無題

数に強くなる本「第1部」(全28頁)無料公開!

5/24に発売になります『東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた 数に強くなる本 人生が変わる授業』(PHP研究所)の第1部「準備篇」(全28頁)を「はじめに」(全8頁)に続いて先行無料公開いたします。ご興味のある方は、是非お読みください!

「数に強い」とはどういうことか?

 「数字が苦手だ……」と悩む社会人の方は少なくありません。
 資料や会話の中に数字が出てくると拒否反応(数字アレルギー)が出てしまったり、いざ数字を使ってみようと思ってもその使い方がわからなかったり……。

 そもそも、数字が苦手な原因はなんでしょうか? 
 計算が苦手だからでしょうか? 
 学生時代に数学が苦手だったからでしょうか? 
 しかし、計算力を高めたり、数学を学び直したりするのは時間も労力もかかります。今更そんな勉強したくないというのが、多くのビジネスパーソンの本音ではないでしょうか? 
 安心してください。
 仕事や生活の上で数字に強くなるためには、高い計算力は必要ありません。また、数学ができるかどうかも関係ありません。 
 最初に私の考える「数に強い人」の条件を挙げておきます。この3つの条件を満たすことができれば、誰でも自他共に認める「数に強い人=数字を言葉のように扱える人」になれます。

(1)数字を比べることができる
(2)数字を作ることができる
(3)数字の意味を知っている

(1)数字を比べることができる

先日、友人とこんな会話がありました。
「永野、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「なに?」
「家電量販店ってさ、現金割引の店とポイント還元の店があるじゃん? あれってどちらの方が得なの?」
「同じ率なら現金割引の方が得だよ」
「そうなの? なんで?」
「たとえば定価1万円の商品を買いたい場合、Aという店では20%割引で、Bという店では20%ポイント還元だとしよう」
「うん」
「A店では1万円の20%割引だから、2000円安く買えるよね?」
「そうだね」
「一方のB店では1万円を払って、20%のポイント還元だから、2000円分のポイントが付くね」
「うん。でも、だったら、得をするのはどちらも2000円で同じじゃない?」
いや、そう思ってしまいがちだけれど、割引率を考えたら実は同じじゃないんだ
「どういうこと?」
「B 店では、1万円の商品と2 0 0 0 円分のポイントを手に入れたわけだから、1万2000円分の『価値』を1万円で買ったことになるでしょう?」
「まあね……」
「だとすると、1万2000円に対して、2000円の割引をしてくれることになるから、B店の割引率は……17%ぐらいにしかならないんだ」
「えっ? それはどういう計算?」
「2000円÷1万2000円だよ」
「計算早いね」
「約分すると、1/6だからね」
「ふ〜ん……A店は20%割引だから、A店の方が得ってことか」
「そうそう」
「なるほどね。ちなみに何%のポイント還元だったら、20%の現金割引と同じになる?」
「えっと……25%かな」
「へえ〜。結構違うね。わかった。ありがとう!」
 
 言わずもがなですが、数字は非常に強い説得力を持っています。だからこそ私の友人も20%現金割引と20%ポイント還元の違いが気になったのでしょう。
 ではなぜ数字には強いメッセージ力があるのでしょうか? それは、数字を使えば厳密に比べることができるからです。自宅の床面積、道路を走る乗用車の速さ、体重等々、雰囲気や印象ではほとんど違いがわからない場合でも、数字はその僅かな違いを教えてくれます。
 ただし、数字を正しく比べるためには、割合分数についての理解が必要不可欠です。

 また、後(178頁)でご紹介する「分数計算のトライアングル」を使えば、20%の現金割引と25%のポイント還元が同じ割引率であることも、簡単に弾き出せるようになります。分数計算のトライアングルは、多くの方が苦手としている計算を一瞬で行えるようになるツールなので、これを知っているだけでも周囲から一目置かれるはずです。

