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Gothic Doll 魔性の虜

Gothic Doll LoHaを使ったAIイラスト群に付けた小話です。
主人公は男性としても、僕っ娘の女性としても読めますので、お好みでご想像ください。


本編

編入

 前時代的で、古めかしい。
 いかにも、といった趣のありすぎる立派な石造り校舎。そのおどろおどろしい姿を前に、僕は立ち尽くしていた。

 これから二年もここへと通うのか。吸血鬼伝説の残るこの地に。

 吸血鬼。

 曰く。美しい銀の髪。抜けるように白い肌。
 人の生き血を浴び、闇を支配する美貌の魔性。
 
『吸い殺されないようにね?』
 
 留学が決まり青ざめる僕に対し、あの性悪の兄は大笑いしながら、からかい気味に脅してきた。
 くそ、ひとごとだと思って笑いやがって。
 実際に通う身にもなってみろ、と心で毒づく。

 外交官の父、そして商家出身の母に連れられ、僕はここへ二年ほど留学する予定だ。
 ……笑われたとしても、兄と共に国へ残るべきだったか?
 そう後悔するも、腹だたしい奴のドヤ顔が脳裏に浮かび、いや、それはないなと思いなおした。
 アレと吸血鬼なら、僕は吸血鬼を選ぶ。

 不安を押し込め、不必要に立派な玄関をくぐった。
 薄暗く荘厳な廊下を歩くも、いまだ受付は見当たらず。適当にぶらついて探すものの、どこにも誰の姿もない。生徒すら見かけないなんて。

 やめてくれよ。ホラーは嫌いなんだ。
 早く誰かに会えますように、と祈りながら歩いていると。薄闇がゆらりと動き。

「なにか御用?」

「ひ……っ」
 その大きな瞳に魅入られでもしたのか。
「え、あ……」
 己の口からはまともな言葉が何も出てこなかった。
 まるで声を失ったかのように。

 まごついていると、黒髪の少女はこちらへの興味を失ったのか、ふいとどこかへ行ってしまった。

 驚いた。バクバクと鳴っている心臓を上から手で押さえる。

 幽霊かと思ったのだ。あまりに不意打ちだったから。
 誰に言い訳するでもなく、心のうちで呟く。

「あら、見かけない顔ね」

 声に驚き振り向くと、そこには。

 抜けるように白い肌。
 美しい銀髪。
 血のように紅い唇の美少女が佇んでいた。

 噂の、吸血鬼そのものの姿。
 さぁっと血の気が引いてゆく。

『吸い殺されないようにね?』

 兄の忠告が脳裏に木霊する。
 知らず緊張がにじんだ。

「編入生かしら? 事務室なら、あちらよ」

 とても親切な吸血鬼さんだった。


 *** ***


 あれから数日。僕はまだ生きている。

 いまだ慣れない荘厳な校舎に通い、高貴なクラスメイト達と共に学ぶ。
 なんとかこの環境に馴染もうと意を決し、たまたま隣の席になった少女に話しかけてみた。

「あのさ、吸血鬼って……」
「わたしは、何も知りません……」

 そう少女は呟いて、うつむいてしまった。

『や~い、失敗してやんの』
 うるさい、脳裏の兄め。
 話題選びを間違えたのは分かってるよ、畜生!


「あら、御機嫌よう」

 反対隣の席に少女が座る。
 あのときの、親切な吸血鬼(?)さんだ。
 しかし、一瞬誰なのかわからなかった。いつもの黒いドレスではなかったから。
 白い衣装を身にまとうだけで、こうも印象が変わるのか。

 そんなこんなで、日々は過ぎていく。


 「ほら、海だよ!」

 どこから突っ込むべきなのか……。
 なんで僕を誘ってくれたのか、とか。
 その前衛的な水着は何なの、とか。

 あのどこか排他的な空間の中で、この娘(こ)はひときわ明るい存在だった。
 編入生として馴染み切れず、まごついている僕を見かねたのか、こうして遊びに誘ってくれるくらい。
 初手から海は攻めすぎだろとか、思わなくもないけど。

