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共に日々を:遠藤由樹子句集『寝息と梟』

表題句
 血を分けし者の寝息と梟と

まさに本句集の特徴を端的に表した作品と思う。
柔らかく、しなやかに
人間を、動物を、自然を、生活を
見つめる作者のまなざし。
芯が強く、透明感あふれる言葉たち。
句会でお目にかかる
由樹子さんご本人のイメージそのままの作品が
どのページにも静かに深く息づいている。

 共食ひもあらむ昂る虫の声
 ゆく秋のオルガン人が人信じ
 月面のかたさ思へり桜の夜
 初雪を鳥の気持ちで歩みけり
 熊と熊抱き合へばよく眠れさう
 一生にも大昔あり冬たんぽぽ
 娘より貰ふ名刺や鳥雲に
 折目から傷みし手紙天高し

生きる日々は、今や過去の時間の中で
紡がれ消えていく。
自分には止めようもない法則。
その中で「消えるからこそかけがえのない」
小さな綺麗な記憶が句集の遠近に光っている。
そして、その光に目をこらしていると、
未来が見えてくるような気がして、
ふっと心が穏やかになってくる。

「鳥は鳥に
 人間は人間に
 星は星
 風は風に」

大島弓子の『綿の国星』第一話のモノローグが
ページを繰っていると自然に浮かんできた。

すべての生き物と共に生きる私は
「個」の私でもある。それぞれの時間、それぞれの命。
だからこそ、しばし共に繋がっていたい。
そう願いたくなる。

そんな一冊。

  春を待つとは星仰ぐ家路かな


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