(2)数字を作ることができる

 新商品の名前を会議によって決めなければいけない場面を想像してください。会議には6人の社員が出席しています。名前は公募によって集まった10個の候補の中から選ぶとしましょう。こんなとき単なる多数決を取るだけでは6人がそれぞれ、別々の候補に投票する可能性があり、そうなるとひとつに決めることができません。またそこまでバラバラにはならなくても、3票ずつ2つに分かれてしまうこともあるでしょう。
 そこでお勧めなのは、良いと思う順に1〜3位を決めてもらい、1位には3点、2位には2点、3位には1点のように点数を付与して集計する方法です(このような意見の集約方法をボルダルールといいます)。こうすれば、票が割れて同点になるケースはほとんどありませんし、多くの人が3位以内にランキングした万人向けの候補に決まる可能性が高くなります。
 「数字を作る」とは要するにこういうことです。他にも、アルバイトを雇うとき、経験者が1人で行うには100日かかる仕事があるならば、経験者には1、未経験者には(たとえば)0・8を付与して数値化することで、のべ60人の経験者と、のべ50人の未経験者が必要だなどと計算することもできます。

 それから、隠れている数字をあぶり出すことも「数字を作る」ことのひとつです。今あなたが手に取ってくださっている本書についても、価格、発行日、発行部数、総ページ数、単語数、文字数、縦・横・厚さなどの寸法、重量、オンライン書店の順位、レビューの数、同ジャンルの書籍の売上等々の数字を引き出すことができますね。
 つまり、「数字を作ることができる」というのは、気持ちの強さとか仕事の熟練度などの質的パラメータも数値化して量的パラメータにすることができる上に、対象がもともと持っている数字を漏らさず見つけられる能力です。
 このようにすれば、世の中のありとあらゆることは数値化できると言っても過言ではありません(そうすることのぜひはまた別の問題です)。

(3)数字の意味を知っている

 私は以前、数学塾の塾長と指揮者の卵という二足のわらじを履いていました。その頃、誰よりもお世話になったのは現在ベトナム国立交響楽団(VNSO)の音楽監督兼首席指揮者でいらっしゃる本名徹次さんです。その本名さんが先日「ベトナムのオーケストラと恋に落ちた日本人指揮者の16年間」と題されたYahoo!ニュースの特集で取り上げられました。
 記事は本名さんがどれほどこのオーケストラのために尽力され、深い愛情でVNSOを育ててきたかを丁寧な筆致で綴ったものでしたが、その中に本名さんが音楽監督として得ている収入は月給400ドルだという記述がありました。
 本名さんは、東京国際音楽コンクール最高位、ブダペスト国際指揮者コンクール第1位等の輝かしいコンクール歴を誇り、日本国内の主要オーケストラのほか、ヨーロッパの名門オーケストラにもたびたび客演されています。
 その本名さんの月給が400ドルなんてあまりに安すぎるのは間違いありません。しかし、400ドルという数字を単純に「400ドル≒4万5000円」と日本円に換算して、日本国内の物価や賃金で測っていいものでしょうか?
 気になった私は、ベトナムの経済事情を少し調べてみました。
 日本貿易振興機構(ジェトロ)が発表している投資コスト比較によると、VNSOが本拠を置くハノイの法定最低賃金は月給169ドル。また製造業のエンジニア(中堅技術者)の月給は424ドルとあります。
 もちろん、国際的なキャリアを誇る本名さんが月給400ドルで音楽監督を引き受けていらっしゃることは、本名さんご自身の音楽と人間に対する深い愛情があるからこそ、そしてベトナムのオーケストラの音と人間に惚れ込み、報酬や待遇に関係なく楽団員を家族のように愛されているからこそ実現しているわけです。そんな本名さんには尊敬の念しかありません。
 ただ一方で、ベトナム国内の賃金についての知識を得れば、400ドルという数字の意味を立体的に捉えることができるようになるのもまた事実です。
 
 数字に限らず、人は意味のわからないものは嫌いです。逆に意味のわかるものには自然と興味を惹かれるものでしょう。数字アレルギーの人が数字を嫌うのは、そもそも数字の意味がわからないからではないでしょうか?
 知識は焚き火に似ていると私は常々思っています。キャンプファイヤーをやるとき、最初の火を起こすのは少々骨が折れますが、一度火がついてしまえばその火を大きくしていくのはそう難しいことではありません。数字の知識も同じです。いろいろな分野について「火種」になり得る基本の数字を知識として持っていれば、数字の知識がどんどん広がります。そうなれば数字に興味を持つことができて、数字が言葉よりも雄弁に語りかけてくるメッセージを受け取れるようになります。
 もちろん、そうした数字の知識は数字を比べようとする際にも欠かせません。
 「数に強い人」は、自分の専門分野はもちろん、専門外のさまざまな分野についても基本となる数字の意味を知っているものです。

