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「週刊金曜日」(2023年10月6日号)に津村記久子『水車小屋のネネ』(毎日新聞出版)の書評を書きました。

ある姉妹が、山深く自然に囲まれた静かな町に引っ越してくる。十八歳の理佐は、母親の婚約者の暴力から八歳の律を匿うために、逃げるようにここへ移り住んだ。理佐が職を得た蕎麦屋は川のほとりに建つ水車小屋で蕎麦粉を挽いている。その番をするのが、寿命が50年近くあり、人間の三歳児ほどの知能を持つヨウムという鳥のネネ。おしゃべりなその鳥の世話を任された二人の人生を描く小説は、水車小屋に流れる1981年からの40年という時間を物語に刻み込んでいきます。

孤独な二人は街の人々に助けられながら生きていくのですが、物語に描かれる人と人の距離感が素晴らしいんです。お節介なほど近くなく、でも、孤独を忘れられるほどには遠くもない。そんな関係性のもと、二人は、自分の足で地をふみしめながら、立つ。彼女らを見守る人々の優しい視線の温かさに、津村記久子さんの小説の特徴でもある、人間への信頼を強く感じさせます。

ほんと、40年の時間とその間に成長し続ける人間を描いた、とんでもなく美しい小説だと思いました。書評には津村記久子さんの小説への僕の強い想いも綴りました。ご笑覧ください。

あ、あと、40年という時間を見守るヨウムのネネがすごくすごくチャーミングなんです。賢くて、お茶目なネネに釘付けになること必至な小説なんですけれども、ヨウム? ただの鳥でしょ?って人はぜひ、このYouTubeをご覧あれ。ヨウムの知性と愛嬌、あなどれないよ。

*ヘッダーの写真は毎日新聞出版さんのXから拝借しました。

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