「それ、泳ぎにくくない?」
「え~? でも可愛いでしょ?」

 屈託のない応え。
 いや、えと、うん。可愛いです。凄く。

『綺麗だね~』

 彼女はそんな表情で魚を見つめている。
 その水着でスイスイ潜れたことも衝撃だけど、なんていうか、その、つい目線が……。

 まあ、なんだかんだ言って僕もそれなりに海を楽しんだわけですよ。


 *** ***


「海に行ったそうね」

 なぜか咎めるような視線。

「えっと、はい」
「ずいぶんと楽しかったご様子」

 もしや一緒に行きたかったんだろうか。

「お嬢様も海お好きなんですか?」
「……日に焼けるから嫌いよ」

 どうにも吸血鬼疑惑は晴れない。

 いや別に、血を吸わせてくれって言われたわけじゃないし。
 基本的に親切で良い人だし。
 僕の勝手な印象でしかないんだけども。

 雰囲気とか言動の端々に、つい疑惑を抱いてしまう。


「海、楽しかったね。また行こうね❤」

 背後から明るく声を掛けられ、振り向く。
 ドレス越しでも分かる、スタイルの良さ。
 う……、水着姿を思い出してしまった。


兄上様

 最近どうにも視線を感じる。

 お嬢様と黒髪さんだ。
 よく二人で話してるし、仲いいんだな。

 それはともかく、その意味深な視線はナンデスカ?
 なんだろう、そろそろ食べごろですね的な……?

 *** ***


「貴様か。我が妹の周りをうろちょろしているという羽虫は」

 お嬢様の兄上様のご登場です。
 こちらも、大変高貴なオーラをまとっていらっしゃって、気おされてしまう。

 というか普通に怖いです。
 
 え、吸われないよね?
 違うよね?
 吸血鬼じゃないよね?

「明日の朝、迎えをやる。逃げるなよ」

 ああ、神様。僕の命も今日までですか。


 *** ***


「私の馬車では不満か、羽虫」

「いえ、大変光栄です。兄上様」

 なぜか一緒に登校することになってしまった。
 本当に意味が分からない。
 ストレスでキリキリする胃を押さえる。

「ふん。妹の馬車に乗れるなどと間違っても思うなよ」

 え、もしかしてこれ監視なのか……。
 どこの馬の骨とも知れぬ下民ごときが、かわいい妹に近づくなと?

『恐れ多くて、お嬢様に手なんて出せませんよ』
 などと、文句を言えるわけもなく。

 不機嫌に眉を顰める兄上様と二人、ガタゴトと揺られて行った。
 ドナドナ……。


 ゴトリと、馬車が止まる。
 無限にも思えた道のりを終え、学び舎へと到着したらしい。

「今日は日差しが強い……。溶けてしまいそうだ」

 先に降りた兄上様がげっそりと呟く。

「え、馬車から玄関までのこんな短距離で?」
「笑うな羽虫!」

 怒る声もどこか気怠げで。
 この程度で弱ってしまうとは、吸血鬼(?)も大変なんだなと、しょうもない感想を抱く。

 しかし参ってしまっている兄上様は、可愛げがあるぞ。
 まるで毛を逆立てている猫のよう。
 怖さよりも微笑ましさが勝って、後に残ったのは心配だった。

「大丈夫ですか、兄上様」

 フラフラとした足取りで、彼は椅子に倒れ込む。屋内に入っても気分は悪そうだ。

「……っ、この程度」

 たったあれだけの日差しでこんなにも苦しむなんて、あまりに気の毒で。
 回復するにはやはり…… 。

「……僕の血でも飲みます?」
「なんだと?」

 兄上様の鋭い視線が、僕を射抜いた。

「……貴様、正気か」

 まあこれだけ弱ってれば、吸い尽くす元気もないだろうし。だから大丈夫かなぁ、なんて。

「ちょっとだけなら、いいですよ。僕の血、飲んでも」
「誰が飲むか、痴れ者!」

 断られてしまった。
 人助けだし。献血だと思えば少しくらい平気なのに、と思うのだが。

「羽虫。貴様、まさかそのような戯言を誰彼構わず吐いているのではあるまいな?」

「まさか。貴方にだけですよ」
「!」

 美人は睨んでても綺麗だ、と。
 僕は見惚れた。


 *** ***


 あれから毎日、兄上様と行動を共にしている。
 行きも帰りも馬車に同乗させていただき、学び舎ではできる限り付き添った。弱々しい姿を見て以来、倒れないかどうにも心配で。

「白銀様と仲が良いんだ?」

 そんな問いを受けるなんて。
 やはり一緒に行動していると目立ってしまうか。

「……さあ、どうかな」

 追いかけているのは主に僕の方だ。
 兄上様はどう思っているんだろう。
 なんだか怒られてばかりな気もするし。
 もっと仲良くなれたら、とは思うけれど。

「……ふーん」

 煮え切らない返事。
 まさか彼女も兄上様のことが……?


