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人生初の信州ダービー

「悔しい」

ピッチで戦った訳でもないのに、胸に残る大きな気持ち。

人生初の信州ダービー(公式戦)は、ほろ苦いデビューになった。

ただ、悔しい気持ちと同時に、必ず長野県サッカー史に残るであろう現場に立ち会えたことはとても嬉しかった。

-前日の夜-

 遠足前の小学生時代に戻ったかのような胸の昂りを感じた。

松本山雅FCvsAC長野パルセイロの対戦カードは、過去に2度スタジアムで見たことがある。

・Uスタ1年記念試合(Uスタ)
・長野県サッカー協会記念試合(アルウィン)


以上2試合は対戦カードとしては紛うことなき「信州ダービー」だと思うが、自分の中では物足りなさを感じていた。

勝つことだけがスポーツの本質でないことは分かっていても、松本山雅FCというクラブとはヒリヒリする戦いをしたい。

公式戦での信州ダービーを見たことがない私がそんな気持ちを抱く。
長野のDNAによる宿命なのだろうか。

人生初の信州ダービーに対する憧れは大きく、2011年以前のダービーを知る人とは違った心持ちだったかもしれない。
しかし、松本山雅FCに負けなくない熱い気持ち、橙魂は確かに胸の中にあった。

当日に向けて家族で準備を進め、就寝したのは当日3:30頃のことだった。

-アルウィンへの旅路-

普段、都内の大学に通う私は普通自動車免許を持っているが、運転する機会がない。
母の運転で家族3人、決戦の地サンプロアルウィンに向かった。

道中はYouTubeでパルセイロのチャントを流し、アルウィンの北側で気高き獅子になる準備は万端。

オレンジのマグネットリボンをつけた仲間を何台も見た。もしかしたら、ホーム戦よりも多く見かけたかもしれない。
それだけ多くの方が注目する素晴らしい試合を見に行くと思うと、選手ではないものの、胸に戦う覚悟が込み上げてきた。

-アルウィン到着-

そんなこんなで大きな支障もなくキックオフ2時間前にアルウィンに到着。

最初に目にしたのはオレンジの待機列。並び方もあるかもしれないが、やはりいつもより多く見えた。全体の人数としてはホーム戦に及ばないが、2時間前に並ぶ人数としては明らかに増えていたと思う。

待機列の横にはオレンジがかったピンクの花が。周りを他の植物の緑に囲まれながらも強く咲くその花にパルセイロを重ねた。
ここは相手のホームスタジアム、アルウィン。サポーターの数も松本山雅FCには及ばないかもしれない。しかし、大勢の緑の中でオレンジは輝くことができる。
考えすぎかもしれないが、試合前ボルテージを上げるには十分すぎる光景だった。

アルウィンの西側を通り、有料駐車場に入ると目に飛び込んできたのは松本山雅FCのサポーター待機列。
さすがとしか言いようがない人数規模。老若男女問わず、松本山雅FCを愛し、緑の戦闘服に身を包んだ相手のサポーターはとてもかっこよかった。

有料駐車場は南側にあるため、パルセイロサポーターは車を止めてパラパラと北側へ向かう。その光景はまさにさっき見た花の構図と同じように見えた。多勢を占める緑の中にオレンジの戦士が輝いて見えた。
それぞれの誇りをかけた一戦が、長野県の王座を賭けた一戦がこれから始まることを再認識させられた。

-試合開始前-

いつも通りゴール裏のやや左寄りに座る。
なぜか分からないが、ゴールの真後ろよりも、やや右よりも、やや左寄りからの景色が好きだ。指定席とかではないのだが、しっくりくる。

いつも似たような場所に座るため、顔馴染みのサポーターの方も出てきた。同じ愛するもので繋がっている感覚がたまらなく嬉しい。

サポーターの方々に挨拶を済ませ、スタグルで腹ごしらえ。
準決勝はスタグルがなかったため、決勝もないと思い込んでいたが、美味しそうな出店がいくつもあった。

注文の待機列も優勢は緑色。
それもそうだろう。そこは彼らのアルウィンだから。
待機列が乱れ、順番が崩れそうになったが、1人の気高き松本山雅FCサポーターが助けてくれた。

"パルセイロの方が先並んでましたよ"

