米国大学院出願① 研究実績のない学部生がインターンを通じてアメリカPhD合格を勝ち取った話
※あくまで一例であり、アメリカの生物(情報)系のPh.D.プログラム出願を通した私の経験をベースにした考えであることを認識した上で、これ以外にも様々情報収集して、自分で考えて決断することをお勧めします。
Ph.D.プログラム出願への戦略は十人十色だと思いますが、無難な内容に留まらず、私がやって上手くいった方法をあえて強調して書きます。
はじめに
山口尚人と申します。今年3月に東京大学の理学部生物情報科学科を卒業し、9月から第一志望のWashington University in St. Louis(ワシントン大学セントルイス校)のMolecular Genetics & Genomics (MGG) Ph.D. Programに進学予定です。
学部では、生物情報科学(bioinformatics, computational biology)を学びました。関連興味分野は細胞分子生物学・幹細胞生物学・数理生物学・合成生物学・数理統計学です。
この記事では、出願時点で論文実績のなかった学部生の私が、研究インターンを通じて、アメリカのPh.D.プログラムに合格した経験談と、それに基づくアドバイスを述べています。
米国PhDプログラムへの進学を志した理由については別記事をご覧下さい。
対象
・米国博士課程への出願を検討している方
・海外博士課程そのものについて知りたい方は、優れた他サイトを参照
・XPLANE | XPLANE役立ちリンク
・米国大学院学生会 | ニュースレターブログ バックナンバー
・そもそも博士課程に進学するか考えている方には、以下を推奨。
・上記サイトの経験談を読む(日米比較など)
・直接体験談を聞く(博士号取得者・非/未取得者。ポジショントークであることは認識すべき)
・博士号のとり方を読む
目的
・自分の米国大学院出願経験が、他人の参考になると嬉しい
・出願でお世話になったリソースを紹介したい(最後に沢山記載)
・海外大学院進学という選択肢を持つ手助けができると良い
・研究室の選択肢が格段に広がる→学位留学に理由が必要か
・個人的には学位留学する人が増えると嬉しい
要約
・Ph.D.プログラムの合格は難しい。論文実績・研究経験・繋がりが重要。
・志望研究室でのインターンが合格に最も効果的だった。
・志望研究室に直接アプローチしよう。
Ph.D.プログラム合格は難しい
Ph.D.プログラム合格が難しいと考える理由は、以下の3つです(分野や時代によって異なる可能性があることに注意)。
(理由1)競争率が高い
世界中の沢山の応募に対して、合格の枠はわずかです。特に、International(米国外)からの応募者に対する枠は更に限られており、狭き門です。
例1)合格したWashU in St. Louisの生物医学系のPh.D.プログラム全体では、約95の枠に対して1200以上の応募 (~8%)
例2)合格したUCSDのBISBプログラムは500程度の応募に対して約33名の合格(~7%)。その内Internationalの枠は15名。
例3)不合格だったUniversity of Washington, Genome Sciencesからのメール曰く、acceptane rateは10~12%
例4) MIT Computational & Systems Biologyからのメール曰く、10程度の入学に対し340以上の応募(~3%)
(理由2)豊富な研究実績・経験・繋がりが求められる
トップスクールのプログラムに合格している人は出願時点で論文出版実績や豊富な研究経験を持っている人が多い印象です。これは、私が先輩に聞いた情報や、各大学院の現役学生のLinkedinを漁って得た情報、GradCafeに記載されている合否情報からの推測です。特にCS(コンピューターサイエンス)の分野だとその傾向が強いと言われますし、生物情報科学の分野でも年々難しくなっている気がします。
(既にそんなに実績あったらPhD課程に進む必要あるのか?実績や経験が乏しくトレーニングを受けるべき人が他にいるのでは?とも思いますが...)
