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「第4回新鋭俳句賞」受賞作を読んで

10月も終わりの先日、「第4回新鋭俳句賞」が発表されました。
正賞ならびに準賞のお二方、おめでとうございます!
作品は下記URL内で公開されています。

l正賞は渡部有紀子さん「蟻眠る」

いや~…これは読むほどに沁み入る30句!
いろいろな俳句賞がありますが、
受賞作を読んで感動したのは久しぶりでした。

表題句
蟻塚の奥千萬の蟻眠る

静かな詠みぶりの中に思いがけない深淵。
その深さと静けさは作品全体にわたり貫かれている。

他の感銘句
飛び込みし鳥の重さや花万朶
一粒の雨より興る草いきれ
子のありて夫婦の孤独ちちろ鳴く
縄跳や肩幅に空立ちあがる
てのひらの窪みの蒼さ冬ざるる
返信をしない愛あり薪を割る

素晴らしい作品群に共通してあるのが「独特の空気(あるいは香気)」。
それを作品全体がまとうことで
個々の俳句作品はシームレスな世界の成立へ寄与し、
次元の違う作品(表現)空間が成立。
自然と読者はその裡に誘われる。

そして本作で特に私が感動し、また共感したのが
「自分の周囲や生活を自分の言葉(そして他者も共感できる表現)で
描写する姿勢」でした。

『蟻眠る』は、基本的に生活や日常にまつわることどもを
テーマに描いた30句です。
ともすれば平凡なスケッチや報告に終わりそうな題材を、
地に足のついた言葉の力と観察力により、見事に詩として昇華しています。
その結果、特別に難しい言葉やトリッキーな表現を用いずとも
作家の心象が自ずから30句全体に浮かびあがり
読者のうちに余韻を残すことに成功しているのです。

技術的には一見オーソドックスなつくりに見えて、
細部まで配慮のある言葉遣い。
相当の実力に加えて
「これが私の表現姿勢」という本人の決意が底になければ、
このレベルの作品群を編むことはできない。

全体に澄み渡った透明感、同時に潜む作家自身の抱える暗部。
その陰影がさらに作品に深みを与えている。

「自分もまた新たに作品を作りたい」
そんな思いが自然と生まれてくる受賞作でした。

準賞は、菅 敦さんの「待つたなし」

海外での体験をベースとした
テーマ詠という印象を個人的に抱きましたが、
見て・感じて・体験したことを
自分の言葉で誠実に描写しようと
取り組んだ30句だと思いました。
作家としての意欲と気概を好もしく感じました。

感銘句
硬水のボトル落葉へ倒れたり
パズルめく壁の落書き神無月
霜夜はや円形広場から塔へ
刺青とピアス焚火の脇を過ぐ

素敵な二作、どうもありがとうございました。
お二方の今後のますますのご活躍をお祈りいたします。


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