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心の背骨を伸ばして:川嶋一美句集『円卓』

ご恵贈いただいてから、ずっと読んでいる。
信頼できる表現者・作家と出会えて嬉しい。
ページをひらくたびにそんな充実感に包まれる。

 凧いつも遠景いつもひとり

川嶋氏を存じ上げないので勝手なイメージで申し訳ないのだが、
上記の句のような横顔をお持ちの作家なのではないか。
一人。でも、しなやかに心の背骨を伸ばして生きている。
背骨をまっすぐ立たすためには、柔らかい感受性という
筋肉を内に秘めている。そんな作家。

その印象は、表題句からも覚える。
 円卓の対面とほし青葉雨

一緒にいても距離がある。
その距離があってこそ互いが「一個の人間」として
立つための信頼関係が生まれる。
青葉雨の滴りが清らかな力を世界へ放つ。

一人、すなわち個人のまなざし。
思えばそれが無くて、どんな表現が創作が行えるというのか。
そこにこそ出発点があるのではないか。

句集全体を貫く清澄で端正な句姿。
確かな技術力が描き出す世界と抒情性。
その中に思わぬユーモラスな作品が
時々現れる。読者には嬉しい驚き。
一句としてもかなり好きなのがたとえば

 リリーフランキー秋風が主成分

抽斗が豊富、世界の捉え方(許容範囲)にリミットがない。
いろいろなことを面白がれる人。
静かで平易な言葉、でもこれは紛れもないリリーさんの画だ。

 永き日のオセロの白と黒と風
 風のある絵と絵のやうなアネモネと
 葉桜や本屋一軒あれば町
 呼べば猫青鬼灯に起きあがる
 頂上を踏んできし靴星月夜
 窓側の人より秋を告げられし
 暖房車一章ごとに人が死に
 鯛焼のおろそかならぬ鱗かな
 ビー玉のどの色に咲く風信子
 人肌は人恋ふことば桜漬
 塩振れば雨の音する春キャベツ
 しまうまに適当な縞あたたかし
 パンは焼きたて青桐は洗ひ立て
 走馬燈こどものかほをさびしくす
 現し身の秋七草の中にゐる
 石榴の実かがやきながら傷増やす
 田をゆくは冬の真中を行くごとし

本句集の中で特に印象的であり、
涙が出そうになった句が下記。

 寒雀夫の永い留守の窓

日常の些細なことを不思議として捉えられる作家。
作家は一人で歩きながら、誰かと笑い合う喜びも知っている。
そのパートナーは現在「永い留守」。
窓から見える世界をたまさか訪れた寒雀と分かち合いながら、
そのまなざしは夫のいる場所を見つめているように。

私は好きな句集と出会うと、いつも作家に会いたくなる。
コロナが何とかなったら、川嶋氏にお目にかかりたい。
(一方的ですみません)
共感に満ちた本句集は日常生活や俳句にメゲたとき
静かに、でも強く私の背中を押してくれる。

こんな作家に、私もいつかなりたい。

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