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『「そこそこ」頭の良い若い主人公が一人で不条理に巻き込まれる』系

若者が一人で何かする。

スリラー作品は、「そこそこ」頭の良い若い主人公が一人で不条理に巻き込まれる話が最も面白いと思う。

二十歳前後から三十代の年齢設定なら、家族が登場しなくても違和感がないので、本筋のみに集中して描写できる。

そして、不条理に巻き込まれる人物を一人に絞ることで、主人公へ感情移入しやすくなる。

どういうことかというと、例えば姉妹二人で不条理に巻き込まれる話の場合、実際に姉妹がいる観客と、姉妹がいない観客では感情移入の度合いが異なる可能性がある。
主人公が一人なら、主観として観客が感情移入できるのだ。

「そこそこ」頭が良い主人公だと、観客の予想を少し上回るくらいの行動を取るので観ていてちょうど面白い。

物語の結末は主人公が不条理から逃げ切る場合と逃げ切れない場合、どちらも良いのだが、優れた作品はたいてい、最終的に主人公が何かしらの「悟り」を得ている。

『ダンケルク』(17)の陸のパートはまさに「そこそこ」頭の良い若い主人公が一人で不条理に巻き込まれる系の話で、主人公は最終的に「戦争は勝ち負け関係なく不条理」という悟りを得ている。


『RUN』(20)もまた、若い主人公が「母性」という不条理から一人で逃げる話だが、主人公が車椅子ユーザーのため、家という小規模な舞台が大スペクタルに見える。そこそこ頭の良い主人公に感情移入し、のめり込んで観てしまう緊張感演出が凄い。
インターネットが使えない設定もスリラー作品には必須だろう。


主人公が一人で不条理に巻き込まれる話というのは、つまり、自分自身で自分を助ける話だから面白いんですよね。

文・イラスト:長野美里

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