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詩 『1999』

分裂する
浜辺で鯨の群れが
打ち上げられ
死んだ
七年前の話
標本は
図書室にある
彼女は肋骨を盗んで
文庫本の栞にした

少女たちが
自分たちのシルエットを投げこむ
夕日の落ちた海に向かって
詩人が
たまたま通りかかったフリをして
火をつける

美しくなんかなかった
憧れはくろぐろと
燃えていくさまを
写真家が撮影する
長時間露光で
少女たちの気づかないあいだに

ある
なんてことのない
砂埃の立つ夏に
おぼろげな道を歩いた
一日
わたしの少女時代のすべてが
そこにあった気がする
しゃぼん玉のきらめきは
固い地面には
まだ届いてない

一瞬だけ未来が見えた
彼女と一緒にみた
数秒さきのみらいを
もうすぐいなくなるわたしたちの
重力への抵抗のために

ものがたりはきえる
なにも歌わないカエルの王子さま
ぶさいくなお姫さま

わたしたちの約束

いつになっても
果たされないまま
チューリップの
おおきなおおきなはなびらに
包まれるだろう

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