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太陽が綺麗ですね。

創作に気持ちが前向きな今日は、洗濯物を干しながら浮かんだ『太陽が綺麗ですね』という言葉から書いていきたいと思います。


「『月が綺麗ですね。』ってあなたが好きですって意味なんでしょう?」
「……そうらしいね」
姉は透き通るほど白い手で私の愛猫を撫でる。
気持ちよさそうに目を細める〝ルナ〟は、姉のことが大好きだ。
「ルナが綺麗って褒めたら、ついでにルナのことが好きですって言ったことになるかしら」
「どちらにしてもルナには伝わらないけどね」
「ふふっ、確かにそうね」
話す言葉まで美しい姉と、現実的なことしか言えないつまらない私。
対比されることに辟易としてきた頃に、姉が突然2人で家を出ようと誘ってくれた。
それ以来私たちは同じ町で別々の暮らしをしながら、ずっとそばに居る。
「どうして急に詩的な話を始めたの?」
「えぇ?ルナを見ていたら思い出したのよ」
「ルナを見てたらって……姉さん、私の名前に似せようってあの子を〝月〟に関する名前にしたんでしょ。私はそのままツキじゃない。」
直球なこの名前を好きになれたことは無い。
姉の輝きに照らされるだけの妹。
両親が産まれたばかりの娘に少しも期待していなかった証拠だ。
そんな適当なことするからここまで性格が捻れたんだ。ざまぁみろ。
「やだなぁ。つーちゃんはいつだって綺麗でしょう?」
「……何を言ってんだか」
「それにつーちゃんには何度だって伝えるわ?つーちゃん大好き!って」
「それは、うん、ありがとう、だけど」
2人で過ごしていると、相手の癖に気づくようになる。
それほど顔を突合せているから当然ではあるのかもしれないが、人気者の姉の〝隠し事〟に気づけるのは私だけだと思うと……少し優越感を覚える。
「ソル姉さん」
「え?」
「誰かに言われたんでしょ、月が綺麗ですねって」
「いや…んん、つーちゃんったらまた気づいちゃったの?」
「うん。私と話しているのにルナばっかり見ているからだよ」
「やだ、嫉妬?つーちゃん嫉妬なの?」
開き直ったのか目をキラキラさせて私の肩を揺らし始めた。
最初から素直に言えばいいものを…美しさを醸し出すミステリアスを保つには、どうやら苦労するらしい。
「で、誰に言われたの?同僚?取引先?あ、それともイケメン社長?」
「凄い勢いで聞くのね……でも全員違うわ」
「えぇ~?だって姉さんの会社の人みんな姉さんのこと好きじゃんどう見ても」
「誰だと思う?」
「っ、……急にじっと見るじゃん」
ルナを膝から下ろし、姉さんは何故か私の目をじっと見つめた。
あんまりにも真剣な眼差しで、慣れているとはいえその美しさに照れてしまう。
「月が綺麗ですね、って言いそうな人よ?だれだと思う?ツキ。」
「そんな、姉さんにそんなこと言う人いっぱい思い浮かぶから……ねぇ?」
「……そっか。良かった」
「良かった?」
「ううん。つーちゃん、お散歩行きましょう」
「ぅえ、……うん?」
ミステリアスな姉は今度は晴れやかな顔を浮かべて私を見た。
コロコロと気分の変わる人だ。
それでもソルの名の通り、曇り模様を見たことは無いけど。
でも、さっき少し、
「つーちゃん、今日は太陽がとても綺麗よ」
「快晴って言ってたもんね」
「うん。ご飯外で食べるのどうかしら?」
「いいと思うよ。おにぎり買いに行こうか」
「そうしましょう!」
太陽はまるで姉だけのためにあるかのように、彼女の周りをキラキラと飾っている。
日傘を指す習慣のない姉だが、日焼けしたところを見た事がない。
それも太陽に愛されている証拠だろうか。
「つーちゃん」
「うん?」
「月が綺麗ですね」
「……うん?????」
満足気に笑う姉。
その心にも太陽が指しているのだろう。
「じゃあ姉さん」
「うん」
「太陽が綺麗ですね」
やり返したくなったのは昔のように姉に対して劣等感があるからでは無い。
長い時間をかけて姉が私に私の価値を教えてくれたからこそ、私だって姉の価値を言葉にして教えたいのだ。
「つーちゃんそれ告白???」
「告白って、間違いないけど」
「あら、なら両思いだね私たち」
「昔からそうだと思っていたけど」
「……ふふ、つーちゃんに適わないなぁ」
太陽に照らされるだけの月。
間違っていないのかもしれない。
ただ2つあるからこそどっちも美しいことには変わりないと、今の私は思う。

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