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essay#9 梅雨が明け、祭りの夜に想うこと



この投稿は恐らく社長である父の目に入ればすぐに消すことになると思います。
社長の目に入らずとも、大変みっともない内容なので私がその羞恥心に耐えられずに消すかもしれません。


が、今の小野﨑太鼓店と今後の小野﨑太鼓店があり続けるためにもお客様に知っておいていただきたく、元々一族の中で(長子なのに女だったという理由で)煙たがられている私が発言すれば弊社の他の誰かが傷つかずに済むと思って、今これを打っています。



私が生まれて、物心ついてから、消費税が導入されて、その税率も3から5パーセント、5から8パーセント、10パーセントと上がり…

かけそば一杯の値段も、びっくりするほど変わりました。

私たちの世代は所謂【失われた30年】が人生そのものです。日本経済がはじめ緩やかに、だんだんと加速度的に衰退していくのを眺めて育ちました。



そして、その日本経済の片隅で、弊社は何十年と値上げをせずに経営してきました。


ただ、それは当然ながら【低い原価で高く売る】【利益率を出す】というビジネスの基本中の基本から大きく外れたものです。


弊社が仕入れる原木は国産の本欅にこだわり、(本欅の中でも樹齢が200年以下の若いものだと暴れやすいので…
…あ、暴れ、とは木を取り扱う際の用語で木が動くことを言います。
『暴れやすい』=『後々歪みやヒビなどが生じやすい』ということですね。
なので暴れにくい、お年を召した、樹齢のある本欅を仕入れています。)

ヒトもそうですよね、「若い頃はオレ結構暴れてたから」っていうおじさまいらっしゃいますよね。

そして木目も樹齢を重ねれば重ねるほど段違いの美しさになります。これもヒトと一緒。
年齢を重ねて、その人が生きてこられた証でもある皺やシミを美しく思うのは私だけではないはず。

皮も国産和牛にこだわり…弊社では可能な限り国産の赤牛を取り扱っていますが、日本で流通している牛皮の0.37%にしか満たないために
めちゃくちゃ高いしめちゃくちゃ争奪戦だしその中から良い鳴りを叶えてくれそうなキズのない皮を仕入れるのって、、、、
例えると、鳥取砂丘で落とした指輪を探し当てるくらいものすごく難しいんです。
鳥取砂丘で指輪落としたことないけど。



それに、鳥取砂丘で落とした指輪を探し当てるくらい難易度の高いことを、ありがたいことに弊社では昔からお取引きさせていただいている超凄腕の皮革業者さまとの信頼関係のおかげで現在も叶えることができております。


もちろん皮や原木の仕入れだけでなくそこから先の技術も代々一族で守ってきた伝統的技法を用いて、
泣きたくなるほど多くの工程を経て作られています。

一切の妥協を許さずにやってきたからこそ守り続けてこられた技術は、
時には他社に【うちが元祖で向こうは亜流】と大嘘つかれたり、
時にはインサイダー取引されたり、
そこそこの危機にも直面してきましたが、一朝一夕で身につくものではなかったからこそうちはなんとか無事だったのでしょう。


で、そんな感じで私なんぞよりもよっぽど大切に大切に育てるように作られた(ここ笑うとこですよ、引かれたら私がかわいそうじゃないですか!)箱入り娘?箱入り息子?的な弊社の和太鼓ですが、



商売下手で口下手でお人好しな父や祖父は
お客様に「ヒャア高いね〜、もうちょっとまけてよ」「もっと安くできるでしょ?」そう云われるがまま、
そもそも正規の値段でさえ採算ギリギリだというのに、

値引きしてきました。

(そもそももっと安くできると思われていること、弊社で製作する1張の和太鼓が完成するまでにかかる年数や費用、手間…それらを全て知ったわけではないのに軽々しく職人の技術を安く買い叩こうとされていること、そこ怒っていいとこだと思うんですが。)


おバカなのかお人好しなのか何なのか。







結果、何が起きたかというと、




当たり前ですが我が家の家計は厳しくなる一方で、

まず私は大学に行かせてもらえませんでした。


太鼓屋に生まれたのに女では出来損ないだ、そんな空気が漂う一族の端っこでいつも縮こまっていた私は、
出来損ないかもしれないけれど、せめて人の役に立ちたくて、そのために学びたいことがあり特に行きたかった大学が2校あって、『アナタこのままならどっちも指定校推薦で行けるわよ!』
と、まだ内申点も成績表も評価が高かった高一の頃には担任のチエコ先生に言っていただけてました。

太鼓判を押してもらえたことで気を良くした私は大学のパンフレットを取り寄せ目を輝かせて『ここで勉強できるんだ、勉強したいことを専門的に学べるんだ』と夢見ていたのですが、ある日そんな私の姿を見た父に


