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ベンチャーディールズ(27) VCとの交渉でやってはいけないこと Venture Deals - Things not to do in negotiations

以下、米国VC・Foundry GroupのBrad FeldやJason Medelsonが毎年2回提供しているオンラインコース(無料)、Venture Dealsの講義内容が素晴らしかったのでまとめてみました。

前回に続き、交渉に関する講義として「Things not to do in negotiations」のセッションを和訳してみました(和訳することについてはBrad Feld氏と直接コンタクトし、許可を得ております)。他の講義も順次アップしていく予定です。是非ご一読下さい。

なお、Venture Dealsについては、本でも出版されており、またこちらもベンチャーキャピタルを理解する上でとても勉強になるシリコンバレーVCのバイブルなので、是非ご一読ください。

(以下、講義和訳)

この講義では、交渉中にしてはいけないことと、または悪い状況にある交渉を良くするために何をすべきか、について話していきます。

1. 交渉時によく見られる過ち

(クリント)スタートアップが投資家との交渉で犯す一般的な間違いは何ですか?彼らがやってはいけないこととは何でしょうか?

(ブラッド)スタートアップが交渉で犯す最大の過ちは、契約書の文言についてくまなくしらみ潰しをするかのように交渉することです。これは契約書文言のドラフトを(投資家から)提示された際にとってしまう行動です。特にあなたがエンジニア出身の創業者である場合、(ソースコードをくまなくチェックするという特性を、契約書文言のチェックにも応用してしまうという)エンジニアの特性が発動してしまうので尚更この傾向が強くなります。あなたは契約書を全て体系的に理解し、くまなくチェックしたい衝動に駆られてしまうのです。

こうしたスタンスは実際の交渉では有効ではありません。交渉の場で本当にあなたがしたいのは投資家が提示してきた契約書をうまく自分たちの有利な条件に変えることです。誰でも契約の決定権を他人に委ねたくなどないでしょう。そう考えると、枝葉の文言だけをそれぞれ個別に解決していこうとは思わず、スタートアップは自分たちにとって重要なことについてフォーカスし、その部分については特に交渉を前進させたいと考えるはずです。

契約書の中では、重要なものとそうでないものがある、ということを明確にする必要があります。重要で無い事項については、あなたは喜んで譲歩する必要があり、重要な事項については交渉の節々に散りばめることが重要です。また、交渉事項の順番を決めることもとても有意義です。契約書ドラフトに出てくる順番通りに上から下までリスト化して一つ一つ確認していくよりもはるかに効果的です。

2. マーケットスタンダードなんて存在しない

(クリント)例えば、スタートアップにとって「これはマーケットスタンダードだから(文言を残してくれ・または削除してくれ)」といった市場慣習、通例を利用した交渉は効果的ですか?

(ブラッド)ああ、それもまた交渉における大きな間違いの一つです。スタートアップだけでなく投資家もよくやる間違いです。投資家が「(その契約内容は)マーケットスタンダードです」と言うのをよく耳にしますが、私に言わせればそんなスタンダードは存在しません。通常の市場慣行というのは、時間と共に変化し、進化し、とある特定の状況においてのみ機能するものだからです。

自分の言っていることを正当化させる際に「それはマーケットスタンダードだから」という言葉が使われますが、それは空虚な言葉です。この言葉は実際の交渉においては説得力のあるものになりません。熟練したVCに対してこの言葉を聞いた場合、「それはマーケットスタンダードとは言えないですね。実際に私がそれを適用しなかった5つの例を挙げましょう」と起業家に言ってくるでしょう。そして起業家は黙ってしまう、ということはよく起こるんです。

3. 交渉におけるEthicsについて

(クリント)次に、交渉中における倫理観、誠実さについて聞きたいと思います。こうした人間としての誠実さ、正直さといった部分は、交渉にどのように現れますか?

(ブラッド)過去のセッションにて投資家との会話では絶対に嘘をついてはいけない、と言いました。改めて言いますが、嘘は交渉でも厳禁です。

特に複数の関係者が関与する交渉では、まずあなた自身が、あなたの倫理感に沿った言動をとることが重要です。一方で、あなたの倫理観は絶対的なものではなく、あなたの交渉相手はまた別の倫理観に基づき交渉をしているということは認識しておきましょう。

誰もが同じ倫理感に基づき行動していればいいな、とは思いますが、実際はそうではありません。あなたの交渉相手が「私は倫理的で正直です」と当たり前のことを言ってきた場合、そこには理由があります。わざわざそんな当たり前なことを言ってきたということは、その発言者は倫理的でも正直でもない、ということを暗示しています。

自分の内なる倫理感に非常に忠実に行動する必要がある、ということを認識する一方、交渉相手も同様であるとは想定しないことが重要です。

また、事前に自分は誰と交渉しようとしているのか、を学び、理解することはとても重要です。自分の交渉相手は率直な正直者なのか、それとも常に物事を先延ばしにし、婉曲表現を使う人物なのか、等を事前調査で理解しておきましょう。

(クリント)わかりました。では、起業家がVCとの交渉に失敗してしまった場合、何かできることはありますか?一生泣き寝入りするしかないのでしょうか?

(ブラッド)VCと起業家との関係にもよりますが、具体的にできることはいくつかあります。何よりもまず、VCとの間にクリーンな関係があれば、いつでも再交渉は可能です。いつでもVCを訪問し、起業家を悩ませている条項や契約内容についてオープンに話すべきです。

VCと建設的な関係を築けていれば、どんな内容の話を持ち込んでも大丈夫でです。持ち込んだらすぐに物事が変わっていくことを期待すべきではありませんが、そうした話を議論できると言う関係がそもそも重要なんです。

4. 実際にVCと交渉が必要になるケースとは

どんなときにVCとの交渉が必要になるかと言えば、まず第一は新しい資金調達ラウンドが発生するときです。起業家は前のラウンドの契約内容のうち、不快な項目を撤廃したり、よりより契約条件とするため、VCと再交渉するでしょう。VCに属している私の立場から言えば、私はアーリーステージのラウンドでパティシペーション契約を付与するのことが本当に嫌いなので、とあるスタートアップの次の資金調達ラウンドでは、最初の調達ラウンドで付与したパティシペーションを外したことがありました。ちなみに、私がパティシペーション権が嫌いな理由は、多くの場合、スタートアップと投資家の事業に対する目線が起こるからです。私のようなVCがもし既存投資家の中にいれば、過去の条件をクリーンにすることも可能です。

あとは、買収により会社がの売却が発生する場合ですね。スタートアップ企業が、VCや取締役会と良好な関係を築いている一方、売却に伴う適切な対価を還元できないよなディールにおいては、VCとの建設的な会話および交渉が必要です。

VCとの交渉では、多くの場合、用語を再検討できる場合があります。その鍵は、VCおよび取締役会との建設的な関係です。この関係さえあれば、何かを変更したいかが明確であれば、変更するのは比較的容易でしょう。まあ、もしこの関係がない場合、何かを再交渉することは非常に困難ですが。

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