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2022年掲載歌まとめ(と、ちょっと振り返り)

2022年に雑誌・新聞・ラジオ等で掲載や紹介された短歌をまとめました。媒体別、選者ごとに分けています。

最後に少し、2022年を振り返ってみました。

NHK短歌

【田村元選】
カステラの色したバスは団地ゆき停車時間をやや長くとる

この卓が一週間の目的地まずポテサラの山を崩そう

十の指わきわきさせていつまでも喋っていたいぬるめの足湯

シチューかけごはんが恋しい病院のシチューにパンのついてきた夜

【佐佐木頼綱選】
電話には明るい声で出ることのもう染みついてアネモネの花

ごくたまに名前を呼べばおとうとは小枝を踏んだ顔で振り向く

泣き止まぬ赤子を抱いてほよほよとバランスボールで揺れていた夜

指揮棒のとる予備拍に息を吸う大編成は一本の錐

【大森静佳選】
とっておきの苺のようにあなたから預かっている寝言がひとつ

玉結びつらねるごとく進みゆく各駅停車あたまがぬくい

後ろ手に蝶々結びをするときに少女と老女のわれが重なる

【佐伯裕子選】
女子会にチーズフォンデュの鍋囲み小さなパンや愚痴をからめる

姿見の奥にも部屋がひとつあり夕焼けはその部屋まで染める

メヌエットほそく聞こえる紫陽花の向こうの窓はわずかに開いて

【栗木京子選】
液晶を指でひらけばひらくほど近づく推しの肌の質感

ケチャップで花を描いたらオムライスお花の味がすると子は言う

サイダーとお寿司が口の中にある誕生日ってそういう記憶

車窓から海を見ている缶ビールときおり顔の向きを変えつつ

【笹公人選】
お弁当のせるとちょっとおとなしい年少さんのひざこぞうたち

五月ってもう夏じゃんときみが言うデーゲームにはみかん氷を

自転車をしばらくななめにとめておく坂の途中にあるベーカリー

砲丸のようなるジャンボメンチカツ家族分買いのしのし帰る

そこはかとなく明朝体の味がする中華街裏メニューのカレー

自己紹介の途中で好きな寿司ネタをひとつずつ言う流れができる

ただきみを呼びたくて呼ぶときがあり言いたいだけのアーリオオーリオ

【江戸雪選】
片思い得意なんです引き出しは大事にしすぎた便箋ばかり

けれど好きと言えてよかった三月はまち針ほどの痛みを残し

冬やのにあほちゃうのって言いあった展望台のソフトクリーム

【佐佐木定綱選】
ロッカーを空にして去る三月の横顔を知る小さき鏡

換気扇の音にかすかな泣き声の混じる気がして肩先の冷え

朝顔や花火の頃を過ぎいまは蜻蛉の柄の浴衣が馴染む

最後までエンドロールを見届ける言葉はゆっくり降りてくるから

海へ来た理由はなくて秋空にスポーツカイトと鳶落ちてゆく

二度折ったデニムの裾に運ばれて夜に零れる砂の粒たち

短歌ください


【穂村弘選】
検尿のカップを置くと影が動く半透明の小窓の向こう

ポケットを叩いて鍵を探すときポケットじゃないところも叩く

明日ヘチマ当番になる子の家へ蛇口の鍵をぶら下げてゆく

太陽が足跡しゅんしゅん消してゆくプールサイドで馬鹿になりたい

お習字に飽きて並びを暗記する記念切手の柄の下敷き

東京歌壇


【佐佐木幸綱選】
見えずともたしかに海のあることのよすがに除夜の汽笛は届く

振袖に咲く芍薬の重たさに二十歳のきみはすこし傾く

雛道具つつむ薄紙ほどきゆく白手袋の小指を立てて

昼休み鳩を見ているひとになる胸の名札を外したわたし

帽子掛けの名札すべてを貼り替えてひよこ組にはひだまりひとつ

二十四時間七十円のレンタル傘ひと晩たたきに立たせて眠る

右向いてまた左向く夏風邪のあたまに氷枕やわらか

今日会えてうれしかったと言えばもううすむらさきのさみしさが来る

胸元に小さな鍵の刺繍あり鍵屋の店員さんのエプロン

真っ白ですこし硬めのバスタオルみたいな風を秋だと思う

せめて、という言葉は苦く弔電に鉄線の花の台紙を選ぶ

日が短くなりましたねと話しつつ課長と切手を数えて仕舞う

【東直子選】
「ミッキーマウスマーチをときどき歌います」貼り紙に春の迷い鳥あり

お忘れ物承り所はどこですか脱皮したての顔で尋ねる

火傷のように躑躅の花は終わりゆく声をあげないこと責められて

