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「週刊金曜日」(2023年5月19日号)に楊双子『台湾漫遊鉄道のふたり』(三浦裕子訳、中央公論新社)の書評を書きました。

昭和十三年。日本の小説家、青山千鶴子のもとに台湾への招待状が届きます。すると、彼女は、映画化され海を渡った自作についての講演のために一年間、台湾に滞在することになる。北へ南へ旅する青山千鶴子は大の美食家。〈島への尽きせぬ興味〉に駆られる彼女の旅の目的は、台湾の生活を自分で味わうことにあります。この小説はそんな彼女が植民地時代の台湾を旅してまわりながら、植民地時代の台湾を食べ尽くすという、歴史に根ざした「食レポ小説」なのです。

例えば、本作には麻薏湯という台湾の郷土料理が出てきます。

黄麻の、繊維がまだ固くなっていない先端部分の葉だけを摘み取る。

竹箕の上で程よい力加減で揉み、若葉を細かくくだいていく。時おり流水に晒して苦味を抜く。(中略)大きな鍋に水を沸かし、一口大に切ったさつま芋を好みの量入れ、強火で煮る。そこに揉み終わった麻薏の葉を、手でほぐしながら加える。翡翠色の塊が鍋の中でほどけ、広がっていく。

最後にお米の重湯を加え、スープは完成。それをご飯の上からかける。そして、パクッと一口。

苦みの後に甘さが残るのは、お茶漬けと一緒ね。(……)大丈夫、これなら何杯でもいけるわ!

こんな具合に、青山千鶴子の幸せそうな感嘆の声が本作のあちらこちらで響き渡る。食欲が刺激されるので、空腹時は要注意。

さて、そんな彼女のお供をするのは現地の通訳、王千鶴。台湾の食事、慣習、歴史に精通した彼女が青山の、そして読者のガイドとして、それぞれの土地に染み込んだ文化の薫香を詳しく解説してくれます。そこから広がる馥郁たる香りが、台湾の人々が大切にしてきたアイデンティティを、いま、僕たちに確かに伝えるのです。

美食を求める二人の千鶴は親しい関係性を育む。ですが、その関係性には支配 ― 被支配の構造が必然的に内包されます。その危うさのなかにある二人の友情ははたして美しいのか、脆いのか。青山がその体験を小説として綴り、王が翻訳したという体裁の本作が導く結論に、二人の歴史の先に生きる僕たちは、文化と向き合うときの居ずまいを正されるに違いありません。では二人はどんな結論を示すのか、ぜひ、本作をお読みください。

最近、魯肉飯の作り方を覚えました。一日かけてとろっとろに豚バラ肉を煮込んで作る、魯肉飯、まじうまいです。五香粉が決め手。

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