『私立大学は学費高いからダメだぞ』
『そもそも太鼓屋の娘が志望するのがどっちもキリスト教系の大学なんて(もう志望大学が大体バレるなあ)ダメに決まってるだろうが』


と、(お客様に対してはなんでも言うこと聞いちゃうのに)全否定され、
奨学金のこともろくに聞いてもらえず、
このご時世に大学に行けませんでした。

進学校に通ってた割に、親が許さないからなんていうアホすぎる理由で大学に行けませんでした。

私立だって文系学部はそんなに学費高くないんだよ、奨学金を借りて返していくから私は行きたいよ、それにもしかしたら返済不要の枠で採用されるかもしれないんだよ、そんなプレゼンをする暇も与えてもらえずに。


ただ、今更ながら…と母に聞きましたが、その頃から太鼓店の売り上げが減りつつあったようです。




先代の方々の中には一浪してまでよくわかんない大学に進んでよくわかんないことしてる人もいるんですけどね。
いい時代に生まれてよかったね。









そして次に何が起きたかと言うと、


コロナ禍による経済的な打撃はしっかりと弊社にも襲い掛かり、祭りが無くなり、太鼓の音を響かせる機会がなくなり、従業員の皆さまのお給料を支払うこともままならなくなりました。

で、2020年から私が太鼓店にお金を入れ続ける事態になってます。


会社として謎すぎる形態。


ファイナンシャルプランナーじゃなくても、
大学出てなくても、
誰もがツッコミを入れたくなる流れ。



せっかく一流の技術と一流の材料を惜しみなく使っているのに、
お客様は安くないと買ってくれない、うちを選んでくれないと言い張る父。


実際に、今までうちをご贔屓にしてくださっていたお客様が、大変失礼ですが素人に毛が生えた程度の方の工房にお乗り換えなされた際にはさすがの私も枕に顔面押し付けて
『ぐぞぉおおおおおお!!!!!』
『うちの技術を好いてくださってたと!!!そう信じてたのにぃいいいいいい!!!!!!!』
『お乗り換えええええええええええ!!!!!』
と叫びながら悔し泣きしました。


が、

決めるのはお客様です。
切り替えないと。

それに、ありがたいことにそういうお客様ばっかりじゃないのです。


ちゃんと正規の値段でうちの技術とうちの和太鼓を愛してくださる方が大勢いてくださっているのに、何でそちらに目を向けることができないのか!父よ!!



安けりゃいい、安くないとダメっていうお客様を相手にするなら、ホームセンターで揃う安い材料と安っぽい技術でどこぞの職人様がやってらっしゃるように適当な仕事すればいいんじゃん。




何で一流の材料と一流の技術を惜しみなく注ぎ込んだ大切な商品を、いやもう作品に近いんじゃ!!

なのにそれを、『いや〇〇太鼓店は…』『あそこは…』などと気にしてしまって、

三流以下の仕事をしている三流以下の相場価格にうちが合わせて売らねばならないのか。

これではうちだけが大損する仕組みの出来上がりじゃないですか。



ちなみにうちの父、
私の話は一切聞かないと決めているらしいのですが、ある時その理由を聞いたら

『お前たち三姉妹のうち、〇〇(妹1)は国立大学行って公務員になったし、〇〇(妹2)は社会的にも皆から認められる国家資格を持って大病院に勤務してるけど、お前は学歴も何にもないただのチャランポランだから、お前の言うことは信用できない』

だそうです。





この際チャランポランでも長崎チャンポンでもアカチャンホンポでも何でもいいんだが、
私の学歴を強制終了させたのはアンタだからな!


そしておかげさまで学歴コンプレックスを抱えた毒舌ババアが爆誕しましたよ。





普通に現役で大学進学した友人達からは、今からでも、通信制でもなんでもいいから大学行けばいいじゃんと言われます。


独身なんだし、自分で稼いでるお金は自由にできるんだからさ、と。


言いたいことはわかる、超わかる!わかってる!!


ていうかそんなん、出来てたらとっくにしてるううう!!!!

…なんというか、そうじゃないのです。

私にとっての太鼓店は超ぶっといアイデンティティなのです。
脊椎みたいなものなのです。


そして今現在、自分で稼いだお金を自由にせず、太鼓店に入れ続けているのは、
そうしないと太鼓店がいつ無くなってしまうかわからない状況だからなのです。


それが私はものすごくものすごく怖いのです。


もし太鼓店がなくなってしまったら、
自分もなくなってしまいそうで。


だから(幸い今の仕事に支障はありませんが)学歴コンプレックスがあろうが、

自分でどれだけ稼いでいようが(というほど大した稼ぎはないけれど)、


私は自分で稼いだお金を太鼓店に入れています。

「こういう使い方をしてほしいです」と、自分の希望も添えながら。



ホームページ制作の依頼費だったり、

看板設置代だったり(泉町から移転して10年以上経つのにいまだに看板がない店ってどう思いますか…)

