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漫画の話.1 藤子F不二雄

子供の頃、駅前の商店街で育った。

父は都内の会社のサラリーマンだが、祖父母と叔父叔母が商売をしていた。長男の嫁である母は、その手伝いや家事全般をこなしていた。

大人たちはみんな忙しく、子供は大人の邪魔をしないよう、静かに過ごす事を求められていた。そんな背景もあってか「本を買いたい」と言うと、割とすんなりおこづかいをくれた。

とは言え、本屋で新品の本を買うわけではない。
近所には古本屋がたくさんあったので、100円をもらって1冊だけ買いに行くのだ。
ほぼ毎日行くので、数軒の古本屋の、どこに何が置いてあるかをだいたい憶えていた。

小学校低学年の頃は、藤子不二雄の作品をよく読んだ。
「ドラえもん」「オバケのQ太郎」「パーマン」「21エモン」「キテレツ大百科」「ウメ星デンカ」など、何度も何度も読んだ。
藤子不二雄作品だと、子供に良い影響を与えると思うのか、おこづかいをもらえる確率が上がるのも理由のひとつだ。

確か小学5年生の時だったと思うけど、友達が「これ知ってるか」と差出した本が、「SF短編集 ひとりぼっちの宇宙戦争」だった。
藤子・F・不二雄作品は誰よりも詳しいと思っていた僕が、全く知らなかった。
それもそのはず、子供向け作品が多い作者の、希少な青年誌での読切り短編集だったのだ。借りて読んで衝撃が走った。
あの、ドラえもんと同じ絵柄で、大人向けの内容。カレーに例えると甘口だと思って食べたら激辛だったようなものだ。

藤子・F・不二雄の「SF」は「少し・不思議」を意味していて、常識や日常の何かがちょっと違うとどうなるのか?ってテーマが根底にある。
例えば「ミノタウロスの皿」では、牛と人間の立場が入れ替わり、牛が人間を家畜として育て、食べる世界の話だ。
人口が増えすぎた未来の地球では、食料が配給制になり、ある年齢になるともらえなくなる「定年退食」も、読んでいてゾッとするけど、考えさせられる面白さだった。
生命や欲望や善悪など、作者の深い洞察力と想像力で話をまとめ、優しさや諦観で締める。読み終えてもスッキリしない、後味の悪い作品もある。

世の中の様々な事象や、デザインの意図など、物事の本質的な部分を意識したり、なぜどうしてそうなったのか、他の方法を選んでいたらどうなったのかを想像するくせがついたのは、この作品集の影響が大きいと思う。


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