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十個目の話題「いつか、って何?」

新しい出会いを前にして、男子高校生2人は別れを経験することとなります。
その別れがヨウにもたらすこととは?
そして、新しい出会いは待っているのか?

彼らの卒業をぜひ見ていってください😌


「…ごめん、急に呼び出して」
「ううん、だいじょーぶ」
登校日じゃなく、休みの日にこうやって呼び出すのはもしかしたら初めてかもしれない。
シロとは小学校を卒業する少し前に出会って、中学・高校とずっと一緒に居たのに…会うことはなかった。
だからなんていうか、お互い私服なことに違和感すら感じる。
「あー、その…話がしたくて」
「話?」
「うん。ほら最近学校あんまないし…話すことも減ってたから」
「ふふっ、確かにそうだね」
「…なんで笑うんだよ」
「いや…『話したい』って思ってくれたんだって思ったら嬉しくて」
「っ、そりゃ…そうだよ」
違和感は私服に対してだけじゃない。
…どこかスッキリしたような表情に見えるシロにも違和感を感じてしまう。
それはいいことなのに、どうしてそうなったのかを知らない自分がここにいて、なんか、言葉に出来ないけど胸がちりちりと痛む。
「ねぇヨウちゃん」
「うん?」
「桜、いつ咲くかな」
まだ蕾も持たない桜の木を見つめながらシロはそう言った。
「…桜が咲く頃の俺らは、何してんだろうな」
俺は思わずそんなことを返してしまった。
シロと一緒に居る時間で柔らかくなっていった口調も、なぜか今日だけは昔みたいに荒くなってしまう。
最近喋ってなかったせいかな。
なんかもう、胸が痛いことだけで頭がいっぱいだ。
「何、してるかな」
「…いや分かりきったことを聞いたな、ごめん」
「ううん。分かりきったこと、か…」
「なんで、そこに引っ掛かんの?」
「っ、いや…」
ちりちりがズキズキに変わって、感じなくていいはずの不安がまた膨らんでいく。
見えていたはずの未来が、見えなくなる。
「大丈夫、…桜が咲いても」
「…」
「ヨウちゃん、あのね、俺」
「シロ」
シロが俺に何を言おうとしているのかが、分からない。
分からないのに聞きたくない。
怖い。
俺は、ひとりになりたくない。
「あのさ」
「…うん」
「桜が咲く頃も、笑っていたい…よな」
「…」
返答はない。
逃げても何も変わらない。
「っ、…」
一番それを知っているのは俺なのに、足が勝手にシロとは逆方向に走り出した。
高校生にもなって人と人との対話をこんな風に諦めることがあるなんて、情けない。
でもいくら情けないと思っても、もう戻れない。

「なんで、」

「なんで、シロは未来に俺が居なくても平気そうなの?」

俯いたシロの表情は、暗くなかった。
それどころか安定してて、強くなったように見えた。
俺の何にも知らないところで、変わってる。
それが怖くて、悔しくて、寂しい。
もう、今は、あの顔を見るのが辛い。

走って走って、本気でシロに追いかけられたらすぐに追い付かれることも分かった上で、全力で家まで走った。
「っはぁ…はぁ」
相変わらず人気のない家。
今日だけはシロの前よりも、ここにいる方が気が抜けそうだと思ってしまう。
自分の部屋に入って、着替える気も起きずベットに横になる。
もう何も無いのにまだズキズキ胸が傷む。
「…」
何も考えたくない、ただそれだけを頭に浮かべて目を閉じた。
こんなにも朝が憂鬱だと思ったのはいつぶりだろうか。

もうそれも今は考えたく無い。


〜3月1日 卒業式〜

あっさりこの日が来てしまった。
教室に入れば、シロが視界に入る。
でも、話しかけることも出来ず、あっちもあっちで振り向くことはなかった。
「…」
会話は無いまま卒業式が終わり、クラスでの最後のホームルームも終わり、俺らは文字通りこの学校を卒業した。
「こんなあっけない終わり方、すんのか…」
それが嫌だと思っても、話しかける勇気も内容もない。
なんとなく辺りを見渡してみても、姿は見当たらない。
大学一緒なんだから、会えんのに…なんで、俺はこんなにもひとりになるのを怖がってんだろう?
そもそも何を不安に思ってんだろう。
今日が来るまで考えたくなかったのに、考えてしまった。
でも分かんなくて。
…あんなに好きだったシロの笑顔に、不安を感じてしまう。
なんでなんだろう。
自分のことなのに、何にも分かんない。
そんな俺がシロの疑問に答えてきたの今となっては笑えてくる。
「何にも分かってないのは、俺の方だったのに」
呟いてみても楽しそうに写真を撮るクラスメイトにはもちろん届かない。
シロはもう姿すら見えなくなった。

「…これ、なんだろ」

もう全部諦めて帰ろうか、と思った時に机の上に置いておいた卒業アルバムが目に入った。
その最後の方のページに桜の花びらが挟まっている。
まだほとんど咲いてないのに。
一体どこから来たんだろう。
「…っ、これ」
アルバムを開くとそこはメッセージを書いてもらったページだった。
何人かクラスメイトに書いてもらったものとは少し離れて、見慣れた字で書かれたメッセージが追加されている。
「シロ…」
まだ教室内は賑やかだというのに、涙が浮かんでくる。

『ヨウちゃん、桜が少しだけ咲いているところがありました。
やったね!みんなよりも早くお花見できましたね。
〝いつか〟満開の桜を見せてあげるね。』

溢れ出た涙がポツポツとアルバムに落ちていく。
明るい文なのは分かっているけど、俺は本当にひとりになるんだと…そう思ってしまう。
「…〝いつか〟」
その言葉が近い未来を指してないことが、悲しい。
「っ…」
話そうとしてくれていたシロの言葉を遮ったのは俺だ。
だから理由を知る方法は今となってはもう無い。
でもせめて、どうして離れないといけないのかを…教えてほしかった。
「〝いつか〟って、何?…ねぇ、シロ」
涙を堪えながら教室を出た。
また帰るのは人気の無いあの家。
「…」
少し前まで明るかった未来が、急に真っ暗に感じた卒業式の日だった。


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