うちをPRするためのお金の使い方だったり、


あとは今後のことを考えて今のうちに良い原木を仕入れるためだったり、

工場内の設備投資費だったり…

運送用の社用車を調達する資金だったり…









ただ、私の希望通りの使われ方をしたことはありません。


理由は、私が学歴も何もないチャランポランだからだそうです。(デジャヴ)
私の言うことは信用できないと。

でもお金は受け取ると。







この堂々巡り、頭がおかしくなりそうです。


いいえ、本当はわかっているのです。








私はとうの昔に頭がおかしくなっていて、


ていうよりも、こういったことが重なり、信じ続けていた人にも6年越しに裏切られ、


それで鬱病が炸裂しました。
ジュードロウです。じゃなくて重度です。
かっこいいハゲは好きです。



さらに私の身体も「ハァ?もうやってらんねえよ!!!」とストを起こして心肺停止を数回やってます。


かまってちゃんがやるアレ、肘から手首にかけてサクサク浅めの切り込み入れるみたいな積極的な自殺未遂とかではなくて、
鬱病→徐脈(著しく心拍数の少ない状態)→心肺停止という自然な流れです。老衰のようなもの。体組成計で体年齢測ると21歳なのに。


カラダは若造、頭脳は子ども、心臓はババア!




まだ死ぬわけにはいかないんだと思いながらも、



生きるって、しんどいなぁ。











五体満足のくせに、

恵まれた環境に生まれたお嬢のくせに、って思いますか?


世の中にはもっと不幸でもっと大変な人が沢山いる、って思いますか?


そうですよね。ごもっともです。
友人達にもそう言われて、その時は返す言葉もなかったです。





けど、見た目は五体満足でも、体の内側や心の内側はミキサーをかけたみたいにバラバラのぐちゃぐちゃです。
今の私は薄皮1枚で何とか形を保っているパリッパリのウインナーみたいなもんですよ。シャウ◯ッセンですよ。

何かの拍子にどっかのヒフが裂けたら、もうパリッといい音を立てて、五臓六腑アブラを飛び散らせてしまうのでは。
ビールのお供に最高な存在なのでは。



お嬢だったら、ここまでお金に苦労してませんよ。



世の中の不幸オリンピックに出たいわけじゃありません。不幸自慢をして不幸マウントを取りたいわけでもありません。

エインノーマウンネンハーィイナァフ♪って歌は好きですが、そして両親はハイキングクラブで知り合いお付き合いするに至ったという健全すぎる&マウンテン好きすぎる奴らですが、

マインドのマウントは嫌だ。









ただただ、

父から
ほんの少しでいいから感謝の言葉が欲しくて、

父に
ほんの少しでいいから私の意見を聞いて欲しくて、

父や太鼓店の職人さん達には
自分達は素晴らしい仕事をしているのだと、胸を張ってお金を稼いでもらいたいのです。正当な報酬なのですから。



弊社は三島由紀夫の小説に実名で出てくるほどの和太鼓を作ってきた太鼓店です。

とんでもなく高い技術力を持ち、
とんでもなく高い原材料費がかかっている以上、
当然の対価として、私からではなくお客様からちゃんとお金をいただけるお店になって欲しいのです。


そうやって、大切な従業員の皆とお店を守って欲しいし、次の世代に繋げて欲しいのです。



でも、自分自身がそうされて育ったように
長子(私)にだけ超絶厳しくし続けて、
お客様に対してお人好しな父はそれが出来ないんだろうなぁ。



優れた技術力を持つ職人が、優れた手腕を持つ経営者というもう一つの重荷まで背負うのは難しいのでしょう。
特に、このご時世では。



こうやって、バカ真面目で、不器用な、技術と伝統あるお店って、潰れていくんだろうな。




私は父を恨んだり憎んだりはしていません。
助けてあげたいと思ったのも私、お金を出すと決めて行動してるのも私。
全部私が決めて私が勝手にしていることですから。

むしろ、限りなく父と似通った境遇に生まれ、父ほどではないにせよ似たようなプレッシャーを感じ続けてきた私は本来なら父のいちばんの理解者でないといけないと思っています。


それが出来ていないのは、私の力不足。

父に対しては怒りや憎しみといった積極的な負の感情ではなく、
ずっと不甲斐ない娘で、ずっと役立たずな娘で、本当に申し訳ない、本当にごめんねお父さんという気持ちでいっぱいです。


お店を潰さないために、太鼓店を、太鼓店の正当な歴史や技術を後世に遺せるように、私に出来る限りのことはしなくちゃと頑張っていますが、


私が先に潰れそう。








いや私が潰れる分にはいいんですよ、人1人の命なんてたかが知れてます。

でも私が潰れたら、誰が太鼓店を守ってくれるんだろう。




弊社で製作させていただいた沢山の和太鼓が織りなす囃子の音色で湧き立つ今日の宇都宮の街を眺めて、流れていく音楽と人混みの中にしばらく立ち尽くして、ふとそんなことを思っていました。

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