数学に強い必要はない

 学生時代に数学に苦労したからこそ数字アレルギーになってしまった方は多いと思います。
 でも安心してください。
 先ほども書きましたとおり、数に強くなるためには数学に強い必要はありません。
 思い出していただきたいのですが、中学・高校の数学で最も重要かつ中心的な役割を果たしていたのは文字式です。数学と算数の最も大きな違いは文字式を使うか使わないかだと言っても過言ではありません。
ではなぜ数学では数字の代わりにアルファベット等の文字を使うのでしょうか? それは、数学がいつも一般化を目指しているからです。
 たとえば偶数を2nと表したり、x とy を使って関数を表したりするのは、さまざまな数を文字に代表させて、無限に存在する数の性質や数と数との因果関係を端的に捉えることを目的にしています。
 中学・高校の数学でたくさん登場する公式の数々は、そうした一般化の成果です。公式が使える問題については、どんな問題であってもたちどころに解決することができます。
 そしてすでに一般化された公式あるいは解法を積み上げることによってより深く、難しい問題を解決していこうとするのが数学の根本的な姿勢です。
一般に成り立つ法則を具体的な例に当てはめて考えることを演繹と言いますが、数学の醍醐味はこの演繹的思考にあります。
 たとえば2次方程式には解の公式というものがありましたね。文字で与えられる2次方程式の解の公式は非常に複雑な式ですが、文字に具体的な数字を代入することで、どんな2次方程式の解も必ず求められます。公式を使うことの恩恵は(たとえ数学が苦手であっても)誰でも一度は感じたことがあるのではないでしょうか? 
 数学に強いということは既存の公式を適切な場面で使うことができるだけでなく、それらを組み合わせて未知の問題を解決していく方法を探り、最終的にはまたその新しい問題に対する公式や解法を一般化できるということです。
 演繹的思考を積み上げて具体的な問題に対処し、そこで得られた知見を再び抽象化して次の演繹的思考に生かせる能力が重要であることは言うまでもありません。
 「文系に進むつもりだったのに、数学なんて勉強させられて損したよ」というのはよく聞くセリフですが、学生の皆さんが文系・理系を問わず数学を学ぶ目的は、論理的思考を身につけ未知の問題に対する問題解決能力を磨くことにあります。
 私は一数学教師として、学生時代に数学が苦手だった社会人の皆さんにこそ今一度数学を学び直していただきたいと常々考えています(実際、私がこれまで書かせていただいた本のほとんどは「大人のための数学学び直し本」です)。
 
 しかし、本書でお伝えする「数に強くなる」ための能力は、文字式を通じて具体と抽象を自由に行き来するような力ではありません。それは、数学の難問を解くように時間をかけてひとつの問題を突き詰めて考える力ではなく、短い時間ですぐさま答えを導き出す力です。厳密な答えではなくとも行動の指針となるような、あるいは判断の基準となるような数字を即座に打ち出すことができる力だとも言えます。

なぜ数字が重要なのか?

「数字を語れない者は去れ」(孫正義)
「会計の数字は飛行機の操縦席にあるメーターみたいなもの。実態を表していなければ正しい方向に操縦はできない」(稲盛和夫) 
「数字算出の確固たる見通しと、裏づけのない事業は必ず失敗する」(渋沢栄一)
「数字なき物語も、物語なき数字も意味はない」(御手洗冨士夫)
「経営とは数字である。同じく仕事も数字である。人が動く、そしてものが動くと、数字は必ず動く。数字は結果であり、業績を表す」(鈴木修)

 このように、ソフトバンク社長の孫正義氏をはじめ、京セラ創業者にして日本航空名誉会長の稲盛和夫氏、「日本資本主義の父」といわれる渋沢栄一氏、キヤノン会長の御手洗冨士夫氏、自動車メーカー・スズキの会長鈴木修氏などなど、日本を代表する実業家の方々が異口同音に数字の重要さを説いていらっしゃいます(もちろんこれらはほんの一例です)。

