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「週刊読書人」(2024年2月16日号)に杉浦静『宮沢賢治 生成・転化する心象スケッチ』(文化資源社)の書評を書きました。

 宮沢賢治の『春と修羅』は、一見詩集のように見えますが厳密に言えば、そうじゃありません。賢治本人は、それを〈心象スケッチ〉と呼び、〈仮定された有機交流電燈の/ひとつの青い照明〉である〈わたくしといふ現象〉が明滅する瞬間の影と光、つまり、外界の風景を前にした心の機微の描写と捉えたのです。ノートに記されたそんなスケッチは、いくたびにもわたる差し替え、加筆、削除を経て、作品集として編まれていったわけです。

 この本は、賢治研究の第一人者として、この〈心象スケッチ〉の生成変化そのものを実証主義的な研究の手法をひたすら貫徹するやりかたで問うてきた杉浦静氏の集大成となる約500ページの大著。杉浦氏は、約三〇年前の労作である前著『宮沢賢治 明滅する春と修羅』で、心象スケッチの推敲によって生まれる逐次形をつぶさに観察し、その生成と解体のダイナミズムを論じたわけですが、この本はいわばその続編です。

 杉浦氏はとにかく賢治の文章をスタティックなものとして捉えません。テクストを動的に見つめることで、静的な視座では映らなかった情景――作者の表現上の原風景――を立ち上がらせるわけです。実証研究とはかくもサスペンスフルなのか。そう再び思わせ、文学研究の根源部にあったはずの、あの、わくわくをもう一度教えてくれるのが、この大著の魅力でもあります。

書評ではその魅力をたっぷりと論じています。どうぞお読みください。

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