短歌連作『残夏(ざんか)』
『残夏』
紙おむつに名前スタンプ押しながら年次休暇の残を数えり
ひまわりと背比べしたことのない子にひまわりのTシャツ着せる
他人(ひと)の目があればやさしくなれるのに桃の葉ローションゆらす手のひら
寝言でもいやだいやだと繰り返す熱帯夜から逃れられずに
「むし」と子の指した骸に「せみ」の名を与え直してやったつもりか
鳥籠の時間とおもう体温計さえずるまでの三十秒を
一人きりの病児保育のおみやげにすいかの風船抱えて帰る
「わたし」という言葉をきみは手に入れて夕立前の風の匂いだ
あるようでない選択肢 昼寝から覚めた子の髪しっとりと濡れ
すぐに手を振りほどかれる夏木立わたしひとりの道なのだろう
ひとこと
ほぼ一年前、短歌連作サークル誌「あみもの 第三十二号」に投稿した連作です。子が八月生まれなので、三歳になった記念・記録のつもりで編みました。
一年前と今とで変わったのは、子がだいぶ自分の言葉で話すようになったことかなと思います。ちょっと面白いことを言ったりすると、おっ!とメモって短歌の種にしています。
反対に変わっていないところは、わたしの意識や親としての立ち位置みたいなものかなと思います。うまく言えないですが、子どもが生まれてから今までずっと「血の繋がっている子ども」ってどういう存在なのかがわからないままです。子と接するときはいつも自分の不安定さを嫌というほど感じてぐらぐらしてばかりです。
来年のこの残夏(ざんか、勝手な造語です)にはどんなことを考えているのかな。