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より良い明日のため。〜ディズニー100周年記念作品「ウィッシュ」

12月15日に公開された、ディズニー100周年記念作品「ウィッシュ」。
私はディズニー映画とディズニー音楽とディズニーランドに育ててもらったので、これは流石にちゃんと劇場に行かねばということで公開初日に観てきた。

ディズニーのアニメーションもパークも大好き。
だけどガチの方に比べればそれほど詳しいわけでもない、という私だが、せっかくなので感想を残しておく。

観に行くか悩んでる方、観たけど共感する感想を探している方(共感する保証はないが)、何かしら参考になれば。

前半はネタバレなし、後半はネタバレ含みます。
ちなみに観たのはレイトショー、2Dの字幕です。
吹き替えの台詞の言い回し等はわからないけれど、観た後に楽曲は一通り聞いている状態での感想になります。


流石100周年記念作品。良くも悪くもThe ディズニー

まずはネタバレなしでの全体の感想を。

一個人の感想ではあるが、今回のコンセプトは
これまでのディズニー作品をファンと共に振り返り、次の時代に向けての一歩をどう踏み出すか考える
だったように思う。

これまでのディズニー作品のオマージュや、隠れミッキーのような小ネタ(本国ではEaster Eggsと呼ぶらしい)がこれでもかと詰め込まれていて、ディズニーファンにはたまらないシーンが次から次へと現れ、100年の歴史に思いを馳せることができる。

細かいツッコミどころや「それはどうなん?」的な展開、キャラクター設定はあるが、こういう「考えるな、感じろ!」的ストーリーと演出がディズニーの真骨頂なので、そういうメンタルで観られるなら楽しめると思う。

また、今回の一大トピックはアニメーションの表現。
100周年記念作品ということで、これまでディズニーが切り開いてきた手描きの2Dアニメーションらしい作画がかなり特徴的だ。

見慣れてしまえば何の違和感もないが、最初はこれまでにない質感にびっくりした。
私は昔のディズニーの2Dアニメーションも大好きなので、区切りの作品でその要素をしっかり盛り込んでくれた製作陣に全力で感謝を述べたい。
あの、ほんとに、マジでありがとうございます。

そしてお家芸のミュージカルシーンはかなり長尺。
後ほど楽曲にも触れたいが、今回私の中では「好きなディズニーソング」のランキングが自分の中でがらっと更新されるくらい好きな曲が多かった。
ディズニーの楽曲だけで楽しい気持ちになれる人はぜひ映画館のサウンドで楽しんでいただきたい。

私は吹き替えで観ると決めているオリジナル信者だが、今回は吹き替えの声優陣の方々も素晴らしかったし、日本語詞も良かったと思う。
いくちゃんと福山のファンは全員観に行ってください。

逆に、いわゆるディズニーのミュージカルが苦手な方はかなりきついかもしれない。
特に前半にあるバラード調の曲の場面。
もちろん重要なシーンだし楽曲も素晴らしいけれど、大きくはストーリーが動かない且つバラードなので、苦手な人はここでうんざりしてしまうかも。

また、ディズニー作品でよく言われる「ご都合主義」的なところとか、細かいツッコミどころの多さが気になってしまう人は、これまでどおり今回も気になってしまうと思うのであまりおすすめはできない。

緻密なストーリーやあっと驚く設定を楽しみたい人はこれ観なくていいんで、ズートピアとアナ雪2とインサイドヘッドを観てください。

ポリコレ的な話

ネタバレ無し編の最後に、近年ディズニー作品で話題になるポリコレ的な側面について。

よく槍玉に挙げられるところでいくと、

  • 人種系(登場人物の人種の偏り、またはそれに対する過剰な配慮)

  • ジェンダー系(プリンセスはいつもプリンスが助けてくれる)

  • 家族至上主義(家族の絆は強く、素晴らしいという前提でしか描かれない)

あたりだろうか。
(ルッキズムもよく言われるけど、それは近年のディズニーでは割と改善傾向にある気がしている)

今回うまいことやったな、と思ったのは登場するキャラクターの人種の部分。
物語の舞台となるロサス王国は、人々の願いを王様が叶えてくれる国で、どんな人でも受け入れと移住を許可している。そのため、世界各地から多くの人が訪れるのだ。
主人公アーシャは褐色の肌を持っていて、1番の友人であるダリアはアジア系の顔立ちで片脚が不自由な少女だ。
そのほかの友人たちも背格好・肌や髪の色は様々だが、この王国ならそういうこともあるだろうな、と無理なく納得できるようになっている。(ちなみにこの友人たちは、白雪姫に登場する小人たちのオマージュだそう)

