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2020年の掲載歌まとめ(と、ちょっと振り返り)

2020年に雑誌・新聞等に掲載された短歌をまとめました。媒体別、選者ごとに分けています。
最後に少し、2020年を振り返ってみました。

NHK短歌

【大辻隆弘選】
夕立をプールの底から見るようにあなたの言葉は遠く感じる

君はどこへ行きたいんだろうふたり乗り自転車が長いカーブに入る

【江戸雪選】
祝日は風の匂いの誘うまま一人と一匹長い散歩に

【佐伯裕子選】
ロッカーの鍵だけ手首に巻きつけて私は私を証明できない

【松村正直選】
ひたひたのミルクの波が夢にまで出てくるフレンチトースト前夜

いつもとは違う春でも虎豆をいつものように煮ようと思う

また一人同期が昇進する春のランチに小鉢の卯の花を足す

竜胆の柄の手拭い揺れていてまだ空き家ではないことを知る

桃色のへびとふうせん泳がせて子の描く空が床へあふれる

性別もまだ分からない子のために天馬の柄のベビー布団を

雨に濡れあたらしくなる羊歯の葉の緑のような再会がある

【小島なお選】
手花火で小石を白く焼いている夏の終わりは私が決める

六月のクラスだよりのかたつむり何かさびしく睫毛を足しぬ

踊り場の鏡に君のスカートの最後のひだがいなくなるまで

みな同じリュックの子らは吸われゆく七階建ての塾の光へ

子らぱっと来てぱっと去りどんぐりの帽子ばかりが余る公園

【寺井龍哉選】
この夏でいちばんの虹 先輩がサドルの破れた自転車で追う

黒出目金いっぴき連れて連れられて知らない橋を渡ってきたの

プレゼントですかと訊けばええ、まあ、とそよ風のごと照れるひとあり

【栗木京子選】
人参を花型で抜き花でない方の集まるわたくしの椀

幸せな愚痴をこぼしている友にサイフォンの音が相槌を打つ

間隔をあけて並べばレジまでにポテチとチョコが仲間入りする

冷蔵庫お尻で閉める勢いに姉の怒りが満ち満ちている

風邪の子を病児保育に預けんと小さく小さく握るおにぎり

授乳とは力を吸わるることなれば夜の厨に塩むすび食む

短歌ください

【穂村弘選】
髪ゴムの色が自由になったってわたしはけっきょく紺の階級

ベランダにしゃがんで見てるミニトマトその日暮らしの音階がある

スイミングの水着を下に着たままで宿題してるこそばい時間

ミミさんはウサギなれども「さん」付けで呼ばねばならぬ先輩ゆえに

腹筋の台詞も字幕がついている明かりがわりの真夜の通販

野性歌壇

【山田航選】
西暦9999年99月99日

夕焼けを夕焼けらしく加工して誰のせいでもない負け試合

自販機でカロリーメイトを買えばその音の軽さに、何やってんだろ

スニーカーで行きたいとこへ行く、チャットモンチーずっと鳴ってるんだよ

八月の終わりのコインランドリー知らない人とおみこしを見た

【加藤千恵選】
真夜中の証明写真ボックスは魂浄化装置みたいだ

遠花火いきものがかりのボーカルにちょっと似てる子なんてやめなよ

東京歌壇

【佐佐木幸綱選】
手作りのマスクを着けたペコちゃんにマスクの人がカメラを向ける

桃を買ひ桃の分だけやはらかくなつたわたしをくるんで歩む

手のひらにハンドソープの泡を受け「ちいさいアイス」と子らは笑えり

駅ビルを汗のひくまで漂えり誰ともひれの触れないように

「かんぱい」を覚えし吾子といくたびも麦茶のコップで乾杯をせり

長く住むこの街なれど秋のたび金木犀の地図はあたらし

夕暮れの商店街に立ち止まる理由がほしくて眼鏡を洗う

ランドセルの縫い目をなぞる指先は小さな嘘をもう悔いている

【東直子選】
長い長い昼寝のあとにやってくる鯨のような頭痛を愛す

携帯がきみの寝顔を照らし出す 沈んだ森にいるみたいだね

川だった記憶のままに蛇行するこの坂道を立ち漕ぎでゆく

寄り添えばゆっくり言葉をうしなってふたりは冬の日時計でした

読売歌壇

【栗木京子選】
外したるマスクは舟のかたちして舟底に秋の口紅残る

ひとこと

数えてみたら50首、で合っているでしょうか。
今年を振り返ってみると、「コンスタントに短歌を詠み、投稿する」ことに取り組みはじめた年だったように思います。
今まで、雑誌等の締切がある題詠は、そのときの気持ちの余裕や題に左右されて出したり出さなかったりしていたのですが、春頃に出せないことが続いて、このままだとどんどん短歌が詠めなくなるのでは、と感じました。
それで、Twitterでお声かけしたフォロワーさんたちと「締切まで励まし合う会(仮称)」として、お互いにリマインドしたり進捗報告したりするようになりました。会のメンバーさんの力を借りつつ、今のところ締切をスルーすることなく、どんなお題でも一首だけでも出そう、と思ってやっています。
もちろん、投稿に対するスタンスは人それぞれです。私は基本的にお題と締切がないとお尻が重くなる人間なので、投稿をきっかけにさせてもらっているという感じです。
また、うたの日をお休みしたのと前後して、新聞歌壇に定期的に投稿をはじめました。過去のストックを推敲して出すこともありますが、生活の中でそのときに感じたことを書きとめるような歌を詠めたらいいなあと思っています。
それでは、今年Twitterやうたの日やいろんな企画でご一緒させていただいたみなさま、そしてどこかで私の歌を読んでくださったみなさま、どうもありがとうございました。
来年も、どうぞよろしくお願いいたします!