見出し画像

ベンチャーディールズ(21)VCのファンドレイズはかなり大変 / Venture Deals - How VC funds work-

以下、米国VC・Foundry GroupのBrad FeldやJason Medelsonが毎年2回提供しているオンラインコース(無料)、Venture Dealsの講義内容が素晴らしかったのでまとめてみました。

今回は「How VC funds work」のセッションの後半部分を和訳してみました(和訳することについてはBrad Feld氏と直接コンタクトし、許可を得ております)。他のセッションも順次アップしていく予定です。是非ご一読下さい。

なお、Venture Dealsについては、本でも出版されており、またこちらもベンチャーキャピタルを理解する上でとても勉強になるシリコンバレーVCのバイブルなので、是非ご一読ください。

(以下、講義和訳)

1. どうやって1号ファンドを組成したか

(クリント)Foundry Groupの1号ファンドではLP投資家を20社ほど集めたそうですが、どうやって集めたのですか?

(ブラッド)VCにとって、ファンドの資金調達、特に1号ファンドの資金調達は、非常に謙虚な気持ちにさせる経験です。私たちは2007年1月に投資家集めを開始しました。 1月から3月にかけて約90回のミーティングを持ち、私たちのファンドへの投資に興味があると思われる機関投資家と面談しました。

そのうち幾つかは元々知っていた会社であり、また幾つかは紹介を受けた会社であり、さらに幾つかは私たちが直接コールドコールした会社でした。起業家が投資家に対して行うのと同様の行為を、我々VCも行っていたのです。

私たちが声をかけた投資家の中には大学基金、年金基金、ファンド・オブ・ファンズが含まれていました。これらの投資家はVCファンド投資を目的として設立されたファンドでした。その他、保険会社、富裕層個人またはファミリーオフィスにも声かけを行いました。これらはVCファンド投資に特化しているわけではなく、広範のアセットに投資を行っている投資家層となります。

3か月のLP投資家行脚の間、90社のミーティングを行いましたが、そのうち約20社は即座にNoの返事が来ました。ミーティングの最中にNo回答をもらったことも少しばかりありました。この頃は、ミーティング終了後すぐにビールを飲みにいくことになるのか、それとも少しだけ待って返事を待ってからビールを飲みにいくことになるのか、ミーティング前はいつも皆で話し合っていました。

残った70社のうち、最終的に20社がLP投資家になりました。これら20社は3月まで私たちへのコミットメントを行いませんでした。最初にもらったコミットメントは300万ドルでした。その後、私たちは最終的に2億2500万ドルの1号ファンドを組成しました。

ファンド組成が完了した日はとてもよく覚えています。なぜなら私たちが出会った多くの機関投資家が最初はNoと言ったのに、最終的にYes回答を言ってきたからです。

5月末には、私たちは非常に大規模な機関投資家と、加えて2つの非常に著名な投資家からコミットメントを得ることができました。これで私たちの資金調達の流れは大きく変わりました。この時点で、6社程度からのコミットメントがありましたが、残りの投資家候補先対し、「こうした大型機関投資家が我々のファンドにコミットしており、現在プロセスをしています。ファンド全体の仕上がり、構成がどうなるのか、そろそろ知りたいと思い始めています(なのであなたも回答をいただけますか?)」と迫ることができたのです。

6月と7月の投資家ミーティングとコミットメントは良い方向に進み、 9月にはファンドの第1クローズを行いました。その時点でのファンド組成額は約1億6500万ドルでした。私たちが資金集めに出かけたとき、私たちは1億7500万ドル程度の集まれば十分だと考えていました。もしオーバーサブスクライブ(募集枠に対し過多となること)になるほど関心が高かった場合は、ファンド組成の金額を増やします。大規模投資家との間でファンド上限を2億2500万ドルにすることで合意しました。

すべての関係者の要望に応えることができるよう、全ての数字上のシミュレーションを行っていたときは常に緊張の連続でした。ファンドの最大金額は2億2500万ドルであることに皆と同意し、 9月に1億6500万ドルでファーストクローズを終えたとき、残りの金額を機関投資家に割り当てました。
文書に署名して完全にコミットする前に、彼ら独自のドキュメンテーションやプロセスを経なければならない投資家もいました。

そんな矢先、9月末に、約4000万ドルをコミットしていた大手公的年金基金グループのナンバー2の人物が辞任しました。グループを運営していたシニア経営層は、今年度中はこれ以上投資したくないと伝えてきました。こうして4000万ドルのコミット枠の空きが急にできたのです。

私は既にコミットしている投資家や、追加投資をしたがっていた投資家を周り、「ファンドの募集枠はもう一杯です。私たちはあなたたちを受け入れることができません。余裕がありません」と謙虚に説いていたのですが、突然空き枠ができたのです。そして「私たちは大きなコミットメントを失いました。なので余裕ができました」と彼らに伝え、ここに追加投資を受け入れることができたのです。

10月と11月には残額を切り上げ、 11月、私たちはようやく2億2500万ドルでクローズしたのです。

私たちの1号ファンド組成のプロセスは11か月い及ぶ長いプロセスであり、最初の3か月間に非常に多くのミーティングを集中的に行いました次の3か月間は、声かけした投資家からYesをもらうために注力しました。投資家候補の企業に情報を提供し、私たちに投資したいと思わせるような安心感を与え続けました。最後の3〜5か月は、正式なデューデリジェンスプロセスおよび正式なリーガルプロセスに費やしました。それが私たちの最初のファンド組成のプロセスでした。

2. VCのファンド組成がスタートアップにどう影響するのか

(学生)最初に行った90回のLP投資家とのミーティングを行った後、最終的に20社のLP投資を受け入れたとのことですが、こうしたVCの裏側にいるLP投資家の構成は、スタートアップも気にかけておく必要があるのでしょうか?それともそれほど重要ではないのでしょうか?