加えてよく問題になるジェンダー周りでいうと、ストーリー的に若干わざとらしく女性に傾いている感はあるが、「男女の役割固定」みたいなポイントでいえばかなり柔軟になっている印象。
私は、あまり気を遣いすぎて「配慮してる」感が出るのは好ましくないと感じるほうなので、このくらいで留めておいていただきたい所存。

家族至上主義については、キリスト教圏でアメリカに本社を置き、子ども向けのコンテンツを多く発信してきたディズニーからするとかなりハードルが高いだろうなぁ、とは思うのでわがままは言いません。

総じて、個人的には好きな作品

「曲が良い」ことが割とあらゆることを解決すると思っている人間だということもあって、個人的には大好きな作品になった。
音楽が楽しめるなら、他に気になるところがあっても映像と楽曲の力である程度楽しめる作品なので、迷っている方はぜひ。

以下、この記事より下はネタバレありなのでご注意を。


ディズニーにとっての「悪」とは

今作の感想を述べるうえで一番ポイントになりそうなのが、新たなヴィランとして登場するマグニフィコ王。
彼をどう捉えるかによって、ストーリーを良しとするか否かが大きく変わるのではないだろうか。
「ディズニー史上最恐」と謳われプロモーションされている彼だが、果たして本当にそうなのか?という話だ。

ロサスの人々は、18歳になると叶えてほしい願いをひとつマグニフィコに差し出す。
その願いはその時すぐに叶えられるものではなく、叶えられるのは月に一度のイベントの時に、王が選んだもののみ叶えられ、その願いがどうやって選ばれるのかの基準は明かされていない。
そして、王に願いを差し出した瞬間、差し出した本人は願いが何だったかを完全に忘れてしまう。

この「願いを選ぶ基準」が問題なのだ。
マグニフィコ王は、昔自分の国が外国に攻められ滅びてしまったことを反省し、「ロサスや自分にとって確実にプラスとなるであろう願い」を恣意的に選んで叶えていた。
王国のためにならない個人的な願いは、あくまで預かって守るのみで叶えるつもりなど全く無い、というわけである。
アーシャがこれに激怒し大揉めして、それをきっかけにマグニフィコは闇の魔法的なものに手を染めてしまい「最恐のヴィラン」になっていく。

ただこの最恐のヴィラン状態、いわゆる「悪魔と契約した」みたいな感じで、闇の魔法に心身を乗っ取られてしまい、もはや元に戻ることはできなくなっている。
その魔法に手を染めるまでは、妻である王妃の説得を聴く場面もあったし、国を滅ぼしてしまった過去があれば国にとって有益な願いを選んで叶えていくという手段にも納得がいく。
そういった有益な願いを集めるために、そのほかの有象無象の願いも集まってはしまうが、通常時のマグニフィコはそれらを雑に扱ってはいない。
もちろん、叶えないから返すねー!とはいかないからそうしているのだけど、叶える叶えないに関わらず、どの願いも同じように保管されている。
これ、そんなに言うほど悪いやつだろうか?

隠れていた本性が現れただけとか、そもそも有益でない願いを馬鹿にしてた節があるとか、そんなヤバイ魔法を持ってたのもヤバイとか、ヴィラン状態の歌でめちゃくちゃエゴイストなのもヤバイとか、捉え方は色々あると思う。
その捉え方によっては、救いようのない悪いやつだと考えることもできると思う。
でも、私には「焦って焦ってヤバイ魔法に手を出したら最恐になっちゃった」人に見えた。

ディズニーの悪役は結構えげつないやられ方をすることも多いが、今回は最終的にマグニフィコ自身が作った魔法の杖の中に閉じ込められる。
そして代わりに女王となった王妃に、その杖ごと城の牢に入れられるという結末。
ちょっと可哀想じゃないかな……と思ってしまった。