 ではなぜ、数字はそこまで重要なのでしょうか?
 あなた自身も数字の大切さを痛感しているからこそ、この本を手に取ってくださったのだとは思いますが、今一度、なぜビジネスパーソンにとって数字を読み、数字の意味するところを考え、そして自分で数字を作れる能力が必要不可欠なのかを考えてみたいと思います。
 ガリレオ・ガリレイが語ったとされる“universoé scritto in lingua matematica”という言葉は大変有名で、日本語では「宇宙は数学という言語で書かれている」と訳されます。
ただし、ここでいう「数学」は文字式で表される方程式や関数のことではありません。
 数を1つの文字で表すことを最初に提唱したのは、16世紀の後半にフランスで活躍したフランソワ・ヴィエトという人です。ガリレオが活躍したのもほぼ同時代ですから、ガリレオの時代には「文字式」の概念や使い方はまだ確立されてはいませんでした。また今日的な意味で「関数」を初めて定義したのはレオンハルト・オイラーであり、オイラーは18世紀の数学者ですから、ガリレオは関数を知る由がありません。
 ガリレオがmatematicaという言葉で指していたのは、数字を用いた計算と幾何学のことだろうと推測されます。

 実際、先の言葉の後には次のような言葉が続いています。
「そしてその文字は三角形であり、円であり、その他の幾何学図形である。これがなかったら、宇宙の言葉は人間にはひとことも理解できない。これがなかったら、人は暗い迷路をたださまようばかりである」
 ガリレオは、神が造り給うた宇宙は記号によってしか理解できないと言っているわけです。
 では、なぜ記号でないと駄目なのでしょうか? 
 それは、数字も含め記号には絶対的な正確性と誤解の入り込む余地のない厳密さがあるからです。対して、私達が日常使っている言葉は、どこかに曖昧さや不明瞭さが残ります。同じ言葉を使っているのに受け手によっては全く違う解釈をされてしまうという経験は誰にでもあるはずです。しかし、記号にはそれがありません。記号こそが完全無欠の「言葉」であり、完璧な美である(はずの)宇宙を記述できるのは、その記号だけだとガリレオは考えたのでしょう。ビジネスにおいて数字が重要であるということの本質もまさにここにあります。

数字には物語が必要である

 正確性と厳密さが求められるビジネスシーンにおいては数字が大変重要であるとはいえ、数字は使いさえすればいいというものではありません。ただ並べられただけの数字は単なる値に過ぎないからです。
 私は職業柄、いろいろな生徒からテストの答案を見せてもらうことがありますが、たとえばそれが62点だった場合、「62」という数字だけでは何も感じられませんし、何も語れません。平均が50点である場合と平均が70点である場合とでは、62点の意味は大きく変わってきます。ですから私は必ず平均点が何点だったかを尋ねます。
 また最近の学校は平均点だけでなく標準偏差(平均からのばらつきを示す統計量。標準偏差が大きいとばらつきも大きい)や、クラスや学年全体の得点分布がわかるヒストグラム(棒グラフ)等を資料として配ってくれるところも少なくないので、そういったデータがわかる場合は、それらの数字とも組み合わせて考えます。そうやってはじめて62点という点数が持っている本当の意味が見えてきます。
 もちろん、過去の点数を知っている場合は、そこからどのように変化したのかもじっくり検討します。仮に前回も今回も平均を下回ってしまったとしましょう。でも、前回より平均に近くなっていたり、あるいは平均からの差は同じでも、標準偏差が前回よりも今回の方が大きかったりする場合には、成長が認められます(たとえば標準偏差〈ばらつき〉が10点のテストで平均マイナス15点の場合は、落ちこぼれだと言わざるを得ませんが、標準偏差20点のテストにおける平均マイナス15点は落ちこぼれというわけではありません)から、その頑張りは褒めてあげるべきです。
ある生徒の前回と今回の成績が、
 前回:60点(平均70点・標準偏差10点)
 今回:62点(平均70点・標準偏差15点)

だった場合、その生徒が
「今回も平均に届きませんでした」
と悲嘆にくれていたとしても、これらの数字を使って、
「でも、前回より標準偏差が大きくなっている中、平均からの差も縮まっているわけだから、実質的には上向いているよ。この調子で頑張ろう!」という希望の物ストーリー語を語ることができます。
  
 数字から物語を引き出す好例を1つ紹介しましょう。アクサ生命が25〜44歳までの働く女性600人を対象に行った調査報告(2010年)なのですが、そこには

 結婚相手に求める理想の年収:平均約552・2万円
 愛する人に求める年収:約270・5万円

というデータが示してあり、その後に

 その差額281・7万円が『愛の価格』といえるかもしれません。

とまとめてあります。
 この世で最もプライスレスであると言っても過言ではない愛の価格をこのように決めてしまうことについての反論はもちろんあると思いますが、結婚相手に求める理想の年収と愛する人に求める年収の両方を調べることで、その差額から「愛の価格」は281・7万円であるとする「物語」は、大変興味深いと私は思いました。この物語を知れば読者の皆さんにとっても「552・2」という数字と「270・5」という数字は、無味乾燥な単なる値ではなくなったことでしょう。

