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双方向メディア(Zoom)を用いた発達支援・実習の試み(速報)(1) -5歳・発達障害児へのICT遠隔支援の問題・目的・方法-

○長崎 勤1  杉山志津枝2 伊藤和佳3  板倉達哉4  吉井勘人5
(1実践女子大学生活科学部)(2明星大学通信教育学部大学院) (3江東区こども発達センター塩浜CoCo) (4文京学院大学)(5山梨大学教育学部)            
 KEY WORDS: Zoom臨床 発達障害児 学びの権利

★日本特殊教育学会第58回大会(福岡・リモート開催)2020年9月19-21日(ポスター発表予定)

Ⅰ.問題と目的:2020年3月-5月の新型コロナウイルス(COVID-19)感染対応で休校が続き、子供・学生の学びの権利が制限された。このような事態によって、学力の格差・不平等の拡大が懸念されるが、障害児にこそ学びの継続が必要である。一方、インターネットを用いた双方向メディアツール(Zoom等)を用いた遠隔による新たな学び方・実習の可能性も出てきており、障害特性に合った遠隔支援・実習の可能性と課題を検討する必要がある。しかし、日本では通常の公立学校でも双方向授業の実施率はわずか5%であり(文科省,2020)、諸外国に比べ著しく低いのが現状である。学校、家庭のICT環境を早急に整備する必要があるが、その支援方法のknow howも限られている。
そこで、本研究では、緊急で始めた発達障害児を対象にしたZoom臨床・心理実習の経験をもとに、①面談臨床・心理実習の代替え方法としてのZoom臨床・心理実習の方法の開拓と、課題・特性の検証、②新たな、障害特性に合った遠隔支援の方法の開発と可能性の検討、③新たな障害理解の観点の検討、を速報的に検討すること目的とする。
Ⅱ.方法:
1.対象児(T児): 4歳9ヶ月時のKIDSによる発達年齢は3歳半。双方向メディア臨床(以下Zoom臨床)開始時5歳2ヶ月、私立保育園年長。弟1歳。大学での初回面接時は電車遊びが好きだが、ごっこ遊び等にはあまり興味を示さない。サーキット、カート遊びには関心を示す。発達障害(自閉症スペクトラム障害(ASD)傾向)。母親からは共同注意の難しさの主訴。
2.指導方法:2019年12月に大学で初回面接。2020年2月より、1回2時間(月2回の予定)の運動・ゲーム、認知・言語(劇遊び・言語指導)、おやつ(「カルピス」づくり)、母親面接(家庭課題)、また保育園との連携による、「包括的発達支援プログラム」を開始するが、2020年3月のCOVID-19の感染拡大による大学閉鎖・国の緊急事態宣言に伴い、臨床・実習は中断。4月に母親と電話で相談し、家庭課題(いちごのヘタ取り→家族分配分など)のシートを送付。母親からはLINE動画でその様子を送って頂く。相談し、Zoom臨床を試みることとなる。なお大学での臨床は心理専攻学生12名・共同研究者2名・SV(スーパーバイザー;長崎)による臨床実習も兼ねている。
<Zoom臨床・実習の試行的方法>
1)スケジュール:
(1)予備Zoom臨床:5月17日(日)13時から30分。T児の自宅とSVの自宅をZoomで接続。あいさつ、ごっこ遊び(おもちゃの肉を焼く→お皿に盛る→食べるふり;母親・SVの援助あり)、「カルピス」づくり(自分、母親に)。
(2)Zoom臨床準備:①母親と電話で打ち合わせ2回
②Zoomでゼミ生同士の指導案検討:5月25日(月)12時-13時。面談臨床用に準備していた指導案をZoom臨床用に修正。③Zoomでリハーサル:5月27日(水)15時-16時。T児・母親役、MT(メインティーチャー)など、Zoom画面の「ブレークアウトセッション機能」を使い、SVがグループを切り替え、その他の人はグループLINEのLIVE機能でモニターする仕方をリハーサル。
(3)Zoom臨床・第1回:2020年5月31日(日)13時15分から45分間。5つの課題から構成される「Zoom臨床プログラム(Table1)」を実施。①家庭(T児、母親、父親、弟は昼寝)-ゼミ生8名宅-SV宅をZoomで繋ぐ。②Zoomの「ブレークアウトセッション機能」で、各課題を「T児+母親+MT(s)+SV」のグループ化。③その他の人はグループLINEのLIVE機能でモニター、記録。④終了後Zoomで反省会、30分。記録、振り返りをLINEで共有。

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Table 1  Zoom臨床プログラム(45分:5月31日)                   
1)はじめの会:自己紹介・呼名→日付・天気確認→美味しかった食べ物をピアとT児が写真などで紹介。
2)音楽・ゲーム:
<音楽模倣遊び>♫こんなことできるかな(頭、鼻を触る)。
MTと音楽のターンテーキングをしながら、身体模倣遊びを行う(目的:身体模倣、ターンテーキング)。
<椅子取りゲーム>T児宅リビングで椅子2つを用意し、オカリナで音楽を流し、T児、母親で椅子取りゲームを行う。父親が援助に入る。ルールは、①音楽が止まったら歩くのを止め、②椅子に座る(目的:on-offルールを理解して楽しむ)。
3)劇遊び<おじいさんのお使い>:
①MTの演示:ペープサートのおばあさんがおじいさんに「コップを持ってきて」、と頼みコップを持ってきてもらう。
②T児(おじいさん)・母親(おばあさん):メール添付で送ったおじいさん、おばあさんのイラストを持って演ずる(写真)(目的:ふり・役割理解、短いストーリーの理解・演示、劇遊び「大きなかぶ」への準備)。
4)言語<宝物探し>:MTに電車、○の形、□の形、赤い色の物を持って来て、と依頼されて探す。MTの自宅のモデルあり(目的:言語指示の理解、カテゴリーの理解、他者に見せること(提示行為)を楽しむ)。
5)おやつ<「カルピス」づくり>:
①T児が自分の「カルピス」をつくる(MT:どっちが欲しい?→T:ぶどう、などの選択)。
②母親の「カルピス」をつくる(母親に欲求選択質問:T児:お母さんはどっちが欲しい?)。

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