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十数年後に日本をバイオテクノロジーで盛り上げることを目指して、米国のPhD課程に進学します

はじめに

山口尚人と申します。今年3月に東京大学の理学部生物情報科学科を卒業し、9月から第一志望のWashington University in St. Louis(ワシントン大学セントルイス校)のMolecular Genetics & Genomics (MGG) Ph.D. Programに進学予定です。
学部では、生物情報科学(bioinformatics, computational biology)を学びました。関連興味分野は細胞分子生物学・幹細胞生物学・数理生物学・合成生物学・数理統計学です。
この記事では、自分のバイオテクノロジーに対する興味と自分が米国博士課程に進もうと考えた理由を記載しています。

自分は将来、基礎研究(アカデミア)もしくは科学技術の社会実装(ビジネス)の立場から、バイオテクノロジーで日本を(経済的にも)盛り上げていきたいと考えています。その目標達成のためにアメリカのPhDプログラムに進学することにしました。

まだ学部4年生で経験が浅いですが、現状の目標を明確に掲げることで周りを巻き込み、あわよくば同じような志を持つ仲間にも出会えればと思っています。

この記事の目的

・バイオテクノロジーの可能性を感じる理由(周りを巻き込めると嬉しい)
・米国大学院に進学する理由(他の人の参考になると嬉しい)
・同じような志を持つ仲間を見つける(知識の共有ができると嬉しい)

バイオテクノロジーの可能性

私は、大学に入り初めて生命科学分野に触れ、その学問分野としての魅力に惹かれ、知的好奇心が満たされる面白さを実感しました。また、その研究成果がテクノロジーの形で、世の中の至る所で我々の生活を支えていることに感嘆しました。
これまでにも、医療、創薬、農業、エネルギーなど様々な分野を支えてきたバイオテクノロジーですが、近年、iPS細胞の樹立やゲノム編集技術の確立などの進展著しい生命科学研究により、バイオテクノロジーの進化はとどまるところを知りません。バイオテクノロジーを生かした治療や食糧生産により、今までは夢想だにしなかったことが現実的になっています。その例として、培養肉をはじめとした細胞農業という細胞を利用した食糧生産分野や、ゲノム編集や細胞のリプログラミングにより疾患を治療する遺伝子治療、細胞治療などがあげられます(他にも様々ありますが自分の興味分野を挙げました)。

私は、バイオテクノロジー技術の中でも、培養肉・細胞農業分野に魅力を感じ、同分野に関わってきました。培養肉・細胞農業について初めて聞いたという方は、私が以前、東大新聞オンラインに寄稿した連載記事や、Shojinmeatの情報発信をご覧下さい。
培養肉は、体外で動物の細胞を培養し生産した食肉のことです。人口増加と経済発展に伴い急増するタンパク質需要に対応するための新たな代替タンパク質供給源として注目されています。培養肉の生産には、細胞工学・組織工学・再生医療・培養工学などなど様々な科学分野の知見が必要です。その社会的インパクトの大きさと、科学技術自体の面白さから私は培養肉・細胞農業分野に惹かれました。


私の座右の書でもある「サピエンス全史」「ホモデウス」でも述べられているように、バイオテクノロジーと情報科学技術の発展は、人間の新たな思想を形成するにまで至っており、これらの分野を理解し、関わることの面白さを日々実感しています。また、自分も生命科学の基礎研究を進め人類の知の蓄積に貢献すると同時に、バイオテクノロジーを生かして社会に貢献したいという想いを持っています。その関わり方として、知的好奇心が満たされ・人類の知の蓄積に貢献できる基礎研究的活動と、基礎研究の実装で社会に貢献できる応用研究・社会実装的活動の両方に魅力を感じています。

知的好奇心を満たし、人類の知の蓄積に貢献したい、そして基礎研究を社会の役に立てたいという目的を達成するための手段は様々ありそうです。アカデミアで研究をすることも、ビジネスとして研究開発や経営・投資をすることは、どちらもとても魅力的に思えます。どのような立場でこれらに取り組むかは、その時の社会的状況・個人の価値観・ライフステージ次第ではあると思いますが、多様な選択肢を持っておくのは悪くないと思います。

