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小説「二人話」 1-1

 序 一

 あたり一面の草原。天気は快晴。
 そこに1件の小さな古びた丸太小屋が建っていた。その小屋から少し離れたところに、ヴィクトリア調を思わせる作りをした白塗りのテーブルが一卓と、そのテーブルを挟んで向かい合わせにイスが二脚用意されていた。
 テーブルの上にはデザインを合わせたかのような、ソーサーの上に乗った陶磁器製の白い紅茶カップが二客がそれぞれのイスの前に置かれていた。カップからは湯気が立ち上っているが、中に入っているのは単なるお湯だ。
 別にこれは紅茶を注ぐ前準備に入れられたカップを温めるためのお湯ではない。以前はきちんと紅茶を入れていたのだが、客人が水を湧かしたものだけにして欲しいと所望したためだ。
 当然ながらテーブル中央に用意されている陶器製ポットの中身もお湯しか入っていない。

 片方のイスにはこの場を準備したホストである男が座して客人を待っていた。
 しばらくすると客人が現れ、挨拶もそこそこに空いてる方のイスに腰掛けた。

 客人はお湯でくちびるを湿らせ一呼吸し、再度カップに口を付けて一口だけお湯を飲み口の中を湿らせてから、いつもの一言をホストに発した。

「さて、今日はどんな話を聞かせてくれるんだ?」

 ホストは唇の端を微かに上げて微笑み、一呼吸の間を置いてから答えた。

「身体が機械になった男の話だ」

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