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ラッキーボーイ


登場人物
鈴木陽多(21)・・・配送アルバイト
佐藤壮平(39)・・・『多々良運輸』従業員
佐引健二(52)・・・置き配希望の客
兼松麻子(60)・・・主婦 第一顧客
壱岐道夫(50)・・・自営業 第二顧客
芳賀瀬里奈(25)・・・第三顧客

○ マンション・外観
     出入口前に止まる軽自動車。
     運転席から鈴木陽多(21)が、出てきて荷
     台を開ける。
     荷台には大量の配達物。
     陽多、タブレットを見ながら配達荷物を探
     す。
  陽多「えーと。佐引さん佐引さん・・・おっ
      あった」
      荷物を手に取り、駆け足でマンションに入
      る。
○ 同・1F
     陽多、インターホンに402と入力。
     ピンポンと鳴り響く。
佐引「(出て)はい」
陽多「こんにちは。多々良運輸です」
佐引「置いといてもらっていいですか?」
陽多「はい」
     オートロックの自動ドアが開く。
     陽多、エレベーター前まで走る。
     ドアに『故障中』と書かれている。
陽多「チッマジかよ」
    陽多、階段を全速力で駆け上がる。

○ 同・402号室・ドア前
     陽多、荷物をドア前に置き、タブレットを
     操作する。
     タブレットはカメラ機能に変わり、置き配
     した荷物を写真に撮る。
陽多「おし」
     陽多、全速力で走り出す。

○ 軽自動車・中
     車に乗り込む陽多。
陽多「ハァ~。疲れた。これで一丁目は全て
    終わったな。にしても6月にしては暑すぎ
    だぜ」
    陽多、鞄を取り出し中を漁る。
陽多「あれ?」
    陽多、カバンの中を覗く。
陽多「うっわー。水筒持ってくんの忘れた。
    最悪だ」
    陽多の目の前に自販機。
陽多「(ゴクッ)。飲みてぇ。しかし、今
   月ピンチで少しでも節約したいし。クゥ
   ー・・・」
   陽多、自分の頬を自ら叩き喝を入れる。
陽多「よし」
    陽多、車のエンジンをかける。
○ 道
    走り出す車。

○ 車内
陽多「二丁目の兼松さんの荷物を配達した
    ら近くの公園で水を飲もう」

○ 道
     狭い道。
     車を左脇に止め、車から降り、荷台からド
     リンクが入ったダンボールを持って走る陽
     多。
陽多「兼松兼松・・・あった」
    走る陽多。

○ 兼松邸・外観
    陽多、インターホンを鳴らす。
女性の声「(インターホンから)はい」
陽多「こんにちは多々良運輸で~す」
女性の声「は~い」
    陽多、ドア前まで移動する。
    家の住人兼松麻子(60)が、顔を出す。
陽多「兼松さんのお宅でしょうか?」
麻子「はいそうです」
陽多「では、こちらに印鑑かサインをお願い
    します」
麻子「はい。こんな暑い中大変ね」
陽多「いえいえ、仕事ですので」
    麻子、伝票の印鑑を押し、陽多に渡す。
陽多「ではありがとうございましたー」
麻子「あっちょっと待ってお兄さん」
陽多「はい?」
麻子「暑い中大変でしょ?これ配達途中に飲
   んで」 
     麻子、500mlの烏龍茶を陽多に渡す。
陽多「いえいえ。お気持ちだけで結構です」
麻子「若いのに遠慮するんじゃないよ。こん
    なに暑いのに、水分を取らないと熱中症
    になるわよ。はい。持ってって」
陽多「はぁ・・・ではお言葉に甘えて」
       陽多、烏龍茶を受け取る。
麻子「頑張ってね」
陽多「ありがとうございます」
      ドアが閉まる。
      陽多、駆け足で車に戻る。

