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2023年掲載歌まとめ(と、ちょっと振り返り)

2023年に雑誌・新聞・ラジオ等で掲載や紹介された短歌をまとめました。媒体別、選者ごとに分けています。

最後に少し、2023年を振り返ってみました。


NHK短歌


【栗木京子選】
焼き増しをするねと言ってしなかった学祭のネガ光に透かす

おつかれ、と後輩に手で伝えつつ定時間際の電話を受ける

「旅立ちの日に」を練習する声は羽ばたくための準備のひとつ

【笹公人選】
今晩は深い話になりそうな気がして鍋でココアを作る

家なのにカップめんの湯をコッヘルで沸かすあなたの楽しげな顔

海からの侵略者たるホヤにこの身体をわたす訳にはゆかぬ

【江戸雪選】
メモ書きの付箋をさり気なく取って花屋は花束を送り出す

もうきっと会わないひとへ送るならさよならよりも手旗が似合う

別れたらすっきりしたと言う友の涙袋にラメがかがやく

元カレの名前を検索してしまう窓に張り付くヤモリのように

【佐佐木定綱選】
まだ父を恐れていたころライターの火は親指の魔法であった

【川野里子選】
僕たちが遠心力を教わった回転ジャングルジムはもう無い

硝子壜に閉じこめられた星砂のひとつひとつに死のかたちあり

妹のまっすぐ進まぬ背泳ぎはどこを指しても夏の矢印

天気図をかつての予言と思うとき前線はうつくしい渡り鳥

【山崎聡子選】
柴犬が「わふっ」と言ってひとりごとなのかくしゃみなのかわからない

すごろくのようにここまで来たのだと予防接種の済んだ印を

持たされる風船ばかり増えてゆく中堅という着ぐるみを着て

今日中の依頼を夕方受け取ってワニクリップに髪を喰わせた

大回りに春のキリンは振り向いて子に足元の草を教える

次に会う予定の話にならぬよう氷ころがす蜂蜜梅酒

遅れてくる友は入道雲のようランチの店を勝手に決める

【吉川宏志選】
つくしからたんぽぽになる春に子の髪はようやく二つに結える

青と黄の花束の上に花束の積み重なりき去年の春は

校歌にある峠はどこか知らぬまま窓につらなる山を見ていた

ゆらゆらと子を抱きながら覗きこむスーパーボールすくい、きれいね

一人称いったりきたりする子なり雲から雲へすべるあめんぼ

プレハブの灯油売り場に立つひとの手をあたためるための火は無く

梅ガムの味のごとくに快速のないふるさとの景色は続く

鯖缶とわたしに同じ背骨あり輪切りの検査画像を見れば

【岡野大嗣選】
あまりおしゃれはしないであげる出張で東京へ来た父と会うとき

途中からあくびになってそのまんま終わった話、蝶々みたいだ

春を待つ土はやわらか予約席みたいに花の名札を立てて

まだ明るいプラネタリウム星を見る角度の椅子できみと話した

暮れてゆく空にひとことひとことを区切って話すMC響く

どこか変だけどどこかは分からないそういう顔の証明写真

可能性しかないなって言う側に立ってた波を見送るうちに

県境いくつも越えてもう何も言わなくなった夜はオレンジ

東京歌壇

【佐佐木幸綱選】
〈校了〉の赤いハンコを捺すように大掃除終えすするぜんざい

新しい課名を電話で名乗るとき砂消しに似た舌ざわりあり

ひとつだけ浮かんだ雲はあくび雲ゆっくり動くような気がする

縁日にふわふわではなくシャリシャリのかき氷との再会果たす

晴れた日の連絡袋におたよりと抜けた乳歯を子は持ち帰る

前任のWordファイルに生きていた平成三十五年を葬る

【東直子選】
評価に頭下げるふりして窓の外小文字のように舞う雪を見た

フラミンゴの脚がこわいよかあさんと呼ばれているのはわたしなのにね

花びらや羽根を浮かべて死んだふりしている春の川なまぐさい

さらさらと母の言葉も受け流すサボテンアイスのうすみどりいろ

たましいは白髪の方に宿るから抜くなら夜に抜くのはあなた

もうひとり後で来ますと口にして振り返るここにいないあなたを

膝裏に亜鉛華軟膏冷えてゆくこの子に残る火の粉を消して

ユーカリのように水飲む言いたくはないことばかりの会議のあとで

疲れ果て眼鏡のままで眠るときわたしを安置するのはわたし

短歌ください

【穂村弘選】
わたしたち一緒に太ってやせるのとルームメイトのふたりが笑う

国道の夜を走ればどのボタン押しても餃子の自販機がある

自転車の前と後ろに乗せられたきょうだい口でじゃんけんしてる

ポケットの塩の包みに気がついた父がまた玄関を出てゆく

文芸選評

【奥田亡羊選】
トランプを切っても切ってもスペードの3が手札にひそむ朧夜

【伊波真人選】
たまに思い出してくださいベランダに洗濯物が舞い込むように

【梶原さい子選】
一年に一度会うのがちょうどいい先輩と翡翠麺食べにゆく

【川野里子選】
母さんがヒメフォーク添えて梨を出すここはわたしの家だった家

【岡野大嗣選】
新しい石鹸にちびた石鹸をくっつけてやるこれが前世よ

短歌部カプカプのたんたか短歌

※放送紹介分のみ、既発表作除く

語り手の言葉ひとつで訪れる人形劇の嵐はしずか

高校は私服だったと話すとき触りたくなるパーカーの紐

新雪に踏み入るように眼鏡屋はわたしの耳の裏へと触れる

一時間分の氷と引き換えの銀のコインに額面は無く

ため息のかたちのままで紫のゴム手袋は夜のシンクに

黒飴をくれたひと皆いなくなり喪服を着ると大人みたいだ

その他

うたらばフリーペーパーvol.34
8首連作「紫陽花の垣根」

獅子座短歌アンソロジー「獅子座同盟11」
7首連作「星と塩と」

2023年をちょっと振り返る

年に一度のnote更新もよいものですね。
さて2023年をちょっと振り返ると、投稿先に大きな変化はありませんでしたが1年間コツコツがんばりましたとはちょっと言えない感じだったかなと思います……。
昨年からの推し活の比重が大きくなってきて、明確な締切のない新聞歌壇への投稿は間隔があいてしまいがちでした。でも後悔はしていません。「推しは推せるときに推せ」という言葉もありますし、推しのサイン会に行けてこの世の心残りがひとつ減ったし、獅子座同盟とうたらばの連作は推し活をしていなければ書けなかったものなので。
新人賞の連作は角川短歌賞と歌壇賞に出すことができました。今までのストックも使いながらですが、書きたいと思うテーマがあればなんかかんかして組み上げられるようにはなっているのかなと思います。来年の分、ノープランです。
昨年のnoteでやりたいと言ったネプリは実現できませんでした。素材があるにはあるのですが、あれこれの段取りに着手できず……。引き続き2024年にやりたいことです。
それでは、今年もTwitter(断固としてTwitterと呼ぶぞ)などでやり取りしてくださったり、作品を読んでくださった皆さま、どうもありがとうございました。日々いろんな方の歌に触れて、とても刺激を受けています。来年もよろしくお願いいたします!