つづくか、終わるか
[FM京都(アルファステーション「d&radio」終了に思うこと]
約4年間続けてきたFM京都のレギュラー番組「d&radio」が年間制作予算の都合もあり終わることになりました。
参加頂いたゲストは250人を超え、このまま続けばいいのですが、世の中そううまくはいきませんね。FM電波の基地局アンテナなどの増設にともなって資金がいるとのことで、予算の取れる番組を入れていくなどしていかないと、大袈裟に言えば、そもそもFM京都自体(アルファステーション)が無くなってしまうことにもなりかねない。続けるってことはいろいろやらなくてはなりません。
とは言え、会社のおかれた事情を正直に聞けて、本当にこのFM局の誠意を感じ、これまでの感謝の気持ちが日に日に溢れてきます。とにかくいつも気持ちのいいスタッフさんや、関係するみなさん。本当に感謝しています。
僕はこの正直な理由を聞けたことで、「自分の番組の存続」というひとつの事柄から「ラジオの可能性」という少し大きな視点で考える事が出来ました。
今、朝日新聞に連載をしていることで、(こちらも生き残りをかけてデジタル版を頑張っている最中です)「新聞」についてもよく考えるようになりましたので、この「ラジオ」「新聞」って似たところがあるなぁと、最近は思うようになりました。
現代社会に生きるわたしたちにとっての情報とは、「自分から検索して獲得するもの」であり、そして「自分がいいなと思ってフォローした人の情報」です。
しかし、一方でそれを続けていくと、やはり自分に偏った情報だけを浴びるようになります。
ちょっと目を凝らして社会を見てみると、例えば最近の「図書館」への注目なんかは、「知らない情報が不意に目に飛び込んできて、新しい出会いがある」というところなんじゃないかと感じます。
また、若い人を中心に田舎に暮らしたり、バックパックで見知らぬ国に旅をしたりというのも、自分で検索して効率よく目的にたどり着く」という日常から、その真逆をすることでもしかしたらバランスをとっているのかもしれませんよね。
そう考えていくと、情報って「検索」と「出会い」のバランスなんじゃないかと思い始めました。
そんな時に、自分の「ラジオ番組の終了」を聞き、「ラジオって、実はとてもいいメディアなのかもしれないなぁ」と考えるようになりました。
番組の話を少しします。番組の大きなテーマはぼくが活動のテーマとしている「ロングライフデザイン」という長くつづくその土地の個性です。新しいことを始めるときに、もっとも大切にしたい「創意の種」とも言える長くそこにある宝物。
京都には「一見さんお断り」に代表される、よそ者からみたときの「イケズ(意地悪)」の文化があります。
それを京都で活躍している、また、老舗の様々な会社、問屋、窯元、伝統工芸師、芸妓さんなどを迎え、「イケズ体験」を披露してもらいながら、その本質を一緒に解明していくという、ちょっと変わった番組。
ですが、結果として「京都が京都らしく長く続いている理由」が浮かび上がってきます。
決して広くない京都において、伝統を受け継ぎながら、日々、それを守り、進化させていくには、「関係性」をどう作っていくかという創意を大切に考えなくてはなりません。
他の人はどうでもいい、自分の街なんて、誰かがなんとかしてくれる・・・・。そういう意識では決して、いい街にはなりません。
これは京都に限らず言える事でしょう。
ずっとそういう意識で関係性を工夫し、おたがいに「京都」をよりよく未来に続けていく意識があるからこその「イケズ(意地悪)に見える工夫」が京都にはあり、それをひとりひとりのゲストから直に、東京から通ってくる「よそ者」の僕から引出される。
考えてみれば、どんな土地でもこうした番組ってあったほうがいいと思います。
僕が発行元をしている「d design travel」も、共通の編集方針で日本のひとつひとつを紹介しているように。
この「終了」のお話を頂き、この際正直にいうと
「やっと終わる!!」とも、思いました。
とにかく素人の僕には過酷なのです。
(だから、プロのナビゲーターはすごいなぁと思い知るのですが)
収録とは言え、2週に一度、東京から京都まで通っているわけです。また、京都でも特によりすぐりの忙しい人たちがゲスト。
そんな方々をお呼びするわけですから、事前にスケジュールを空けて頂いていることから、こちらの都合で休んだり、遅刻したり、変更はできませんので、そのプレッシャーから前日入りして待機するなんてこともよくやりました。
風邪をひいても、テンションが下がっていてもゲストを楽しく迎えなくてはなりません。僕はラジオのど素人ですが、この番組の「ナビゲーター」です。
「素人なので・・・」なんて言ってはいられません。
自分のテンションが直接、番組の面白さに影響もします。もちろん、ゲストの個性豊かなお話に毎回、救われているのですが・・・・・・。
そして、何より、この番組が京都のためになると思っていますし、ラジコプレミアムのようなアプリを使うと全国どこでても聴けるわけで、京都の小さなスタジオから、「日本じゅうが、今日の京都のゲストからいっぱい学ぼうね!!」と、思って発信しています。
そんな時、妻からこんなことを言われました。
「ラジオ番組こそ、長くつづくと格好いいんじゃない」と。
若い人に限らず、新聞と同じようにラジオ離れはあります。そもそもラジカセはとっくにこの世の中からなくなり、ラジオがメインストリームにいた時代ではなくなっています。
そして、今、ラジオの「メディア」としての価値もなかなか見えにくくなっているというのが、正直なところではないでしょうか。
でも、深夜の長距離の自動車移動の時など、必ずラジオを聴いたりしませんか?