○ 車・中
    陽多、車に乗り込み烏龍茶を飲む。
陽多「プハッ・・・ハァ~生き返ったぜ。兼
    松さん神。今日はツイてるかも」
     着信音が鳴る。
     画面には『多々良運輸本部』の文字。
陽多「うわっ本部からだ(出て)はいお疲れ
    様です」
佐藤「おつかれ。あのさ、昨日二丁目の壱
    岐さんの荷物届けた?」
陽多「いや。昨日は自分休みだったんで届け
    てないですね」
佐藤「え~。じゃあ誰が届けたんだろう?」
陽多「確か、昨日は遠山が担当だったハズで
    す」
佐藤「遠山かぁ。アイツ・・・チッ。鈴木く
    んさ。悪いんだけど壱岐さんのお宅に今か
    ら行ってくれる」
陽多「何かあったんですか?」
佐藤「どうもこうもないよ。昨日、再配達
   頼んだのに荷物が届いてないって」
陽多「え!ちょっと待って下さい」
     陽多、急いで車から降り、荷台に積んであ       る大量の配達物から荷物を探す。
     中から『壱岐』と書かれた荷物を発見さ
     れ、配達日が一昨日の午前中配達と書かれ
     てある。
     慌ててタブレットで荷物をスキャンする。
     画面には『玄関前』と表示されている。
陽多「(舌打ち)」
     急いで車を走らせる陽多。その顔に余裕が
     無い。

○ 明和ハイツ 2F
     陽多、深深と頭を下げる。
     目の前には壱岐道夫(50)。大分ご立腹の
     様子。
陽多「大変申し訳ありませんでした!」
壱岐「すいませんでしたじゃねえよ。置き配
    するように頼んだのに何で荷物置かなか
    ったのか説明しろって言ってんだよ」
陽多「すいません。その日別の配達員が配達
    したものでして」
壱岐「はぁ?そいつは何?新人さん?」
陽多「はい。まだ務めてまだ2ヶ月弱でし
    て」
壱岐「だったらお前じゃなくてそいつ連れて
    こいよ」
陽多「すいません。本日はお休みでし
    て・・・」
壱岐「はぁ?じゃあお前に言ったってしょう
    がないじゃねえか」
陽多「誠に申し訳ありません」
    深々と頭を下げる陽多。
壱岐「(舌打ち)」
   壱岐、荷物を奪って領収書にサインをし、
   陽多に渡す。
壱岐「いいか。あの遠山という従業員を今度      ここに来て謝罪するように伝えろ。いい
    な」
陽多「承知しました」
   壱岐、ドアを思いっきり閉める。
   陽多、一礼して歩く。
陽多「何で俺が怒られなきゃいけねえんだ
   よ。クソっ。こんな仕事絶対辞めてや
   る!」
    陽多、201号室のインターフォンを鳴ら
    す。
    中から音がガンガン聴こえる。
陽多「めちゃくちゃ音漏れしてるな」
女の声「は~い」
陽多「こんにちは。多々良運輸です」
    ドアを開けるとバスローブ姿の芳賀瀬里奈(25)が顔を出す。
   バスローブから見える胸元。
   その衝撃に耐え切れず目をそらす陽多。
瀬里奈「すいません。こんな格好で。中まで
    入れてくれますか?」
陽多「あっ・・・はい」
   陽多、中へ入り玄関前に荷物を置く。
   リビングを見るとパソコンが置かれており
   微小だが音が漏れている。
瀬里奈「あの・・・印鑑かサインですよ
    ね?」
陽多「あっはい」
瀬里奈「ちょっと待ってもらってもいいです
    か?」
    瀬里奈、リビングへ行き戸棚の開け、印鑑
    を探す。
瀬里奈「えーと・・・どこかしらね」
   瀬里奈、奥まで調べる。
   バスローブからお尻が見えそう。
  陽多、体をずらしお尻を見ようとするが、見
  えそうで見えない。
瀬里奈「あっ。あった!」
陽多「(我に返り目を逸らす)」
   瀬里奈、玄関に戻り領収書に印鑑を押す。
   陽多、領収書を剥がす。
瀬里奈「暑い中大変でしょ。頑張ってくださ
    いね(満面の笑み)」
陽多「(テレつつ隠し)ありがとうございま
    した」
   陽多、逃げるように出ていく。
〇  同・通路
   深呼吸する陽多。
 
〇 インサート
   バスローブから見える瀬里奈の谷間。
陽多N「あれ。絶対中何も着てなかったよ
    な」

〇 明和ハイツ 2F(回想戻り)
陽多「フッ。この仕事。まだまだ捨てたもん
    じゃないな」
    陽多、次に向かって走り出す。
                                                                            了






    



  


 


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