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中国の不動産市況の低迷が金融危機を引き起こす可能性はほぼない、という論文を読んだ

https://www.saa.or.jp/dc/sale/apps/journal/JournalShowDetail.do?goDownload=&itmNo=40662

このところ、NASDAQも史上最高値を更新し、日経平均株価も史上最高値近辺で推移している中、潜在的な金融危機のリスクは世界のどこかで存在しているのだろうか。

その潜在的なリスクの震源地として、中国は考えられないだろうか。

中国の不動産関連産業のGDPシェアは17%(2019年)、波及効果が及ぶ関連サービスも含めると26%に達するとの試算もある中、仮に中国の不動産関連貸し出しに変調が生じた場合、それは中国発の世界的金融危機の火種になり得るのではないか。

そんな懸念を抱きながら、証券アナリストジャーナル2024年6月号に掲載された露口洋介氏(帝京大学経済学部教授)の論文(冒頭のURLご参照)を読んだ。

結論、中国発の金融危機は起こらなそうだ。以下、その主な理由である。

いずれも、2024年7月に行われた中国人民銀行の金融政策局長による、記者会見時の発言である。

  • 不動産開発企業の債務は大きく拡大しているが、その7割は住宅引き渡し前の個人からの前払金と不動産企業の取引先企業による立替払い金である。

  • それ以外の負債は31%に過ぎず、そのうち銀行貸出は半分に満たない。

  • 銀行貸出総量は228兆元

  • 銀行の不動産関連貸出の残高は50兆元強に達しているが、個人の住宅ローンが40兆元を占める。そのほとんどが自ら住むための購入で(投機筋はなく)、不良債権比率は長期にわたって0.5%以下である。

  • 不動産開発企業向け貸出残高は13兆元前後で、そのうち実質的に商業銀行がリスクを負う貸出残高は6兆元〜7兆元に過ぎない

また、2023年5月の国家金融監督管理総局の統計によると、商業銀行における不良債権は3兆2千億元であり、不良債権比率は1.59%である。また、貸倒引当金は6兆6千億元、貸倒引当金カバー率は205.14%である。加えて、資産のリスクウエイトを勘案した自己資本比率は15.06%、勘案しない自己資本比率(レバレッジ比率)は6.79%である。

貸倒引当金カバー率が205%ということは、仮に商業銀行で不良債権が現行水準から2倍に増えたとしても、現在の引当金水準で十分カバーができるということである。

また、レバレッジ比率が6%超ということは、不良債権が現行水準が増加しても、6倍の水準までであれば吸収可能であることを意味している。

これらの数字が正しければ、不動産貸出を契機とした中国商業銀行発の金融危機はどうにも起こりそうにない。

ただし、金融危機を引き起こすインパクトはないにせよ、中国不動産関連企業発の中国景気の低迷は十分起こりうるシナリオである。当分は中国に対するリスクオンは控えたいと考える。


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