また、出願先とのつながりも重要です。私や友人の今年の出願結果は、主に繋がりがある先生(自分のことを知ってくれている先生)のいる大学院のプログラムに合格している傾向がありました。
この傾向は、審査プロセスにおいて重視されるポイントにも表れており、以下の一連のツイートでは推薦状が特に重視されることが述べられています。
アメリカのアドミッションプロセスについて述べた有名な資料、Demystifying the American Graduate Admissions Process (DAGAP) - PDFでも、怪しい人は取らない「リスク最小化の方針」について言及されています。こちらのブログでも、「米国Ph.D.は雇用にほぼ近いので、教授達はレジュメで優秀な遠くの人より、知っている真面目に働く近くの人を採用しやすい傾向がある」と述べられています。審査員が知っている人が書いている推薦状の方が信頼度が高いのかもしれません(誰が書いているのかと同じくらい、その内容も重要ですが)。
論文実績を得ることそれ自体が難しいのは勿論、学部生の出願となれば十分な研究経験を得ることも難しく、またInternationalの学生は繋がりを作りづらいというハンディキャップがあります。
(理由3)情報が少なく、出願ハードルが高い
・周りに受けている人が少ない
今年東大学部から米国PhDへの出願例を私以外には3件しか知りません...
・出願先のプログラムや研究室についての情報が少ない
・受かる見込みが低く、沢山出願するので費用負担も大きい
私の場合、計約19万円(約1万/校 × 10校 + TOEFL4万 + TOEFL Score郵送 2万 + WES 3万)かかりました。
以下のTweet でも、acceptance rate(合格率)やInternationalの比率を公開することで、応募者の時間やリソースの無駄遣いを避けるようにするべきだという主張があります。
以上のような理由から、アメリカ博士課程プログラム合格は結構ハードだと思います。
特に学部生の出願では、研究実績・経験を豊富に持つことは難しいです。またInternationalの学生は、志望先と繋がりを作ったり、情報を得ることが難しいです。競争率が高く、出願にかかる時間や金銭的リソースも大きい中、希望する大学院への合格の確率を高めたい。そんな応募者としては、どのようにすれば良いでしょうか?
私の経験からの回答は、志望先でのインターンをすることです。これにより、研究経験を積み、繋がりをつくり、現地の情報を得ることができます。
志望先でのインターンが決め手
私は合格の確率を高める上で、志望研究室で研究インターンをおこなったことが最も効果的でした。インターンにより、Ph.D.プログラム合格に重要とされる、研究経験・繋がり・情報を得ることができたためです。
具体的には、
1. 研究経験を積めた
殆どの大学院は出願時に研究経験の長さと内容を聞いてきます。長い方が好ましく、また日本人の場合英語圏での研究経験があると良いと思います。
2. 志望先の先生に推薦状を書いてもらえた
その大学院の出願には非常に有利になりましたし、分野で有名な先生だと、他大学院の出願にも効果的な可能性が高いです。
3. 詳しい内部事情・相性がわかった
志望先の研究室の雰囲気や研究環境を知り、自分と研究室のフィットをお互いに知れます。また、志望先のプログラムや奨学金についての情報も集め、納得して決断することができました。
(+α) 英語でのコミュニケーション・面接の良い訓練になりました(全ラボメンバーとonlineで会話やSlackでの会話を通して)
また、国内奨学金の出願においてもポジティブな要素であったと思います。国内奨学金の書類選考通過者や合格者と話した範囲では、受け入れ希望先と既にコンタクトやインターンをしている人が多かったです。
このように、インターンで研究経験・繋がり・情報を得ることができ、志望プログラムの合格にとても効果的でした。
今振り返ると、インターンとして受け入れてもらうことが一番のハードルでした。志望した先生は、滅多にインターンを取らないらしい(本人談・博士学生談)ので、幸運だったと言えるでしょう。
興味のある研究室にコンタクトしよう
以上の経験から、目の前の研究に着実に取り組む、成績やテストスコアを最低限とるという前提の元で、
・自分が海外博士課程進学を目指す理由・目的を再認識し
・自分の興味のあるテーマ・先生を見つけ、
・コンタクトを取り、インターンの約束を取り付ける
ことを強くお勧めします。
私の経験談以外にも、志望研究室とのコンタクトがあったことで、合格した先輩の例に枚挙にいとまがありません。
私は出願した年の春頃(2020年3~5月頃)に志望研究室の調査とコンタクトをしました。2021年度に出願する方は特に、今から研究室調査やコンタクトの準備をすることをお勧めします。
興味のある研究室を見つけ、インターンとして受け入れてもらう上で私がやって良かったことは、以下にまとめています。
インターンのデメリット
勿論インターンをおこなうことのデメリットもあります。
1. 最終学年(学部4年・修士2年等)では院試や研究との両立がハード
自分はCOVID-19の影響でオンラインでしたが、オフラインの場合、日本を一定期間離れることになります。院試の時期や卒業研究の時期と被ると結構大変です。複数の研究と出願を並行しておこなうことになるため、日本での進学先の確保など、バックアッププランとの両立が難しくなる可能性があります。バックアッププランはメンタル的にも重要です。
2. 他の研究室を選びづらくなる(?)