 数字を読むときも、数字の意味を考えるときも、数字を作るときも、数字が本来持っているに物語を紡ぎ出そうとする努力を決して忘れてはいけません。この点についてはスティーブ・ジョブズ氏も「ただ数字を見るのではなく、覆いの下をのぞいて、アイディアと人間の質を評価するのだ」と言っています。

「数に強い人」になるために

 本書では、冒頭に述べた「数に強い人」の3つの条件をクリアするための最短距離を示
していきたいと思っています。

(1)数字を比べることができる
  《関連する項目》
  • 割り算の2つの意味(154頁)
  • 分数(163頁)
  • 割合と比(171頁)
  • 単位量あたりの量(181頁)

 前述の通り、数に強くなるための力は数学の力ではありません。小学校の算数の力です。とはいえ分数割合単位量あたりの量などは社会人でも苦手としている方が少なくありませんから、本書ではこれらのつまずきどころを、割り算の2つの意味の理解を緒にして、今一度丁寧に解説していきます。
 
2)数字を作ることができる
  《関連する項目》
  • 概算(191頁)
  • フェルミ推定(202頁)
  • 定量化(211頁)
  • 暗算のテクニック(227頁)

 会話や会議の中で自ら数字を作って説得力を高めようとする時、必要なのはスピードです。多くの現場では細かい誤差は気にせず大まかな値をざっと概算する力が求められます。
 またそこから一歩進んで、最近は有名になったフェルミ推定を通して、いくつかの推定量を組み合わせてだいたいの値を見積もる力も養っていただきたいと考えています。

 定量化とは質的なものに数値を与えることです。ほぼ数値化と同義ですが、定量化という時には変化に注目していると言っていいでしょう。先ほど数字には物語が必要であると書きました。物語とはすなわち変化を語ることですから、質的要素が変化していく推移を数字で表す「定量化」の方法は、「数に強い人」には欠かせないスキルです。
 最近ではスマートフォンに電卓アプリが必ずインストールされていますから電卓は常に身近にあるわけですが、やはり即断即決のスピード感を保つためにはある程度の計算力も必要です。そこで、大人の方が簡単に計算力を上げられる暗算のテクニックもいくつか紹介したいと思っています。

(3)数字の意味を知っている
  《関連する項目》
  • 各分野で基本となる数字の知識(第2部)

 「数に弱い人」は、どんな数字を見ても無機質で均一化された記号の並びにしか見えません。その最大の原因は、数字のことをよく知らないからだと私は考えます。英単語の意味を知らなければ、英文は退屈なアルファベットの羅列になってしまうのと同じです。ですから本書ではまず第2部で、各分野の知識の「火種」になるような基本となる数字の意味を紹介します。できるだけ皆さんの興味を引くように工夫して書いていくつもりですので、どうぞお付き合いください。

誰でも数に強くなれる

 Strictly speaking a number is a concept representing quantity or order, and a figure is a symbol representing that concept, the meaning of "number" is different from "figure". However, when reading a number as "Kazu", you can think that both words have almost the same meaning.
 縦書き(注:本書は縦書きです)の本なのにいきなり英文を書いてごめんなさい。
 さて、あなたは今この4行足らずの英文を見てどのように感じましたか? 読みづらいという理由で飛ばして読んだ方も多いとは思いますが、ただ英文であるという理由だけで読み飛ばした人はもしかしたら「英語アレルギー」かもしれません。
 英語に弱い人は、ネットサーフィン中にクリックしたリンク先が英文であったり、買った電化製品の説明書が英語だったりすると途端に読む気がなくなるようです。海外のアプリのメニューに英語しかないと、それがどんなに便利なアプリであっても使おうとしない人も少なくありません。英語に弱い人は英文に出合った時、それが自分にわかるものかどうかを検証しようとはしません。
 これは「数に弱い人」が数字の羅列を見ただけでその数字を読み飛ばしてしまうのとよく似ていると思います。実際、英語の力というのもまた英語を読み、その英文の意味するところを考え、そして必要であれば英文を作れる力です。
 実は、先ほどの4行の英文は、「はじめに」の後半に書いた文章(8頁)を私が英訳したものです(拙ない英文で恐縮です)。先入観なく腰を落ち着けて読んでいただければ(1つや2つ知らない単語があったとしても)なんとなく意味はわかってもらえるのではないでしょうか?
 英語を理解するためには、英単語の知識や文法の理論が必要不可欠であるように、数に強くなるためにもやはり知識と理論は必要です。でもそれはきっと皆さんが思っているほど多くはありません。
 