当然わざと抜かそうと思っていたわけではない状況だったし、周りは完全アウェイ。ピッチ外でのトラブルは嫌だったので黙っていようと思ったのだが、優しさに救われた。SNS上ではどうしても過激な言葉が目について怖かったが、優しい方が多く試合結果以外で嫌な思い出になることはなかった。

心優しい松本山雅FCサポーターの方のおかげで、GKアップ開始前にスタグルを購入し、座席に戻ることに成功。

いつものリーグ戦と同じくGK陣がアップを始め、FP陣が遅れてアップを始める。流れとしては、何てことない普段通りのウォーミングアップ。
しかし、ここはアルウィン。
徐々に緑に染まっていく座席、チャントの一節が書かれた横断幕、どれも圧力に感じた。

これまでの非公式戦では感じることのできなかった熱を帯びた信州ダービーを感じた。

-信州ダービー1stレグ開幕-

ついに開幕の笛が鳴り響く。

まず、どちらのチームもアウェイユニフォームを着用せず、オレンジvs緑の構図にして下さった審判団とマッチコミッショナーの方には感謝したい。

オレンジvs白、白vs緑。どちらにしても信州ダービーの熱には相応しくない配色だと考えている。やはり、オレンジvs緑。この色でなければ、両者の熱く滾る熱を表現しきれない。オレンジと緑に分かれた会場でそれぞれの代表である戦士が鎬を削る素晴らしい試合だった。
 
両チームともに一進一退の攻防を繰り広げ、なかなかゴールの生まれない展開。やはり、この対戦カードは終盤までもつれる。

均衡を破ったのは17歳の若き緑の閃光。
交代で入ってきた要注意選手菊井選手がファウルを受けながらも起点になると、安東選手のスルーパスから田中選手が抜け出す。17歳とは思えないゴール前の落ち着きで池ヶ谷を振り切ると冷静にゴールに流し込む。

望まない最悪の瞬間だった。
ただ、今季のパルセイロなら追いつき逆転できると信じて応援した。しかし、試合終了の笛まで松本山雅FCの牙城を崩すことはできず。

結果として0-1。
自分がピッチに立っていたわけではないのに、膝から崩れ落ちた。本気のダービーで負けるのはこんなにも悔しいものなのかと。

-試合終了後-

パルセイロの選手たちも数人はピッチに倒れ込んでいた。今季これまでのどんな試合よりも奪いたかった得点に手が届かず試合終了。ピッチ外でこれだけ悔しいのだからチームはもっと悔しいはず。

結果は受け止めなければならない。ただ、目に飛び込んできた“KING OF 信州”の文字が敗北を突きつけてくる。やり場のない悔しさで胸がいっぱいになった。

アスルクラロ沼津戦、県決勝での松本山雅FC戦と正直内容を見れば、勝つに値するゲームを積み重ねられていると感じている。しかし、結果には繋がらない。内容に優れ100本シュートを打とうが、90%支配率を握ろうが雌雄を決するのは得点だけ。
サッカーはそういう残酷なスポーツである。

J1やJ2時代の松本山雅FCもそういった勝敗に関わる細部を突き詰めた強さで、上位カテゴリーのクラブと熾烈な戦いを繰り広げていた。“緑のDNA”というものがあるのなら、前述した勝敗への絶対的な執念が組み込まれているのではないだろうか。
数字やデータには表せない“何か”が勝敗を決することもあるのがサッカーの醍醐味だろう。

-おわりに-

今年の天皇杯本戦の切符はもう手に入ることはない。変わりようのない事実は受け止め、前を向いて突き進まなければならない。

パルセイロに残されたコンペティションは1つ。この1つに集中できると考えれば、プラスとも捉えられるだろう。

ただ、11年ぶりの信州ダービーで負けた事実からはどうしても目が逸らせない。

運の良いことに今週末15日(日)にリベンジの機会がある。今度は我らのホームUスタ。負けるわけにはいかない。
しかし、それは相手も同じこと。意地と意地のぶつかり合いが満員近いUスタで見られそうなのは、非常に嬉しいことである。

パルセイロは"信州ダービー"としても落とせない試合だが、昇格争いとして落とせない試合。昇格争いを更に混沌とさせる権利はまだ我々の手にある。意地でも勝点3を奪い、ホーム戦2連勝を達成する。

さあ、来たる信州ダービー2ndレグ。絶対に勝たなければならない戦いがそこにある。

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