繋がりが強くなればなるほど、その研究室・大学院には入り易くなる一方、ローテーションや大学院選びにおいて、他の研究室や他の大学院には行きづらくなるかもしれません(お世話になった分、断りづらくなるという点で)。そこは、適切な距離感を保つ意識が必要かもしれません。
ただ、大学院が学生を選んでいるのと同じように、学生も大学院・研究室を選ぶ権利があります。興味が変わるかもしれないし、インターンをしてフィットしなかったと感じることもあります。そこは遠慮することはないと意識しておくと良いと思います。
孤独と不安で辛くなったら
海外大学院の修士・博士課程への出願はとても大変だと思います。その過程で、孤独と不安を感じることもあると思います。そんな時は、
・コミュニティを見つけ、仲間を見つける。XPLANE
・友達と話す。話す。話す。
・先輩と話す。だいぶ励まされた。私でよければ(Twitter: @nafoto_z)
・出願まで辿り着いただけで立派であることを認識する。自信を持って良い。(と先輩に言われだいぶ勇気づけられた)
アメリカ一流大学のPhDプログラム、日本から受けても奨学金無しではまず受からず、自分の観測範囲では約9割がもっともらしい理由と共に受験を諦め、残りの1割が出願して全落ちする印象なので、最近では実際に出願するところまでいってくれれば「とても骨のあるやつだ」と見るようになっている。
> Mr. ベイエリア@カミングフレーバー (@csstudyabroad) August 31, 2017
> (このツイートは現在は見られなくなっています)
「留学したい」という人は多いけれど、実際に出願する人は少ないです。
仮に不合格でも、出願プロセスで様々な力が身に付きます(英語力・研究を簡潔に伝える文章力・コミュニケーション力・メンタル・研究分野の概観や潮流の理解)。出願まで辿り着いただけでも立派であると自信を持って良いと思います。
Take home message
メタなメッセージとしては、「達成したいことがあるなら、情報を集めて、積極的に行動し、意欲を伝えて、助けを求めましょう」です。
Ph.D.プログラム出願の文脈で具体的に書くと、
「行きたい研究室を見つけ、積極的にコンタクトをとりアプローチしましょう」
「既に経験がある先輩にアドバイスをもらいましょう」
私は今年の出願経験から、Ph.D.プログラム合格においては、研究実績・経験・ 繋がりが重要だと感じました。学部生の私の場合、論文実績は難しかったですが、志望研究室でのインターンは、研究経験・繋がり・情報を得られたという点で合格に最も効果的でした。その機会を得るための方法は、研究インターンの機会を得るには、に記載しましたが、それ以前の研究経験があったのが良かったことも考えると、Ph.D.出願のために早め早めの準備をすることが肝心かもしれません。とはいえ、ギリギリの準備でもコンタクトを生かし合格した先輩の例もあるので、諦めることはないと思います。
※選考基準等については、諸説あるので注意が必要です。また出願には、成績、テストスコア、などベースを持っている必要があることも念頭におきましょう。
最後に & リソース集
note内の関連記事に他にも色々書いているので、さらに興味のある方はそちらもご覧いただくと良いと思います。
まずは情報収集が重要です。とにかく情報を集めましょう。
米国大学院出願⑤ お世話になったブログ・リソース集に記載したリソースは非常に助けになりました。そういった情報を提供をして下さる方々にとても感謝しています。
Web上のリソースに加えて、先輩を見つけて聞く、直接ラボに連絡など、人に直接聞くことも効果的でしょう。
海外大学院進学を目指す方のお手伝いを是非したいと思っています。私自身も先輩方や先生方にもとてもお世話になりました。質問・コメント等、私でよければ遠慮なく連絡して下さい。
Twitter: @nafoto_z
(Thumbnail Image by WashU Office of Public Affairs)