと思うがこの辺は田舎すぎてそんなものはない。

いや、そもそもこの地域においては大学受験が一般的ではない。定員割れしている学校しかないのだ。就職するか専門学校に行く人が大半である。学校も事情がわかっているから自習のために教室を開けてくれるのだが、それを利用する生徒も数人しかいない。

だから授業のレベルは低いし放課後も進路が決まった人たちは楽しそうにバカ騒ぎして早い時間に帰る。

私は何をやっているんだろう。

志望校らしきものはある。でも自分が本当にそこに通いたいのかはわからない。自分が得意なことはだいたいわかっているし、それが勉強だったから私は大学進学を目指している。でも本当にこの学校、この分野でいいのだろうか。将来何になりたいかなんてわからない。逆にこんな人生の初期段階でやりたいことがはっきりしてる人ってなんなんだろう。私とは何が違うんだろう。

ただわかっているのは、この受験で失敗したら私はひどく落ち込むだろうということ。やりたいことがないとは言っても、どうなってもいいとは思えない。できるだけ高いレベルの大学に受かりたい。私には勉強しか取り柄がないのだから。

それとも、勉強すらも取り柄とは言えないのだろうか。レベルの低い田舎で育ったせいで自分は頭が良いと勘違いをしているだけなのだろうか。自分のレベルを把握するために模試があるんだろうが、点数も偏差値も上下してばかりで何を信じればいいのかわからない。こんな状況で世の中の受験生はどうやって精神を正常に保っているのか。

私はもう狂っていると思う。とても静かに。
教師も親も知らないだろう。授業中にイライラしすぎて手のひらや腕をつねっていることなんかは。

私は愛想がよくて勉強ができる優等生だから。大人は誰も私のことなんて心配しない。

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私は第一志望の大学に受かった。手応えは決して良くなかったから倍率が低かったおかげだと思っている。
そして優等生ではなくなった。周りの人に比べたら頭が良いとは言えないし授業だって遅刻・欠席・居眠りばかりしている。

勉強するために大学に入ったはずなんだけど。本当に私は何をやっているんだろう。バイトや夜遊びに精を出しているわけでもない。やりたいことというものはまだわからない。

高校の頃に狂った私の精神は勝手に整うことなんてなく、更にひどいことになった。あんな高校に通うんじゃなかったと、何度考えたことか。
でも、もう後悔はできなくなった。高校でできた友だちは私の心の支えだし、大学でも良い出会いがあった。それに何度も救われた。これらの人間関係は私の抱える闇があってこそだ。

「高校時代に戻りたい」なんて言える人が羨ましく感じることはあるけど、私の人生だって捨てたもんじゃないんじゃないかな。

いつかまた、今の選択や行動を後悔する日は来るかもしれない。でもそのときはそのとき。未来の私に任せる。

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