感情に時差のあること赤肉のメロンのわたに匙をしずめて

自転車のハンドルに蜘蛛の糸ひかる数えるたびに友達は減る

文芸選評


【野口あや子選】
コップにコイン落とすみたいだ会うときに取っておきたい話が増えて

【北山あさひ選】
母さんがパーマをあてていた夏の置き手紙全部ひらがなだった

【佐佐木頼綱選】
オフィスから地上の街を見下ろせばボレロのように傘ひらきゆく

【寺井龍哉選】
チェ・ゲバラのTシャツの赤褪せてゆく夏休みなのに毎日会う友

【穂村弘選】
居間になる場所に集まり大工さんたちがお茶する十時と三時

【永井祐選】
コーヒーは飲めないくらいの時間がある軽めの謝罪案件までに

【梶原さい子選】
ひとりずつ家族の去りしテーブルの岸辺にパンの屑を拾いぬ

【梅内美華子選】
信号の向こうの母へ跳ねなくていいから、と手で合図を送る

【小島なお選】
クビ、ハナと着順判定灯りたり馬のからだを物差しにして

短歌部カプカプのたんたか短歌


※放送紹介分のみ、既発表作除く

あなたにはきちんと使い分けている三種類ある傘の絵文字を

兵庫県神戸市北区君影町 その町に立つポストを想う

〈もうすぐ〉の圏内になる岐阜羽島過ぎたあたりでLINEを送る

体操着忘れたどうし木漏れ日を分けあっているすこし離れて

夕立のあとに目覚めるわれのためおなかにタオルケットをかける

腹話術人形が歯を見せるとき腹話術師の歯は隠される

全身を映す鏡のない部屋で暮らしていますどこか欠けつつ

桃の汁落ちへんからと脱がされて肌着でかじる年子だったな

手鏡を夜に伏せれば裏面に彫られた薔薇のまぶたがひらく

〈ふるさとの魅力再発見!〉というのぼりを五時にしまう人あり

ドロップス缶から出したドロップをドロップスへと戻すゆびさき

友の描くわたしのデッサン度の強いめがねに輪郭ゆがんだままに

きみの手のつくる茶つぼに合う指はわたしの小指このひと秋の

やり切れることの少なさ虹だった付箋の束を半端に残し

金星が輝くでしょう携帯の充電完了予想時刻に

万札を出すときすみませんと言う 返事があるとすこし驚く

月刊うたらば


※既発表作除く

Dearから始まる手紙を書くようにあなたに似合うニットを探す

電球を持って電球買いにゆく日々の輪郭うすくなぞるよ

2022年をちょっと振り返る

年に一度のnote更新もスペシャル感があっていいんじゃないでしょうか……?
さて、2022年の投稿を振り返ってみると、前年と同じ投稿先にほぼ同じペースで出すことができました。身体の筋トレは続いた試しがないわたしですが、短歌の筋トレはそれなりに続けられているようです。これもいちごつみや締切リマインドを一緒にやってくださる方々のおかげです。いつも本当にありがとうございます。
仕事は春から忙しくなったけれど、仕事のストレスを燃やすことで隙間時間にガッと歌をやるぞという気持ちになれるときもある(もちろんなれないときもある)んだなというのが発見でした。あと、某アイドルにハマって推し活にもだいぶ時間を割いていました。
ブランク明けから3年ほど結社や同人に所属しないまま投稿を続けてきて、Twitterでつながっている方や同じように投稿をしている方以外には、いろんな場に出している歌をまとめてのわたし個人としての蓄積はあまり意識されていないだろうし、それでもいいと思っていました。なので、歌壇1月号の特集で梅内美華子さんが言及してくださったことには本当に驚きました。梅内さんが選者をされている場に投稿したのはたぶん今年の文芸選評の一度だけで、まさか他の歌も読まれていたとは思ってもみなかったというのが正直な感想です。驚きとともに、こういう風に通して読んでくれている方がたしかにいるのだなと感じることができてありがたかったです。
あ、来年やりたいことがひとつあります!自分のネプリを出すのをやってみたいです。おしゃれなデザインにする技術がないので本当に字だけのものになりそうですが、作れたらいいなと思っています。
それでは、今年もTwitterなどでやり取りしてくださったり、作品を読んでくださった皆さま、どうもありがとうございました。日々いろんな方の歌に触れて、とても刺激を受けています。来年もよろしくお願いいたします!