ラジオ、それはまさに主張もなく、地道にどんなときもそこにじっといる。そんな感じがします。
そして、不意に流して聴いている時「へー、そんなこともあるんだ」とか、新しい考え方や情報に出会える。派手ではないし、今っぽくもありませんが、気取らず普段のまま、日常で聴けます。
そんなメディアって、ラジオくらいじゃないかとも、思うのです。
そこで地味に長く続けていけることについて、妻からのそんな言葉もあって、
「これは、続けたほうがいいかも」
と思い、昨年の2019年12月のクリスマスも過ぎた超年末に、クラウドファンディングのレディフォーの友人に相談し、その場でページを作っていきました。この時はまだ、正直、ここまで書いたような「ラジオへの気持ち」を再発見できておらず「なくなってもしかたない」という気持ちもありましたが・・・・・・。
メルセデスベンツのW124というのを長く乗っていました。
何年目だったでしょうか、毎年、定期的に故障して、ついに自分が購入した中古の購入価格を超えた見積もりが来ました。修理工場側からも「今後も、この規模の故障がつづくと思います」って言われ、廃車にして新車を買いました。
そんなW124。街中でたまに同じ車種の車をみかけると「頑張って修理しとけばよかった」と思うのです。
そういうことって、私たちの身の回りには結構あります。
丁寧に修理して乗り続けている人、使い続けている人のそのモノとの様子を、その時、その瞬間は「羨ましく」思うわけですが、そのひとたちにも、僕が経験した「つづけるか、やめるか」という瞬間は同じようにあったと思います。
そしてその人たちは「続けた」。
続けようという方を選択した。
そして、今がある。
つまり、人も羨むような上質なモノとの関係とは、その人の「続けよう」という一瞬の判断でできている。
そして、それは特別なことではなく、日々の暮らしの中で、もしかしたら毎日、遭遇しているかもしれません。
止めることは簡単ですが、続けることは、とても大変です。
そして、続けていくことでそれは価値になる。その時はそれは見えないもの。その時の、例えば「修理の見積もりが高くて払えない」という現実との向き合っている状況の中でしか判断できない。
本当に難しい。それを今回の「ラジオ」に思うのです。
もしかしたら、この番組をずっと続けていくことで、このラジオ局の看板になるかもしれません。それは今はわかりません。
もしかしたら、憧れの番組に育ち、みんながこの日曜夕方6時をめがけ、仕事を片付け、昔のようにラジオに向いて聴き入るようなことになるかもしれません。
でも、今は、誰もわからない。
ただ、今なら誰でもその決意をすることはできる。
そうした意識でつづけていくことこそ「文化を作る」ということのように思うのです。
そして、僕という一人の人間にとっても「貴重な人生経験」として蓄積され、それが将来、もしかしたら「京都」に恩返しをすることになる日がくるかもしれない。
「つづく」とは、意識が必要で、文化のことでもある。
文化はお金では買えないし、短時間では作れません。「これを続けよう。そして、こういう状況を自ら作っていこう」。
1日、1日を積み上げていくことでしか出来ないことがあります。
そして、それを意識して日々暮らすことこそ、私たちにいつか途方もない充実感をもたらしてくれると思うのです。
ラジオって必要ないでしょうか。
なくなっても、多分、問題ないかもしれません。しかし、これからの時代のことを思う時、この「ゆったりとしたメディア」こそ、続けて存在しつづけたほうがいいこれからのメディアにも、感じられませんか?
残りあと4日。ぼく一人ではできないことです。そして、これから続けていくことでしかつくれないことを、みなさんと作っていけたらと、今、あらためて番組を意識しています。
応援、よろしくお願いします
まるで選挙のようですが、あなたの一票で、ラジオをこれからも続けてみたいと思います。
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