ただ、これを「めっちゃ悪いやつ!」と公式はプロモーションしているのである。
つまり、ディズニー的には「致し方なく悪者になった」ではなく「こいつは実は悪者だったんです!」というキャラクター設定だということだ。
故郷を追われた話が無ければもう少し納得いったような気がするんだけど、故郷追われた話も掘り下げてはもらえなかったので、そこがモヤっとしてしまった。
泣く泣くカットしたのかもしれんけどね。

今日より少しでも良い明日を

一方の主人公であるアーシャ側に立てば、今作のメッセージ性もわかりやすくてとっても良かった。
特に挿入歌「This wish」のオリジナルと、「I'm a star」の2曲でのまとまり方が素晴らしい。

「This wish」のサビの歌詞を紹介する。

So I make this wish
To have something more for us than this

This wish より

マグニフィコと衝突したあと星に願いをかける場面で歌う、今作の「I wish ソング」。
アーシャは「奪われてしまった願いを取り返したい」と願う。
ここでキーポイントだなと思った点は、アーシャが「願いを叶えたい」というよりも「願いを奪われている今よりも、願いを取り戻すことで皆にとってより良い状態にしたい」と思っているというところ。

願いを取り返すことができても、それら全てが自分たちの力で叶えられるわけではない。けれど、奪われたままよりは絶対に良い。
ならば、今より少しでも良い状態を作るために行動しよう。

これは、日々生きていく中で私たちに降りかかる色んなできごとを乗り越えるためにすごく勇気をくれる考え方だと思う。

ちなみに日本語だと、以下のようになる。

この願い 今日よりもっと輝く
この願い 諦めることはない
明日のため

ウィッシュ〜この願い〜 より

少しオリジナルよりも「願いを叶えたい」感が強くなっているような気もする。
こういう違いを探すのも、ディズニー映画の楽しみ方のひとつ。

私たちは皆、星の子ども

そしてもう1曲、「I'm a star」の話も。

今作で一番可愛いキャラクター、「スター」が登場して始まる1曲。
アーシャが星に願いをかけるとやってくるスターは、アーシャが皆の願いを取り戻すための手助けをしてくれる。
ただし、手助けはしてくれるが、願いそのものを叶えることはしてくれない。あくまで手助けである。
このスターが、作品を通して「願いを叶えること」の象徴として扱われていく。

そこで、この「I'm a star」である。
一番簡単なメッセージとしては、「みんなそれぞれ違う個性があって輝く存在である」というわかりやすいところ。
それに加えて重要なのは、「地球上の物質や生物は全て、もともとは宇宙にある星だった」というメッセージ。

私たちは皆、空に浮かぶ星からできている。
だから、私たちは皆スターである。

ということは、皆が願いを叶える象徴になりえる

物語終盤、スターがマグニフィコに捕らえられピンチになる場面。
それまでマグニフィコをただ心酔していた民たちが、アーシャの言葉に心を動かされ、それぞれの胸にスターの輝きを宿す。そしてそのパワーによってマグニフィコは打ち負かされた。

今作における「願い」をただの魔法の力に留めておかず、スターと実際の宇宙とを絡めることによってより説得力を増すというアイデアに痺れた。

そしてこの終盤、民がアーシャに合わせて歌い出すシーン。
今作のメインテーマ「This wish」のリプライズなのだが、途中で拍子が変わる部分がある。
変わるところと変わり方は序盤でも同じなのだが、ころリプライズではまた違った意味が込められているように感じるので紹介させてほしい。

6/8拍子で始まった曲なのに、ひとりまたひとりと歌声が増えていき、群衆のコーラスがひとつになると、その後マーチのリズムに変わるのだ。
暴虐な王に逆らう民の行進として、そこで一気に民衆がひとつになる。
レミゼの民衆の歌に近い印象かもしれない。

変拍子はこのためにあったのか、と胸がいっぱいになってしまった。
作曲チームに盛大な拍手を!


映画の感想を書き慣れていないので、あまりまとまりなく長々と書いてきてしまったが、私の感想はこの辺りにしておく。

ネタバレ無しのところでも書いたが、総じて個人的には100周年にふさわしい作品だったと思う。
山のようにあるというオマージュは全て見つけられていないので、また色々調べてからもう一度見直したい。

友人の皆様、配信されたらうちはDisney+観れますのでよろしければご一緒しましょう。

かなり長文になって年末年始の日記はすっとばしてしまったけれど、これはこれでよしとしよう。

気になっていた方、すでにご覧になった方、
良かったら感想教えてねー。

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