「あの阿呆の面倒は
 いつまで見ていれば良いのだ」

 晩餐後に兄に問いかけられた。
 
 そう、例の編入生があまりにも無防備で憐れで。
 魔性に誘われ、のんきに海にまで行ったというから。
 思わずまじまじと首を観察してしまった。
 噛み痕は見当たらなかったから、まだ手つかずだったよう。
 安堵したわ。

 それならば、手遅れになる前に。
 留学生に何かあっては、国際問題にも発展しかねないから、と。
 そう気をまわして、兄に護衛を頼んだのだった。

 それから一体どんな手段で手懐けたのか。
 編入生は犬のようにずっと兄の後をついて回っている。

「まあ、ずいぶんと楽しそうですもの。
 ずっと傍で見ていただいてもよろしくてよ、お兄様」
「ぬかせ」

 わたくしには、兄も満更でもないように見えるのだけれど。
 律儀にあの子を傍に置いて、魔性から守って。
 嫌いならとっくに匙を投げていると思うもの。

「でもそうですわね。
 目立つところに印の一つでも付けていれば
 厄除けになるのではなくて?」

「印?」
「そう、首輪代わりに首筋に付けて差し上げたら?」

 魔性は処女清童を好むというし。
 お手付きであると示せば、毒牙にかけるのを諦めるのではないかしら。 

「奴につけろと? 私がか!?」
「まあ、ではわたくしがつけてもよろしいの?」
「ぐ……っ」

 可愛い妹を羽虫に近づけるわけには……。
 きっと、そんな風に心で言い訳しているのでしょうね。

 でも逆でしょう?
 お兄様は誰もあの子に近づけさせたくないのだわ。

 首にキスマークをつけるくらい、誰にやらせたって大差ないもの。
 それこそ使用人に命じてもね。
 それを自分でと考える時点で、とっくに答えは出ていてよ。


 *** ***


「仕方がない……。羽虫、首筋を出せ」

 座らされ上向くと、兄上様の手が襟元をするすると緩めていく。
 少しこそばゆい。

「あれ、もしかして僕の血を吸いたくなったんですか?
 この間は拒否したのに?」
「……うるさい。黙れ」

 首筋に兄上様の吐息を感じたかと思うと、首元にチリっとした痛みが走った。

「……こんなものか」

 たった一瞬だった。
 いい香りがしたと思った瞬間にはもう終わっていて、兄上様は離れて口を拭っている。なんだか物足りない。

「あれ、もうお終いです? もっと吸っても……」
「いらん!」

 ほとんど吸われた感じしなかったけど、あんなにちょっとで足りちゃうものなんだ?
 もう少しくらい……、と僕は名残惜しく兄上様の唇を見つめた。


魔性

「!! 首のその痕……」

 兄上様に付けられた痕を、早速見つけられてしまった。

「あー……。なんか虫に噛まれちゃったみたいで」

(やられたわ!
 経験済みの血は味が濁って飲めたものじゃない。
 諦めるしか……。この子、凄く美味しそうだったのに……)
「……そっか。お幸せに」

「???」

 足早に去っていく少女の後ろ姿を呆然と見つめる。

 なんだか怒っているようだった。

 やはり彼女も兄上様のことが……?
 ごめんね。でも僕も、こればかりは譲る気がないんだ。


 *** ***


「難儀なものね、紫外線アレルギーというのも」

 親友が日傘で光を遮ってくれる。
 日向でフラフラになるわたくしを見かねて、優しい彼女は今日も付き添ってくれた。いくら感謝しても、し足りない。

「夜に適合しすぎて、色素が薄くなった
 ヴァンパイアハンターの家系だもの。
 しょうがないわ」

 夜に戦い、夜に争い。
 そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にか。
 陽に弱い肌も、透き通る髪も
 怨敵の魔性の特徴だったものが、我が一族の特徴となり
 我らは白い一族となった。

