見出し画像

"朝ドラ至上最高傑作"と言われる「カーネーション」(2011)を見た


朝ドラ
朝に放送される帯ドラマ。特に、昭和36年(1961)から放送されている日本放送協会(NHK)の番組「連続テレビ小説」を指すことが多い。
(デジタル大辞林)


年明けから朝ドラ・大河の過去作品を漁っています。仕事柄、流行りもののほうに敏感でなくてはと思うものの、ハマってしまったのだから仕方がない。Netflixよりアマゾンプライムより、NHKオンデマンドの日々がしばらく続いています。


大人になってから出会った"朝ドラ"。実家でも視聴習慣がなく、新卒で入った会社の仕事を通して存在を知りました。リアタイ視聴をし始めたのはここ1,2年のこと。

朝ドラは毎朝8時から1話15分、半年クールで放送されるNHKの帯ドラマ「連続テレビ小説」を指します。Wikipediaによると、2001年以降の朝ドラは"女性の自己実現"がテーマだそう(男性が主役のクールもあります)。実在の人物をモデルやモチーフにしながら大いに脚色・肉付けしてドラマチックにヒロイン(主人公)の生涯を描いていきます。

過去作を見るとなると、1話15分*週6日*6カ月の時間がかかるもので、1作約150話(35-40時間ほど)を追いかけることになります。それだけ時間をかければアベンジャーズやスターウォーズを完走できそうですが、1話15分が視聴体験的にはすごく軽くて心地よい。「朝ごはんついでに1話」「ランチついでに1話」「おやつタイムに1話」「夕食ついでに1話」「寝る前に2話」で、1日1週間分見られちゃうんですよね。毎日続ければ1カ月で完走できます。
(今年4月から放送中の「エール」は月-金の週5日に変わっています)


で、先日、"朝ドラ至上最高傑作"と言われる「カーネーション」(2011)を見終わりました。すごかった。毎話大号泣。本当にすばらしくって、この世にこの作品が生まれてきてくれて良かったと心底思いました。朝ドラファンからしたら今さらすぎる話ですが、放送から約10年経ってカーネーションに出会ってしまったひとりの感想として楽しんでください。もしまだ見ていない方がいたら強くおすすめします。カーネーションはすごいぞ。

※敬称略でお送りします


「コシノ三姉妹」の母をモデルにした一代記


ファッションに疎い私でも、「コシノ三姉妹」は知っていました。日本を代表するファッションデザイナー、コシノヒロコ・コシノジュンコ・コシノミチコ。彼女たちを育てた母親(故・小篠綾子)が、カーネーションの主人公のモデルです。


名前は小原糸子(尾野真千子)。大正初期に大阪・岸和田の呉服屋に生まれ、まだまだ着物が主流の時代に「ドレス」に出会います。酒飲みで頑固で暴力を振るう甲斐性のない父親(小林薫)と何度も戦いながら、呉服ではない、洋裁の道なき道を突き進んでいくストーリーです。


物語は、幼い糸子が「女だから"だんじり"に乗られない」ことに憤る話から始まります。近所のイケメンで憧れのお兄ちゃん(須賀貴匡)はあんなにカッコよくだんじりの上で舞っていたのに、私は女だからできないなんて。岸和田のだんじりといえば、年に一度街中が湧く象徴的なお祭りです。憧れのだんじりに乗られない悔しさを胸に、「女より男やったら人生どんなに楽しいんやろ」と思いながら成長していきます。

そうして女学生になった折、まだ当時珍しかったミシンに出会います。そうして、「女にしかできんことを見つけて自由に生きたい」「あれが、うちのだんじりや」と確信。作品を通して、「うちのだんじり」=ミシンへの愛と情熱を描いていくのです。


カーネーションの信頼できるポイントとして、昭和中期まで浸透していた「女のくせに」「女だから」の価値観がちゃんと反映されていること。令和のジェンダーフリーな価値観に寄せず、時代背景と照らし合わせてがっちがちに"女の役割"を描いています。(時代物を描くとき、価値観だけが令和な作品が私はすごく苦手です)