多様な選択肢という観点で言うと、米国大学院への進学は自分にとって魅力的に映りました。研究者としてのキャリアを追求する場合であっても、ビジネス分野で、バイオテクノロジーの社会実装を目指す場合であっても、米国大学院への進学は良い選択肢に思えました。以下では、その具体的な理由を簡単に述べたいと思います。

(進学理由1)研究者としてのキャリア

研究者としてのキャリアを目指すにあたって、米国大学院に進学する利点は以下が挙げられると思います。

・研究環境
 ・研究室の選択肢が格段に広がる
 ・自分の志す分野のリーダーは現状米国に多そう(もちろん日本にもいるし分野による)
 ・海外の研究者コミュニティの一員になれる(研究者の繋がりを作ることは重要)
・英語でのトレーニング
 ・なんだかんだで、日本は言語的障壁で損している部分が多いと思うからこそ、そのハンディキャップは乗り越えたい
 ・論文は基本英語。世界共通語に精通することは重要。またそのための環境に身をおけると良い。
 ・卒業後のポストの選択肢の広さ
・(在学中の)金銭面
 ・米国の博士課程では博士学生にStipendという形で年間約300~400万円の給与が支払われる。
 ・日本にも大学院学生への給与支払い制度(卓越大学院など)もいくつかあり、また制度改善も見られている。

研究者としてのキャリアを目指す場合、アカデミアでのポストを見つける必要がありますが、アカデミアでのポストを見つけることはとても難しいと言われています。その激しい競争に勝つには、博士課程やポスドクで十分な実績を上げることが求められます。その意味では、博士課程の学生として実績を上げられそうな環境に身を置くのは重要かもしれません。その環境が、日本なのか海外なのかは人によりそうです。

アカデミアのポストの選択肢という意味では、英語でのトレーニングを積んでいると、選択肢は増えそうです。米国以外にも英国やシンガポールなどの英語圏、場合によっては中国などの研究機関でのポストを探すという選択肢も出てくると思います。

海外で研究者になる事例を集めた、増田先生の書籍「海外で研究者になる 就活と仕事事情 (中公新書)」は参考になるかもしれません(自分の学科の先生が勧めて下さったので読みました)。


(進学理由2)バイオテクノロジーの社会実装のための基礎研究の重要性

なぜ博士課程進学を目指したのかに対しての答えです(これには日米の違いはありません)。
バイオテクノロジーの社会実装を目指す場合であっても、その元となる基礎研究がある程度確立されている必要があります。培養肉分野での活動に携わった際にも、基礎研究の重要性を実感しました。将来、バイオテクノロジーの社会実装を目指したビジネスを自ら興す場合であっても、生命科学研究に深く精通しているべきだと考えています。学部卒でバイオテクノロジー企業を率いれる気は全くしませんし、自らの科学研究能力を養い、社会に対する知識と経験を深める時間を取るためにも、博士課程に進学するのは良い選択肢だと考えました。

米国ユニコーン企業のCXOの学位や過去の職務経験などに着目した興味深い調査があります。

2005年以降に創業され、今日までに一度は評価額が10億ドルを超えた米国のスタートアップ195社すべてのデータを手動で収集し、65の要因を定量化したデータがこの記事で紹介されています。ここでは、ヘルスケア・製薬系のCEOにはPhD, MD, 教授が多いことが示されています(これからバイオテックスタートアップがさらに増え、更なるデータとノウハウが蓄積されることを期待しています)。

私自身の経験でもこのデータが示す事例に出会ったことがありました。培養肉関連イベントで、MIT Media Labへポスター発表に行き、バイオ系スタートアップのCXO達の集まりに運良く呼んでもらったことがありました。そこで会ったCEOやCTOのほとんどは、関連分野でPhDを取得し、自らの専門性を生かし、バイオテクノロジーの社会実装を目指していました。

そもそもテクノロジーの元となる基礎的な研究が必要なのはもちろんですし、博士課程を通じて科学的素養を身につけ、バイオテクノロジーの実装に重要な基礎研究に十分精通することは、ビジネスの成功にも効いてくるのではないかと思います(もちろん社会の仕組みや需要を理解している必要もあります)。