(ブラッド)とても重要というわけではありませんが、スタートアップにもある程度の影響は及ぼします。なぜならあなたに投資しているVCの健全性や寿命を握っているのLP投資家だからです。

LP投資家の数について、我々は非常に具体的な目標を持っていました。私たちの目標は、ある程度控えめな数字でした。それは3、4社でもなければ、50社でもありませんが、長期的に我々のファンドへの投資にコミットしてくれるファンドをある程度について、ある程度目標を持っていました。私たちの見立てでは、各ファンドは3年から4年の周期で新しいファンドを組成していかなければならないというものでした。 

(学生)そういうわけで、実際そうだったわけですよね(3、4年置きに新規ファンドを組成しなければならなかったのですよね)?

(ブラッド)実際そうでした。月次で投資計画を立てていたわけではありませんが、年間10件の投資を行い、1つのファンドで約30件の投資を行う見込みを立てていました。そこまでで約3年かかるとの見通しでした。

したがって、ファンド組成後の2年半後から3年目後に、LP投資家のところへ行き「新しいファンドの組成が必要なのです」と言わなければならないことは予めわかっていました。起業家の視点から見た場合、あなたに投資しているVCは、次のファンドを調達するのに比較的スムーズにいくものだと信じたいものです。なぜなら、投資しているVCには長期的にファンドを継続してもらいたいし、成功してもらいたいでしょう(自分たちスタートアップ自身のためにも)。したがって、投資事業を継続する傍ら、新しいファンド組成もうまくいって欲しい、と起業家が思うのは当然のことです。

また、あなたに投資してくれているVCのパートナーが、自分たち自身のファンド組成のために大半の時間を費やすことはもちろん望んでいないでしょう(もっと自分たち投資先スタートアップに時間を使ってくれ、と思うのは当然でしょう)。実際、私は多くの時間を費やし、私のパートナーであるRyanはその資金調達の前半のパートで多くの時間を費やしました。私たちのパートナーであるJasonは、後半のパートで多くの時間を費やし、結果ファンド組成を成功させました。

3. VCがファンドを長期的・継続的に組成するために

2号ファンドを調達したとき、1号ファンドが非常に好調だったこともあってか、1号ファンドのLP投資家を訪問し、2号ファンドへのコミットを得るプロセスにトータル2か月ほどで終わりました。新規投資家としては、2社を追加しただけで済みました。

(学生)2号ファンドに新たに入ってきたLP投資家についてですが、やはり1号ファンドのトラックレコードが良好だったから、2号ファンドに入れてくれたのでしょうか?

(ブラッド)それだけでないと思います。実際、彼らは1号ファンドをパスした企業だったのですが、その後も良好な関係を続けておりました。それはさながら、良いVCとスタートアップの関係のようです。良いVCというのは、「我々はまだあなたの会社の投資する準備ができておりません。今回のシードラウンドでお手伝いできませんが、これから関係を構築していければと思います」と言い、実際に次のラウンドの際、参画してくれるようなVCです。

私たちのファンドの場合、1号ファンドをパスした後もずっと緊密な関係を続けた3つの投資家がいました。2号ファンド組成を開始する際、私は彼らのところに行き、「新たなファンドを組成するつもりです。十分な空き枠があるかはわかりません。空き枠の取り扱いについて十分真剣に考えてこなかったためです。そしてどのくらいコミットがあるかもわかりません。が、もし真剣にコミットを考えていただけるようでしたら、私たちもご要望に沿えるよう、努力します」と伝えました。

すると3社のうち2社は、30日以内に、私たちが対応できる以上の金額コミットを行なってきたので、次のように伝えました。「真剣に考えていただき、大変会社します。ですが、全額対応できないとは思いますので、どうか本件についてご苦労をなさらないようにしてください」と。

(注:このあたりの「あなた方に我々のファンドに投資させてあげる」というスタンスは、非常に交渉が上手な印象です。なお、交渉スキルについての和訳も別途あげる予定ですので、そちらもご参照ください)。

次に、既存LP投資家にコンタクトし、「2号ファンドを調達しているのですが、いくらのコミット枠をお望みでしょうか?」と伝えました。私としては、既存のLP投資家が入れる分の枠は十分確保しておきたかったのです。既存LP投資家のうち、何社かは追加出資する資金がないこと、または何らかの理由で出資できないことをあらかじめ知っておりました。
こうしたやりとりを経て、最終的に2号ファンドでは既存LP投資家に加え、新規投資家2社を追加し、ファンドをクローズしました。

3号ファンドを組成したときは、そのプロセスを経る必要すらありませんでした。私たちの既存のLP投資家は皆、私たちと一緒に再び投資したいと思っていました。ファンドの規模を同じ2億2500万ドルに維持したため、新しい投資家を探す必要はありませんでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?