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双方向メディア(Zoom)を用いた発達支援・実習の試み(速報)(2) -音楽模倣遊びの分析による障害特性の理解と遠隔支援・実習の可能性の検討-

○杉山志津枝1 長崎 勤2  伊藤和佳3  板倉達哉4  吉井勘人5
(1明星大学通信教育学部大学院)(2実践女子大学生活科学部) (3江東区こども発達センター塩浜CoCo) (4文京学院大学)   (5山梨大学教育学部)            
 KEY WORDS: Zoom臨床 音楽活動 障害特性の理解

★日本特殊教育学会第58回大会(福岡・リモート開催)2020年9月19-21日(ポスター発表予定)
Ⅲ.結果: 
1. 音楽模倣遊び:模倣遊び「こんなことできますか?」の「頭ぐしゃぐしゃ」と「鼻をつまむ」の各約1分の内はじまりの約10秒を比較検討。Zoom録画から①プロトコルを作成(Table1,2)②「Windows10 Media Player」で0.25秒ごとコマ送りのタイムサンプリングで、注視方向(+:MT注視、-:それ以外)と注意持続時間を測定(Table3,4)。1)「頭」では開始後7.0秒間の注意持続がみられ模倣できたが、「鼻」では、開始後3.0秒で注意が逸脱・中断され、模倣は出来なかった。2)リズミカルなターンテーキングは困難だが母親の模倣をして応答した。
2.その他の活動の結果
①はじめの会:自分の食べた美味しかったものをピアに紹介した。②劇遊び:MTの演技を注視し、役割確認での「おじいさん!」の呼びかけに、「はーい」と返事。おばあさん(母親)の「コップを持ってきてね」に応じ、コップをおばあさんに渡す。ほめられると嬉しそうに笑う。③言語<宝物探し>:指示された、電車、□の形→ロボットの部品、○の形→腕時計、赤い色→ぬいぐるみを持ってきて見せる。その他、自分から△の形をしたロボットの図柄を持ってきて見せる。④「カルピス」づくり:母親に「白とぶどうどっちがいいですか?」と尋ね、MTの「お母さんは美味しいかな?」の促しで、「美味しい?」と聞いた後に、母親の顔を注視。
全体では課題の目標項目の70-80%を達成。
3.反省会と振り返り:参加者の感想には、限られた環境の中で工夫してアセスメント・支援する姿勢の重要性に言及。また、Zoom状況の共同注意や表情・情動理解の難しさは、ASD児者が日常的に経験していることかもしれない、との感想も。
Ⅳ.考察と支援への示唆
1.音楽活動の分析を通したT児の障害特性の理解
1)視覚的、聴覚的な注意の持続の制約(注意転導):3~7秒で注意が転導する傾向が見られた。このことから本児では、5秒前後で指示を伝えることの必要性が示唆された(「・・してもらってもいいですか?」→「・・して下さい。」など)。他者への関心、他者の関心への関心(共同注意)の困難性も伴い注意への多様な合理的配慮が必要といえる。
2)リズミカルなターンテーキングの困難性:「♪Tくん、→♪はーい、→♪こんなことできますか?→♪こんなことできますよ」といったリズミカルなターンテーキングが困難であった。典型発達児では、新生児期から、母親とのリズミカルな身体同期が見られ、マザリーズによって、養育者と発声のピッチ・イントネーションの同期が見られる。一方、ASD児の身体的リズム同期の困難性が指摘されている。Zoom臨床ではこの特性が“Zoom(拡張)”されたともいえるであろう。「相互性(reciprocity)の障害(DSM-5)」、相互主観性の困難性などへの配慮・支援が必要といえる。
3)身体イメージの困難性:「頭」という粗大な身体部位に比べ、「鼻」という微細な身体部位が困難であった。検査では5つの「目、鼻、口、手、おなか」の身体部位の理解は可能であったが、模倣遊びでは難しく、本児の身体イメージへの支援の必要性が示唆された。    
以上から、音楽模倣遊びの困難性は、注意、ターンテーキング、身体イメージの困難性の各要因の相互作用の可能性が示されたが、今後他の課題も通してこれらの要因について検証してゆく必要がある。緊急対応であったが、T児の障害特性の理解、またアセスメントとして有効であったといえる。
2.Zoom臨床ならではのメリット:①ディスプレーへの注目のしやすさ:Zoom場面ではディスプレーに注目しやすく、ディスプレー内では一定の注意も可能で、模倣もスムーズに見られる場面もあった。②家庭の生活の理解、家族の協力:椅子取りゲームのような家族での遊びや「いちごのヘタ取り」などのお手伝い課題の様子を直接みることが可能。
3.Zoom臨床実習の可能性:学生との直接面談は0回であったが一程の実習経験が得られた。学生の感想から、災害や感染拡大時のZoom臨床実習の可能性も得られた。普段のスタッフ間のコミュニケーション、計画的指導の準備が重要といえる。
4.Zoom臨床での合理的配慮(まとめ):T児の特性への合理的配慮としては、①ST(補助指導者)不在のため事前に母親・父親に段階的援助などの支援のポイントを示す、②複数画面提示のために発話者の存在を視覚的に示す、③発話、動作・表情を明確に、④言語の指示は短く(5秒程度)で明確に、⑤画面の登場人物は少なく、⑥自宅ならではの課題の設定、⑦父親・家族の協力、などが考えられる。
5.新たな障害理解の観点:参加者の感想にも見られたように、Zoom会議や授業・臨床を経験して感じた、共同注視、微妙な表情・情動理解、共話、ターンテーキングの難しさの実感などは、ASD児者が日常生活の中で常に経験、感じている“Zoom的日常生活”なのかもしれない。Zoom状況は皆がASD児者の世界に合わせるため、コミュニケーションしやすい・生きやすいという面の可能性もあり今後の検討課題である。(ご協力頂き発表をご了承頂いたT児のご家族に感謝します。本研究は科研費・基盤研究(C)、学内研究助成の補助を受けた。実践女子大学生活科学部生活文化学科長崎研ゼミ生との共同研究である)(SUGIYAMA Shizue, NAGASAKI Tsutomu , ITO Nodoka, YOSHII Sadahito , ITAKURA Tatsuya)

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