 一説には争いあう過程で、血脈にその力を取り込んだという伝承もあるけれど。

「デイウォーカーなんて吸血鬼もいるのにね」

 長い月日をかけて、我らが奴らの特徴を得たように。
 彼らもまた我らの特徴を得たのだった。
 ニンニクも、十字架も、陽の光も、聖なる銀ですら。
 もはや奴らは恐れることもなく、滅されることもない。

「まったくね。でも一矢報いてやりましたわ」
 
 獲物を盗られたと知ったときの、あの魔性の顔ときたら!
 全く残念でしたわね。桃髪の魔性のお嬢さん!


「日差しが強い……」

 相変わらず兄上様は太陽が苦手だ。
 倒れそうにふらつくのを横から支える。

 しかし吸血鬼って凄い。
 あのたった一回だけで。
 僕を完全に眷属化してしまったのだから。

 そう、たった一度。
 たった一度だ。

 あの甘美な一瞬に感じた、かぐわしい香り。
 濡れた唇。

 今度は僕が。

 あの美しい首筋に顔を埋め
 牙を突き立てられたら、と。

 魔性に堕とされたこの身は、強く。
 強く。

 そう願って、やまない。


番(つがい)

「新居にお連れになるのは、本当にあの子だけで宜しいんですの? お兄様」
「ああ、それほど広くないしな。
 アレがいれば、なんとかなるだろう」

 そう上機嫌に宣う。
 二人暮らしが楽しみで仕方ないようだ。

 もう一人二人くらい、使用人を連れて行った方が楽なのでは、と思わなくもないけれど。
 彼らに付き添う羽目になる者は、あの恋愛一色な空気にあてられて可哀想な気がして、それであまり強く勧められないでいる。

 以前『印をつけては』と、けしかけて以来、次兄とあの子は急速に仲を深めていった。
 一時も離れようとせず、時に見ているこちらの胸やけがしてしまうくらいに。

 それはそれは甘やかな、二人だけの空気を醸し出しているのだ。

 まるで番(つがい)ね。

 まあ鈍い二人は、かなりの期間、清い交際……というか、あの子に至ってはその衝動をずっと吸血欲求だと勘違いしていたみたいだけれど。

 我らを吸血鬼だと思い込むなんで、いくらなんでもあの子は鈍すぎではないかしら。
 恋は盲目とはよく言ったものね。

『あんなにも美しい兄上様が、単なるお人であらせられるわけがないと思い』
 ですってよ。
 笑ってしまったわ。

 そしてその編入生は、当初の留学期間を終えても帰国せず、この次兄の従者として当家の使用人枠にちゃっかりと収まっていた。

 長兄の結婚により、この度、次兄は家を出て独立することになったのだけれど。
 それにも当然の如くついて行くというのだから。

 新婚もかくや、といった風情だ。

 次兄は、家族から『家督を継ぐわけでもなし、お好きになさいな』というスタンスで生暖かく見守られている。

 あの子が、隣国有数の大手商会に伝手を持っていたのも良かったのだろう。
 次兄はその伝手を使って貿易を行い、優雅に暮らせるだけの富を得ている。
 
 なんにせよ、誤解は解け、障害もなく、若い二人の想いは通じあい、めでたしめでたし。
 最近見かけるようになった、次兄の首筋のキスマークを横目に。

「お幸せに」

 わたくしはそう呟いて、紅茶を飲み干したのだった。


fin



LoHa

こんな感じの画像が作成できるLoHaはcivitaiからダウンロードできます。
AIイラストローカル生成勢の皆さまは是非使ってみてください!

SD2用

SDXL用

 


他ルート

恋愛ゲームのようなものを想定していたので、各キャラクターごとのエンドがあります。

白黒令嬢ルート
 男性主人公なら、百合に男を挟む話。
 女性主人公なら、三百合になる話。

ピンクツインテちゃんルート
「もう僕の血以外は飲まないで?」
 独占欲ヤンデレ化。

茶髪さんルート
「君をさらって逃げるよ」
 吸血鬼からの逃避行。
 自国のお兄ちゃんが出てくる。


感謝

ツイートまとめ

さつきさんがまとめてくださいました!

素敵イラスト

素敵なイラストまで(*´▽`*)
ありがとうございます!


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