そして、糸子の歳を重ねていく姿に、おそろしい手ざわりがあります。神童でも天才でもないので、最初はめっちゃくちゃ失敗して、怒られて、殴られて、泣きながら腕を磨くのです。若い頃は仕事を引き受けすぎて体調を崩すし、無鉄砲に「自分のデザインを採用してほしい」と持ち込みます。キャリアを積んだ頃には、自分の勘を頼りにデザインするも、時代遅れで売れなくなってしまったり。娘3人を育てながら店を切り盛りするストレスといらだちも描くし、してはいけない恋愛をして周りから白い目で向けられたりもします。


糸子が泣いたら悲しいし、糸子が喜んだら嬉しい。そのぐらい没入感のある主人公でした。死ぬまで「女」「仕事」「家庭」「時代」と戦うから、めちゃめちゃにカッコいいんです。あっちが立てばこっちが立たない状況で、信じているのは洋裁だけ。「うちのだんじり」を見つけた(というより、見つけてしまった)人の執念みたいな愛情に、無限に泣かされてしまいます。


洋裁を愛する糸子が、特段おしゃれで美意識の高い人間として描かれるわけではないのもすてきでした。化粧もせず、洋裁屋なのにかなり長い間(糸子いわく、着ていて楽な)和服で仕事をします。仕事と家庭に夢中で自分にかまっている余裕なんてない、と手にとるようにわかります。そういう汗くささに共感しながら、仕事に夢中すぎて寝食をも忘れる姿がなんとも羨ましく思えます。

そうして糸子が作った洋服で、女たちが勇気づけられていく様は、ものすごく特別でした。自分を着飾ること、自分のために格好を選ぶことは、どんな女のどんな時代にもある権利なはずなのに。それを切り開いてくれたことが嬉しくて仕方がないのです。


作中では、太平洋戦争がかなり長く描かれます。あの人もこの人も戦争で死んで、心を亡くします。その無常さ、奇跡の無さが最高でした。生き残れず、みんなが苦しかった時代を、無いものにされなくて良かったと思いました。戦争終わってよかったァ、で急に高度経済成長にいくわけがないですから。視聴者に優しくない物語は、信頼できます。


「お母ちゃん」が92歳で死ぬまで


主人公のモデルになった故・小篠綾子は92歳まで生き、晩年にファッションブランドを立ち上げます。ずっとオーダーメイドで洋服を作ってきた糸子がプレタポルテ(高級な既製服的なもの)に挑戦するシーンは、同じ仕事をする親子の意地の張り合いそのもの。糸子は尾野真千子から夏木マリにバトンタッチして、亡くなるまできちんと描かれます。

三姉妹は作中ずっと"手のかかる子"のように描かれていて、母親に認められたい、姉や妹に負けたくない思いからファッションデザインの道を選んでいきます。三姉妹ひとりひとりに得手不得手があって、対立しながら補いあっていく様子は、見ていて(どこまでが本当のエピソードなんだろう)と思ってしまうほどのリアリティです。


なにより、最終回のオチがもう、完璧。絶対にもう1周したくなります。大拍手でした。本当にすばらしかった。小原糸子の人生を見ずにこれからも働くなんてもったいなさすぎます。

本当に「仕事をすること」「歳を取ること」「女が道を切り開くこと」すべてを教えてくれる傑作でした。出会えてよかったです。


"BK朝ドラ"信者になりそう


朝ドラを好きになってから知ったのですが、4〜9月クールはNHK東京(AK)、10〜3月クールはNHK大阪(BK)が制作を担当しています。カーネーションはBKでした。

私も朝ドラ作品ほかいくつか見ているのですが、好きになるのは圧倒的にBKです。AKはポップなラブコメが多く、BKは暗いししんどいけど丁寧、という印象です。(好みと偏見です)


カーネーションを超えるものにはなかなか出会えないと思うけれど、朝ドラ過去作発掘もガンガンやっていきたい気持ちです。いまは「ちりとてちん」(2007)を追っかけていて、青木崇高にものすごい夢中です。かっこいい〜〜。そして見たことがないネガティブ不器用脇役ヒロイン像(貫地谷しほり)にめちゃめちゃ泣いてしまいます。

「あさが来た」は見たし、次は「ごちそうさん」でしょうか…(複雑な思いで見てしまいそう)。おすすめあればぜひ、教えてください。

いただいたサポートは温泉レポや幸せな生活に使わせていただきます。