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短歌連作『夜の国』

『夜の国 ーやなぎみわ展 神話機械ー』

My Grandmothers
二度とない今夜を愉しく生きるのさ化粧の上に化粧重ねて

冬の森つもりつもれば目覚めない朝も仄かな希望になった

Fairly Tale
午前0時鏡を見れば一夜ごと老いるわたしの手に毒林檎

エレンディラ、帰っておいで 白鯨の歌は砂漠に響きつづける

髪も歯も骨もさらさら喪って死ぬまで砂を産む器たち

女神と男神が桃の木の下で別れる
あたたかく湿った風と桃たちの吐息の混じりあう夜の国

桃の実にうっとりとまるアブラゼミ腹上死とふ言葉がよぎる

生き死にを数で語るな すずなりの桃が見下ろすよもつひらさか

桃を投げる
あめのよる、ぼくはおおきな犬になる。きみのにおいをたどれるように

逃げないで、追いたくなってしまうから。きみしか見えなくなるのがこわい

ぐちゃぐちゃにむさぼったあとはけだるくて種だけ奥歯にころがしておく

神話機械
黒服の女ふたりがしめやかに神話機械のスイッチを押す

頭骨が綺麗に砕ける瞬間を見守っている僕らの頭骨

讃、讃、讃 頭がなくても喝采を送る機械になればいいんだ

カノープスあかく輝く人類が滅びたあとの再演の夜

ひとこと

短歌連作サークル誌「あみもの 第二十四号」に投稿した連作です。
2019年11月に神奈川県民ホールで『やなぎみわ展 神話機械』を鑑賞して、作品から感じたことを短歌にしました。
展覧詠にはじめて挑戦しましたが、とっても難しかったです。気を抜くとすぐ、説明書きを抜粋したみたいになってしまって、ウンウン唸りながら作った15首でした。

やなぎみわさんの作品は、写真を中心に公式ホームページでもいくつか見ることができますので、ぜひ短歌とあわせてご覧ください!

また展覧会行きたいな。ヨコハマトリエンナーレに行こうかどうか迷っています。