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2021年掲載歌まとめ(と、ちょっと振り返り)

2021年に雑誌・新聞・ラジオ等で掲載や紹介された短歌をまとめました。媒体別、選者ごとに分けています。
最後に少し、2021年を振り返ってみました。

NHK短歌


【松村正直選】
雌鶏の土鈴はすわりよきかたち産むことのなき玉あたためて

姉ゆえに譲りしことの多かれど猿丸大夫の札は譲れず

六体の地蔵に六つのお猪口ありおのおのゆうべの雨を湛えて

玄関に寝そべる老いた犬の瞳は夏の盛りの庭を映せり

【小島なお選】
金曜は影まで重し両肩にお昼寝布団と子をぶら下げて

もう犬は飼わないと言う母なれど今年も犬のカレンダー選る

蛇口だけ立たされている八月の更地のようなこころの底に

銅像の眼鏡はレンズを持たぬゆえ瞼に雨粒そのまま届く

【寺井龍哉選】
冬だから肩は自分で抱いてやるたとえばブラを外したときに

ゆるキャラは体育座りしたまんま台車で扉の奥へと消えた

寒いって言うの禁止ね。そうやってあなたの白い息を奪った

ソックスとスカート丈の比率には十六なりの美学があった

【栗木京子選】
リモコンとソースが右手の位置にあるひとり暮らしの弟の部屋

【田村元選】
セーターの胸のあたりに鹿がいて、鹿のあたりへ抱きよせられる

街路樹へつながれたままの自転車にしずかな馬の横顔はあり

どちらかともなく笑う焼き鳥のすごい煙をくぐったあとで

扇風機本日結びの一番にのけ反る父をひらりとかわす

逃げ水を逃がさぬように子はじっとしゃがみこみたり八月の道

空っぽのトナーを振ってまた戻すわたしにエラーランプが灯る

この家にひとかたまりのパン生地のありて時計の針眠くする

【佐佐木頼綱選】
天気雨見上げるような心地するきみの対旋律を吹くとき

風に流される距離まで予測してそれは遠投のようなさよなら

チョキ出せば手をチョキに変え笑う子よ勝ち負けを知る日は遠からず

俯いて土を集める球児たちカメラの群れが腹這いで撮る

片方の車輪を上げて指先の先で競り合うボールの行方

ギリギリを攻めろと鏡の言うままに際の際まで引くアイライン

アロエにも痛みはあるか手折られた跡にたらりと雫あふれる

【大森静佳選】

木も空も見上げるたびに遠くなる秋のこころはサイコロの一

影を剥ぐ番がくるまで足跡のマークの上でお待ちください

母と子の一夜は巡るおおぐまとこぐまの距離を保ったままで

自転車で坂を下ればTシャツの鯨ふくらむ鯨が笑う

友達の恋人の撮る友達が好き さわれない結晶として

並ぶからさびしく見えるとまり木に涙の色のセキセイインコ

鳩尾へ伏せた文庫もぷかぷかときみの寝息の波にたゆたう

横顔の影と影との重なりをくちづけの文脈で見ていた

【佐伯裕子選】
HBと2Bは違う味だって教えてくれた隣の辻くん

指の長いひとだと気づくミーティングテーブルに向き合ってはじめて

性格の不一致あなたが香りつきトイレットペーパー買い来ることも

寝転べはわれは山脈みずいろのミニカーぐんぐん登りはじめる

ブロックの兵士一名救出すソファの深き谷の中から

十色のブックカバーを差し出して占い師めく店員の笑み

短歌ください

【穂村弘選】
ひとの手の形をつけるアルバイト機械が四角く握ったシャリに

三分の一持て余すゼロコーラちいさい蟻の後味がする

鯨座礁対処マニュアルに赤線で静脈注射の位置示される

文芸選評

【俵万智選】
保育園ひとクラスぶんの泣き声の中でわが子のパートソプラノ

【小島なお選】
金と銀迷ってやはりどちらでもないカステラをくださいと言う

【穂村弘選】
飛んでゆくだろうと思ったその鳩にすこしさわれてしまった右手

【遠藤由季選】
