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八つ目の話「求めるって何?」

男子高校生2人の会話を文字に起こして、ついに大好きな数字である〝8〟話目までくることが出来ました。
書き進めるたびに私の中で彼らの関係性や感情が変わっていき、終わりへ向けて少しずつ成長していく。
そんな成長物語も、先日宣言しましたように今月で終わりを迎えます。

別れの季節である春。
そんな季節を彼らはどう過ごしていくのか、最後までお付き合いください。


「…」
『あんまりにも上手すぎる』って、お手本として飾られたシロが描いた俺の肖像画。
シロが描いたんだから上手なことはわかりきっている。
問題はモデルが俺なことと、この絵にシロの過去に気づくクラスメイトが現れないかと不安になること。
そして、シロが〝絵〟を評価されることに対してどう思っているのかも不安だ。
「__くん?ねぇ、聞こえてる?」
「えっ…?」
「あ、良かった。水無瀬くんの絵が気になるの?」
「…気になるっていうか、」
「心配?」
「心配、か」
なぜか頭の中で〝不安〟という言葉を使っていたが、主役は俺じゃない。
シロだ。
それなら山野先生の言うとおり、心配というべきだ。
「違うって顔してるね」
「…」
「美術の先生がさ『水無瀬の絵を飾りたい!』なんて行ってきた時、私本気で断ったの」
山野先生はシロの過去を知っている。
幼い頃に描いた絵が今みたいに大人たちに評価を受けて、勝手に〝天才〟と呼ばれ自分を見失ったシロの過去を。
〝天才〟と呼んだ大人の中にシロの両親も居て…あの人たちは、もう。
「でもどこからか水無瀬くんその話を聞いちゃったみたいでさ…『先生俺絵飾られても平気です』なんて言ってたの」
「…シロが、そんなことを」
「うん。すっごい笑顔で」
「…」
「ねぇ」
「はい」
「どう思う?水無瀬くんに無理をさせてしまったのかな?」
「っ」
答えに詰まってしまった。
なんて答えたらいいのか、分からない。
だって笑顔で『絵を飾っていい』なんて言うシロを知らないから。
そういえば俺の肖像画描いてる時だってそうだ。
あんなに絵を楽しそうに描いてるシロ、久しぶりに見た。
「…ヨウちゃん?」
「えっ」
「あ、水無瀬くん」
「ごめん。大事なお話してた?」
「ううん。大丈夫、もう帰っていいよ」
「…はい」
俺らの未来は、もう決まっている。
合否も出たし、2人とも一緒のとこに行く。
山野先生も最後には納得してくれたってシロは言ってた。
だから不安になることなんて、ひとつもない。
夢のような毎日が、ただ続いていく。
そうなのに、なぁ。
「ヨウちゃん、あのさ」
「…」
「…ヨウちゃん」
どうしてこんなにも不安が大きくなっていくんだろう。
あの桜の木の下で、今にも壊れそうなシロを抱きしめた。
俺は、あの時に『守るべきもの』を見つけた。
だから、俺はこれからも…シロのそばにいる。
それは変わらないよな?
「シロ」
「…ん?」
「あの桜、今年も一緒に見に行こうな」
「…」
そばにいる、よな?
どうしてシロの笑顔に、あの日よりも不安になるんだ。
「ヨウちゃん」
「…うん?」
「俺、今もポジティブだよ」
「…」
求めてる答えが、帰ってこない。
求めてる未来は、確約されてるはずなのに。
でもずっと求めていた答えは、もうシロの中に芽生え始めている。
『死にたい』そう思いながらじゃないポジティブ。
そこに俺がいない気がするのは…どうして?
「俺らさ、今…お互いに求めてるものが違うのかもね」
「え?」
「ううん。なんでもない。帰ろ、まだ寒いんだから」
そう言ってシロはフードを被った。
もうその表情は見えない。
求めてるものが違うって、一体どういう意味?
少し前まで簡単に聞けてたはずの言葉が、出て行かない。
俺の中で、ゆらゆらと揺れてるだけ。
(どこにも行かないで)
色んな言えない気持ちを、抱えてた冬。
春になろうとしてる今、それがそんな一言に集約された。
でも、相変わらず俺はそれを言えずにいる。
「…」
桜は、もうすぐ咲くっていうのに。

~続く~
⇒九つ目の話題「大切なことって何?」

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