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「【経済学者】成田悠輔&池戸万作の熱論」で興味深かったことを2点挙げてみた

過去のAbema TVで興味深い点が2点あったので述べておきたい。番組の内容としては、「日本の経済成長率が低いのは政府支出をしないから。政府が支出をすればもっと経済成長ができる」という池戸万作氏と、「様々な要因・背景を考えた上で日本の低成長率の原因を突き詰めればそんな短絡的な答えにはならない。論理・根拠に乏しい」という成田氏の会話が続く内容となっている。

1.池戸万作氏の主張「政府支出が伸びないから経済成長しない」の拠り所となるデータについて

https://twitter.com/mansaku_ikedo/status/1491048908147273729

池戸氏は上記のIMFから取ってきた過去約20年間のデータを以て「日本は政府支出が異常に少ない。これでは成長しないのは当たり前」と主張している(※実際の番組で使われているデータは1997年〜2021年の数値が使われているが上記のグラフは池戸万作氏のXから取ってきたもの)。

加えて池戸氏のXでは、GDP成長率と政府総支出伸長率の相関係数が以下の通り提示されており、一見相関関係がありそうに見える。

https://twitter.com/mansaku_ikedo/status/1256444167019835392

ただし一つこの主張に議論の余地があるとすれば、「政府支出が少ない」ことを示す指標として、なぜ「政府総支出伸び率」を採用したのか、なぜ例えば「政府債務残高」等の他の指標ではだめなのか、という点だろう。

ちなみに、実質GDP成長率と政府債務「残高」(対GDP比)の二軸を用いると、上記の池田氏の主張とはまた違った様相が見えてくる(グラフの出所:2023年の内外金融政策 ―新日銀総裁は正常化に着手できるか?― 加藤出)。日本は対GDP対比、過去20年間で最も政府債務残高を積み上げているにもかかわらず、実質GDPは他の先進国対比で低いのである(除くギリシャ・イタリア)。また、注目すべきは台湾である。上記の池戸氏のグラフで見れば、台湾は日本とほぼ同程度の政府支出伸び率にとどまっているにも関わらず、実質GDP伸び率は非常に高い。こうした背景を踏まえると、日本の経済成長が低迷している要因は政府支出伸び率・政府債務残高に限らず、その他複合的な要因(例:人口動態、新たな産業の成長が停滞など)がありそうな印象を受ける。

https://www.saa.or.jp/dc/sale/apps/journal/JournalShowDetail.do?goDownload=&itmNo=39800

2.「論理も根拠もないのに何かが特定の原因だと断言するのは情弱ビジネス」との成田氏の発言について

番組の途中(動画で言うと24分のあたり)、成田悠輔氏が「論理も根拠もないのに何かが特定の原因だと断言するのは情弱ビジネスだ」と言っている。これを聞いて思ったのは黒田元日銀総裁在任当初に跋扈したマネタリズム信奉エコノミストである。2013年当時、「マネタリーベースを今の残高から2倍にすれば、2015年には名目GDP3%成長、CPIは2%上昇が達成できる」といったあまりにも世の中を単純化した一次方程式的世界観に基づくレポートが多かったことを思い出す(例えばこちらのレポートなど)。

「経済成長とは貨幣総量で決まる」「貨幣量が増えれば経済成長する」という世の中をあまりにも単純化したフィッシャーの交換方程式MV=PT(M:貨幣量、V:貨幣流通速度、P:物価、T:1期間における財・サービスの取引量)を崇拝したマネタリズム信奉者の人々はこの成田氏の発言を聞いてどう思うのだろうか。「いや、それでもこれは故ミルトン・フリードマン氏が提唱した貨幣数量説に基づく主張なので根拠はある」という、誰か偉い人が言ってたからこれは正しいんだもん、という論法で主張を展開するのだろうか。

何にしても世の中の複雑さを恐れず、いろいろ単純化したくなる誘惑に負けないようにじっくり考える癖をつけたいと改めて思った動画だった。

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