思い出す海辺のデートきみの手のタマゴサンドを鳶がさらった

天板にクッキーの星ならべゆき最後はひとつ満月を置く

【工藤吉生選】
この中のどれかは効くと母の言う黒ごまバナナきなこ豆乳

【東直子選】
ガラパゴスゾウガメくらい眠りたい光も痛みも鈍くなるまで

【斉藤斎藤選】
立ちながらしかし潰れてゆくんだな耳までやわらかい食パンは

短歌部カプカプのたんたか短歌

※既発表作を除く

スプーンで春の光をかき混ぜてあなたの告げる新しい姓

蝶番なんてないのになぜ胸は軋むのだろう雪晴れの日に

白は白でもいろんな白があると知るドレスの試着にきみを待たせて

声はすぐ記憶になってしまうのに髪をほどけば花火の匂い

絵葉書を一枚自分のために買う手のひらほどの旅だったこと

風過ぎてあなたのことを想ってたそんなに長くない信号で

星散れば花の生まれる万華鏡こころの方を暗くして見る

鬼やんまの影はひらめくたまにしか会わない従兄弟を思い出すとき

まだ寝てていいって言うよジャンクション過ぎればうすく目覚めるきみに

「おいだき」を押せば小指の爪ほどの炎がともる夜の液晶

東京歌壇

【佐佐木幸綱選】
カウンターの端で宿題解いている中華屋の子の足のぶらぶら

それぞれに翼のサイズある家族なり三人分Tシャツたたむ

瓶入りのりんごジュースの濃い甘さ「あたまがげんきになる」と子の言う

木を囲むベンチに先客ひとりあり三時と九時の位置へと座る

言葉では伝えられないブランコの漕ぎかた膝に子を乗せて漕ぐ

「お風呂ってむみむみしてる」と子の言いてそのむみむみに顎まで浸かる

銀色の卵のようなロープウェイみなとみらいの中空わたる

十二時間後にまた開くパソコンへ三日月色の付箋を残す

【東直子選】
「体温ハ正常デス」そう、それ以外ぜんぶ正常じゃないってこと

キンカンがしみるとやたらうれしくてしみるしみるとひとりでも言う

封筒の窓に雨粒 ほんとうに平気なのって訊かないでくれ

ほめ殺しの順番まわりほろほろと骨から外れる肉をよろこぶ

野性歌壇

【山田航選】
社員証青い光へかざすとき胸に魚の影は兆して

短歌の時間

【東直子選】
「大丈夫です」と何度か口にするシャンプー台の臨死体験

2021年をちょっと振り返り

驚きのnote更新しなさ!は置いておいて。
投稿先の変化としては、野性歌壇と短歌の時間が終了になりました。いつまでもあると思うな投稿欄、だなあとあらためて感じました。
反対に新しく投稿を始めたのは、NHKラジオの文芸選評です。たまたま俵万智さんが選者の回の告知を見かけて、その回に出してから投稿するようになりました。文芸選評は締切から放送までの期間が短くて、選者が毎回交代して、選者の方に歌を読み上げてもらえる可能性のあるところがいいなと思っています。あと、聞き逃し配信であとから聴けるところも。
新聞歌壇は東京歌壇のみ、毎週両選者に一首ずつ投稿しています。掲載されるペースはもちろんばらばらで、五ヶ月くらい載らなかったこともあったけれど、週報のような気持ちで淡々と続けていけたらと思っています。十一月にはじめて月間賞をいただいて、とてもうれしかったです。
これらの投稿先へ送っているものをあわせると、だいたい月に四十首くらいになる気がします。プラス、いちごつみなどでストックの歌になるものも少し。
これが多いのか少ないのかは分からないけれど、ほぼ一年続けてきて、あまり悩みすぎず形にしてみようと手を動かすようになったかなと感じています。そこから、五十首連作への挑戦にもつながった気がしました。

それでは、今年もTwitterなどでやり取りしてくださったり、作品を読んでくださった皆さま、どうもありがとうございました。日々いろんな方の歌に触れて、とても刺激を受けています。来年もよろしくお願いいたします!