 大学受験業界を代表する英語教師のお一人で、受験参考書やTOEIC対策本の著作も多い安河内哲也氏は、英語ができるようになるためには文法や単語などの理論(記憶)を頭に入れた後、それらがいわば言語的な反射神経に変わるまで、何度も何度も音読学習することが必要だと書かれています。
 たとえば野球の場合、理想的なバッティングフォームを本で読んだだけで打てるようになる人はいません。正しい理論(知識)を頭に入れた上で、何百回、何千回と素振りをして初めて学んだ理論を試合に生かせるようになります。
 安河内氏によると英語に強くなるためには他の受験科目のように机の上でカリカリと勉強することと、体育や音楽のように実際に体を動かしながら練習することの両方が必要とのことです。
 これは数に強くなるために必要なことと全く同じだなと私は思います。
 私は本書の中で数に強くなるために必要な知識と理論を厳選してお伝えしていきます。
もしかしたら、
「たったこれだけで数に強くなれるのか?」
と思われるかもしれません。実際、本書を読み終えたとたんに数に強くなるということはないでしょう。
 でも、ご自身の生活や仕事の中で数字に触れ、数字の意味を考え、そして数字を作るという実践を繰り返していただければ必ず、誰でも数に強くなることができます。
 英語と同じく数字も理論や知識ばかりを詰め込むと実際には必要のないものまで頭に入ってしまい、結局は頭でっかちで使えない無駄な知識だけが増えていくことになってしまいます。ぜひ、机上の勉強と実践での練習のバランスが50%:50%になるように心がけてください。
 そうして、本当の意味で「数に強い人」になってください。

 いよいよ授業に入っていきましょう。まずは雑学的な数字のお話から。肩肘張らずに気楽に、でも大いに期待しながら読み進めていただければ幸いです。

続きは本書で…

目次

はじめに

◎第1部 準備篇(本記事)
数に強いとはどういうことか?/数学に強い必要はない/なぜ数字が重要なのか?/数字には物語が必要である/「数に強い人」になるために/誰でも数に強くなれる

◎第2部 教養篇
1時限目 算数
アインシュタイン以上の天才/数字の中にキャラクターを探す/素数/倍数の見つけ方/平方数と立方数/完全数/友愛数/巨大数/1時限目のまとめ

2時限目 社会
これだけは覚えたい4つの数字/GDP/労働分配率/国家予算(一般会計と特別会計)/特殊出生率・出生数・死亡数/2次元目のまとめ

3時限目 自然科学
地球を表す3つの単位/長さの単位/質量の単位/時間の単位/光の速度/3次元目のまとめ

4時限目 芸術
美の中に潜む数字/ピタゴラスと「完全」音程との出会い/ピタゴラス数秘術/ピタゴラス音律/さまざまな音律/古代ギリシャ人と音楽/黄金比は美しい/フィボナッチ数列と黄金比/白銀比/貴金属比・青銅比/4次元目のまとめ/コラム

◎第3部 技術篇
5時限目 数字を比べる
割り算の2つの意味/割り算の意味①:全体を等しく分ける(等分除)/割り算の意味②:全体を同じ数ずつに分ける(包含除)/等分除か包含除か/分数とはそもそもなにか/分数の掛け算/割り算記号の起源/分数の割り算/計算を助ける約分と「逆」約分/割合と比/分数は比べるための最強ツール/比は割合の別表現/比例式と「分数計算のトライアングル」/単位量あたりの量/単位量あたりの量の求め方/割合と単位量あたりの大きさの違い/プレゼンでも活躍する「単位量あたりの大きさ」/演習/演習の解答・解説 

6時限目 数字を作る
概算と誤差/有効数字と科学的表記法/有宇高数字の計算/「最適桁数」は1桁/大きな数の捉え方/フェルミ推定/フェルミ推定の方法/フェルミ推定の後にすべきこと/モデル化について/定量化のための点数付きチェックリスト/物語のための定量化/暗算の9つのテクニック/演習/演習の解答・解説

おわりに

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