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「週刊金曜日」(2024年5月10日号)に上川多実『〈寝た子〉なんているの?』(里山社)の書評を書きました。

知らないという何気ない状態が誰かに痛みを与えているという事実。この社会のなかで責任を持って生きることの意味。たくさんのことを教えてくれる本です。

著者の上川多実さんは被差別部落にルーツを持ちながらも、東京で育ちました。だからこそ、上川さんは幼い頃から違和感を感じながら日常を過ごしていたと言います。それを内と外のズレという言い方で上川さんは表すのですが、つまり、両親に教わった差別の実態が家の外では共有されないわけです。

東京では、差別を知るための教育すらない。そのおかしさと向き合った本書に綴られるのは、痛みを理解されない上川さんが歩んできた約40年間の孤独な日常の風景です。教室。部活。子どもの幼稚園。ズレはこの社会の至るところにある。そんな空間で生きていく上川さんの心細さがどれほどのものか、少しの想像力があればわかると思います。

上川さんは部落について話すことを〈心の中の壊れやすい柔らかい部分を取り出して人に見せること〉だと言います。そうした柔らかいところをそっと優しく受け止める人たちが、この本のなかにはたびたび出てきます。そのたびに、目頭が熱くなるのですが、でも、求められているのは無責任な感動なんかじゃないですよね。では、何が必要なのか。それは、この本を手にした一人ひとりの読者が考えるべきことだと思います。

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