(進学理由3)米国バイオテックの盛り上がりに身を投じる

アメリカのバイオテクノロジースタートアップの盛り上がりは目を見張るものがあります。特に、ボストン、カリフォルニア、ニューヨークを中心としたコミュニティは成熟しており、多くのスタートアップが生まれています。私が進学予定の大学院があるセントルイスもライフサイエンススタートアップの新たな集積地として注目を集めています。(日本でも経済産業省を中心に国をあげてバイオコミュニティの醸成に取り組んでいるようです)

バイオテクノロジーの社会実装を志すものとして、バイオテクノロジー企業がどのようにして生まれ、成長するのかを目の当たりにし、またそのプレイヤー達と直接関われる環境に身を投じたいと思いました。

また、ソフトウェア企業ではエンジニアリング力が重要ですが、バイオテクノロジー企業におけるエンジニアリング力は、研究開発力です。博士課程のトレーニングにおいてその能力を身につけるのは勿論、企業の研究開発において、どのような力が必要かを理解するためにも、長期休暇等を利用してバイオテック系の企業でインターンもしてみたいと考えています。そのような機会が得られるのも(ビザ的な面でも)、米国で学生をやる利点だと思います。

もちろん日本にいながらにしてこれらの情報を集めることも可能です。
バイオテクノロジー・バイオテックスタートアップ関連のお勧め記事やPodcast(の一部)は以下の通りです。東京大学でスタートアップ支援をおこなうFoundXや馬田隆明さんの情報発信はとてもお勧めです。


(進学理由4)就職先の選択肢の多さ

企業の研究者として就職する場合であっても、英語を仕事で使えると選択肢が増えると思います。ソフトウェア企業の場合はもちろん、製薬系などバイオテクノロジー企業の選択肢も、英語圏を視野に入れると格段に増えるでしょう。米国で修士や博士をとると、OPT(Optional Practical Training)の制度で、米国での就労ビザを得やすくなります。

選択肢が広いということは、より待遇の良い職につける可能性も大きくなります。自分の知っている範囲では、現状、PhD取得後の待遇(製薬企業での給与など)は、日本より米国の方が良さそうです。この日本の状況が数年後には、良くなっていることを期待していますし、そのためにもバイオテクノロジー分野を盛り上げ、生命科学系のPhD取得学生の専門性やスキルを生かした事業を、収益化に上手く繋げ、良い循環を作ることを目指しています(現状でもそのための分析と取り組みが様々あることも認識しています)。


以上のような理由から、研究者としてのキャリアを追求する場合であっても、ビジネス分野でバイオテクノロジーの社会実装を目指す場合であっても、米国大学院への進学は良い選択肢だと考えました。

一方で、配偶者問題や、学部から博士課程へ進学する場合の準備期間の短さから生じる研究テーマの選択の未熟さなど、デメリットもあるとは思うので、様々な事を吟味して決断できると良いと思います。

私は、これから進む博士課程で研究に全力を尽くし、一人前の研究者になるためのトレーニングを積みつつ、バイオテクノロジーや社会の動向に常にアンテナを張り、自分の目的・目標を達成できるように頑張りたいと思います。

最後に

知的好奇心が満たされ・人類の知の蓄積に貢献できる基礎研究的活動と、基礎研究の実装で社会に貢献できる応用研究・社会実装的活動の両方に魅力を感じている一方で、これらの活動に従事するには、自分が知るべきこと、取り組むべきことはまだまだ沢山あることも実感しています。

十数年後に日本をバイオテクノロジーで盛り上げるために、同じような志を持ち、知識・取り組みを共有できる仲間を探しています!(研究や企業・スタートアップ、VCなどでそのような取り組みを今まさにおこなっている人とも繋がりたいです!)
直近では、自らの研究分野はもちろん、コーポレートファイナンスをはじめとした、企業経営、金融・経済のそもそもの仕組みや、バイオテックスタートアップで特に重要とされる特許などにも知見を深めたいと考えています。

バイオテクノロジーの社会実装に興味があり、生命科学分野はわかるけど、社会科学分野はわからないので勉強したい!という方や、金融・経営・経済・法律・特許等の知識があるけど、今後重要性が増すであろうバイオテクノロジーについてもっと理解したい!という方は是非ご連絡ください!
お互いの知識・取り組みを共有して、日本のバイオテックを盛り上げている or これから盛り上げる仲間を見つけられたらと思います。
Twitter: @nafoto_z

(Thumbnail Image Designed by katemangostar / Freepik)

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